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君に伸ばされた手を

時代設定が1990年と古いです。平成2年のお話です。

えっ、と思われる設定には温かい心でお願いします。

 真実は、電話のベルがけたたましく鳴っている音で目を覚ました。二日酔いで痛い頭を無理矢理ソファから引き離す。自分のベットの枕からではないではない。いつのまにソファで寝ていたのだろうか。覚えが無い。昨日、酒を飲みすぎたせいだ。時計を見る。昼前の十一時三十分、両親は既に仕事に行ってしまっているようだ。足元にいつのまに開けたのか、空のブランデーの瓶が転がっている。そして、ソファのある居間の低い机の上には昨日届いた封書の中身、千鶴の家から帰った次の日に届いていた長い手紙が散乱している。

 両親は、真実をそっとしておくことに決めていたようだった。

 真実は、眉をしかめて痛みを耐えながら立ち上がった。

 電話は鳴り続けている。一度切れて、思い直したように再び鳴り出していた。

 誰だ。

 真実は、誰とも話す気分ではなかった。ここが自分の家でなけば、その電話は無視していただろう。長年の、電話が鳴ったら出る、その習慣だけで受話器を取った。

「清水です。」

 我ながら、しわがれてる声だと思った。

「あー、ごめん。寝てた?渦間だけど。」

 真実は、やな奴から電話だと思った。こんな時でなければいい。面白いし、いい奴だ。だが、お節介が過ぎる。何にでも首を突っ込みたがる。今回の千鶴の事にしてもだ。サイモンとつるみ、死人を冒涜する。その考えには併合しかねる。その事は昨日の朝、サイモンに直接言ってしまっている。言い過ぎたかもしれない。もしかして、その事で電話してきたのか、ならば呆れ果てるぐらいのお節介としか言いようが無い。

「なんだよ。今、忙しいんだ。」

「いや、な。大丈夫かと思ってな。」

「なんのことだ。おとといの話しの蒸し返しかよ。」

 渦間は間を置いた。

「いやさ、友人じゃん、俺たち。だからさ、もう一回、確認したくてさ。北巻しぐれと河原千鶴、お前。親しかったんだろ、それもすごく。」

 真実は答えない。

 渦間は、すこし躊躇ったようだったが、言い切った。

「……死ぬなよ。……いや、殺すな、かな。」

 唐突に胸に膨れ上がった怒りに、真実は我を忘れそうになる。真実は歯を食いしばった。

「渦間。何が言いたい。」

 受話器の向こうは沈黙している。

「……どこまで知ってるんだ。」

「しぐれさんが、義理の父親と……。」

 真実は渦間の言葉をさえぎった。真実に渦間が推測でものを言っているなど、分るべくもない。

「もういい、わかった。」

 真実は怒りを静めようと荒い呼吸をする。深呼吸をして言った。

「千鶴の事も、分ってるんだろうな、その分だと。」

「高校一年の文化祭で、あった事は聞いてる。」

 真実は渦間の情報収集力に驚いた。

 さっき感じた怒りは、おさまろうとしている。

「なんで、おととい、津田沼駅に来なかったんだ。」

 おさまりかけていたものが、再び首をもたげた。

「……それ以上、いうな。お前等の、死人を冒涜するその非現実的な思考を、吐くな。」

「……俺は、なんで、おととい、津田沼駅に来なかったんだと聞いただけだ。」

 渦間の言葉は、冷たく、人のものとは思えない。

「………千鶴の実家に、千鶴に会いに行ってたんだ。」

 真実も、答えた。

「そうだったのか。……済まん。」

 渦間が謝った。そして、じゃあと言って電話は切れた。


 真実は、惚けたように上を仰いだ。

 のろのろと居間の机に近づくと、散らばっている手紙をそろえ始める。書いてあった事は、長年の謎の答えと自分の愚かさを露呈させていた。二人は、二人だけで一年前に会って、自分達の事を相談しあっていたのに。俺は仲間から外されたのか。真実は思う。しかし、そんな二人ではなかった事は、自分が一番良く知っていた。

 子供過ぎたのだ。

 自分が。

「はっ。」

 何かがおかしくなって、真実は声を上げた。

「ははっ。」

 引きつったように、笑いが出て来る事に真実自身が驚いた。

「はははっ。」

 それは、いつしか乾いた笑いになる。ぐちゃぐちゃだった。自分の心の中が。それは、もう取り返しがつかない。

 泣く事は許されない。

 真実は思った。

 償わなければならない。

 何を。

 想いだけが空回りする。

 全てが非現実的だった。

「はははははっ。」

 笑い声だけが空しく響く。それはそこから抜け出すための暗い決意が、真実の中に生まれた瞬間だった。


 終わり

 






 あとがき


 有り難う御座いました。

 感想はいかがだったでしょうか。もし、身近に冒険があるのだとしたらこんな冒険はどうだろう。と言うコンセプトでこの小説を書きました。なかなか難産で、色々な方からの助力で、ようやく完成に漕ぎ着ける事が出来ました。

 この小説に出て来る主人公達を始め何人かは、モデルがいますが、行動パターンや会話の喋り方を参考にしたのみで、その考え方などは私の想像であることをここに断っておきます。

 それでは、次の機会に、このような場でお会いできることを願って、さようなら。

 執筆開始:1990年 平成十年二月十九日(1998年脱稿)


 時代設定はそのままに、校正をしました。

 長編なので、時代設定の修正は困難でした。景色描写が総入れ替えになりますので、苦労のわりに報われないと思いました。

 約30年前の小説を公開するにあたり、必要だと思われる部分は修正しています。

 8年かけただけあって、一応、小説にはなっていると判断。

 十話 加賀美 では、サイモンは霊力を使用して、時空を歪ませています。二十三憑依 では、ちょっと読みにくい体裁をとっていますが、それは、もっと読みにくかったものを修正しています。何を思って、そのような手法をとることにしたのかはすでに覚えていませんので、多分、そんなに重要ではないと判断しています。

 読み返して、思い出せる思いはそのまま、修正可能な部分は修正しました。

 30年もたつと大人になりますね。ちょっと現実的ではない展開ですが、「大人になる前の感性に捧げる」のであれば、ありなのかなと思いました。当時、何を考えていたのか自分でもよくわかりません。

 時空を歪ませている伏線を全く回収していないので、シリーズものとして設定していたようです。次回作を考えてみます。

 また、8年ほどかかるとは思いますが。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 2025年8月(校正)

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