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光の中で

時代設定が1990年と古いです。平成2年のお話です。

えっ、と思われる設定には温かい心でお願いします。

 二人の少女が再会したのは、互いが一度も降りたことの無い駅。八月、暑い夏の日だった。太陽の光はまぶしすぎるほどで、周りの景色が真っ白く見えるかのようだった。

「ひさしぶりー。」

 二人は互いの手を取って再会を喜び合う。飛び跳ねんばかりの喜び様は、側を通りぬける人が視線を向けるほどだった。

「どこに行こうかー。」

「ここに来るときに、可愛いお店見つけたよ。」

 二人は慌ただしいようにも見える口調で語り掛け合う。

「安心した。わたし。色々聞いてたから。でも、お姉ちゃん変わってないね。」

 お姉ちゃんと呼ばれた少女は微笑みを見せた。

「千鶴ちゃんも。」

 千鶴と呼ばれた少女は嬉しそうに笑って、お姉ちゃんの腕に自分の腕を絡めた。しかし、その行動は恥ずかしかったのか笑いながらお姉ちゃんのお尻を叩いた。「何すんの、ほんとに全然変わってないんだからっ。」少女たちの笑い声が光に消えた。

 二人は九年ぶりの再会だった。昔、二人の少女は、もう一人の少年と三人で幼馴染だった。お姉ちゃんが十歳のとき、千鶴は引越しをしてしまっていた。千鶴は、それからお姉ちゃんの身に起こった様々なことを少年からの手紙、たまの電話で知っていた。正月にかかってきた電話で、少年が言っていた言葉が思い出される。

「もう、いい。もう、何がなんだか分らない。何も答えてくれない。何を言ってもだ。悲しそうに笑っているだけだ。笑っているだけだぜ。テレビか小説の一シーンじゃないんだ。ドラマじゃないんだ。……一人で、何とかするんだと思う。」

 太陽は中天を過ぎ、夕刻に向って傾き始めている。しかし、見あげる陽は、眩しさそのものだった。二人でウインドショッピングを続けながら、しかし、会話は他愛の無い物ばかりだった。互いが一番知りたいこと、話したいことにはなかなか触れる事が出来ない。共通の話題である少年のこともその会話には登らない。黄色い声と、互いの目を見て時間を確かめ合うその時間の後に、お姉ちゃんの方が千鶴に言った。

「何で、私に会おうと思ったの。」

 千鶴が答えた。

「お姉ちゃんなら、私の気持ち分ってくれるかなぁって思って。」

 二人は雑貨屋で、アロマテラピーのろうそくを手に取りながら話していた。

「どうして。」

「……私、やっぱりちょっと変なの。」

 千鶴は、今年の、高校一年の春、文化祭の準備中にあった出来事をお姉ちゃんに話した。幼い頃に、同じようなことがあったのを少年とお姉ちゃんは知っていた。それは、三人しか居ないときに起った出来事で、三人は幼心に誰にも言うまいと誓ったことだった。

「真実ちゃんには、相談したの。」

 千鶴は首を振った。

「心配、かけたくない。」

 お姉ちゃんは複雑な表情をした。そして、言った。

「まだ、……好きなの?」

 何も答えない硬い表情は、それを肯定していた。

「全然、会ってないんでしょ。」

 頷く。

「会えばいいのに。」

 千鶴が顔を挙げた。

「お姉ちゃん。」

 お姉ちゃんは、千鶴を見ていなかった。遠くを見ていた。千鶴は言った。小声で、泣きそうに、囁くように。

「……いったい。何があったの。」

 お姉ちゃんは眉根を寄せた。

「そんなこと、気にしなくていいのに……。」

 二人は雑貨屋を出た。

 夕焼けが、辺りを照らしていた。

「お酒、飲もっか。」

 お姉ちゃんが突然言い出した。千鶴は目を丸くしたが頷いた。

「飲んだことはない?」

 千鶴の首が何度も上下する。お姉ちゃんが千鶴の手を取った。最初おずおずとお姉ちゃんの後をついていたが、段々足取りが軽くなる。有名なチェーン店で、二人はテーブルを挟んだ。「ムスっとした顔をしててよ。そうしないと千鶴ちゃんは未成年ってばれそうだから。」「いいな。お姉ちゃんは美人で。」「それを言うなら、大人っぽいよ。」千鶴の言葉は嘘ではない。

 千鶴はサワーを、お姉ちゃんは強めのお酒を選んでいた。早い時間だが、長期休暇のシーズンで人の数は多い。一度、二人の男が声を掛けて来た。

「二人なのぉ。」

 千鶴が目を丸くした。お姉ちゃんが答えた。

「まあ、そうだけど。」

「俺達は四人なんだけどさ。」

「うーん。ごめんなさい。今日はそんな気分じゃないの。」

 男の一人が、馴れ馴れしく首を近づけてきた。

「憂さ晴らしになら付き合うよ。」

 顔の良さにまあまあ自信があるだろうタイプ。千鶴は怖さに身を竦めた。男の目がギラギラしていたからだ。まだ、見た事のない目付き。お姉ちゃんは、千鶴のその態度に気がついていた。

「本当にごめんなさい。そんな気分じゃないの。」

 男も若いように見えた。二人の少女をどのように見たのか。しかし、そこでしつこくするほど野暮でもなかったようで、二人は席に戻って行った。聞こえるような捨てぜりふが二人の耳に聞こえた。

「お高くとまってるよなぁ。」

 千鶴が、お姉ちゃんに言った。

「男の人の、ああいう瞳は見たことがない。」

「うん……。」

 お姉ちゃんは言葉を濁した。

 そんなものじゃない、もっと凄い。

 二度とその人を、見つけられなくなるほどのものもある。

 その想いは口には出来ない。しかし、いや、とお姉ちゃんは思った。言うべきなのかもしれない。その話しをするためにこんな所まで来たのだから。言わないでいることが簡単なのかもしれない。普通の人にならば、間違いなくその選択をした。

 お姉ちゃんは、目の前の少女を見た。

 不思議な感性を持つ少女。

 小さい頃、目の前で起こった交通事故を見て、血だらけになってしまった少女。泣きながら、少年と二人で少女の服を脱がしてお風呂に入れたら、何の外傷もなかった思い出が頭をよぎる。お姉ちゃんは、今の私たち三人の関係に一番、心を痛めているのは間違いなくこの少女だろうと思っていた。

 その少女が千鶴なのだ。

 お姉ちゃんは、話し始めた。

 それは、あまりに過酷な現実を、提示した。

 店の蛍光灯の光が、眩しさを増していることに気がついた。その光は、二人を包み込むように思えた。


1990年から1998年で書き上げた作品を投稿します。

少し手直ししました。よろしくお願いします。

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