僕の秘密
「うーん、やっぱり違うな。」
「先輩、本当に違うんですか?俺は信じられないですけど……。」
「そしたら明日…は無理だから明後日行こう。」
「先輩明日休みですもんね。毎週休み取ってますけど何してるんですか?」
「秘密だよ。信二だって毎週休みを取ってるけど何してるんだ?」
「あ、俺はデートっす。」
「くっ、リア充め。」
仕事後、車を走らせある場所に向かう。そこはこのご時世に珍しい電波が入らない集落だ。住民に「おかえり!」と声をかけられながら辿り着いたのは牛舎だ。
「モー子、ただいま!元気にしてるかい?」
「モー!」
「モー子、嬉しそうじゃのう。」
モー子は施設で生まれた牛だ。家畜に関してはクローンを作成して同じ個体を生み出しているが、どうしても突然変異で違うものが生まれることがある。モー子もそれだった。違うものは処分するのがルールだが、僕はモー子が可哀想で密かにここに連れてきて、住民と共に世話をしていた。
「いやー、お前さんたちが来てから毎日が楽しいわい。」
「僕もここへ来るとなぜかホッとするんです。」
そう、日常生活でふと視線を感じることがあるのだが、ここではそれがない。だからモー子の世話をしがてら、この集落でのんびりするのが僕の息抜きだった。
後日、後輩と一緒に閉店間際にあのカレー店を訪れる。
「いらっしゃいましぇ!あ、あの時のお兄ちゃんだ!」
「こんにちは、また食べに来ました。」
前回と同じでカウンター席に座ってカレーを食べる。美味しい、やっぱり僕が作ったのと違う。後輩もそう思ったのか、「先輩のと全然違いますね。」と首を傾げている。
「お客さん、また来てくださったんですね!カレー作ってみました?」
店主が話しかけてきた。
「はい。レシピ通りに作ったのですが味が全然違いました。」
「でしょ!だから材料が良いって言ってるじゃないですか。」
「ちなみに材料はどこで調達しているんスか?」
後輩が思い切って聞いてみた。だがやはり「秘密です!」と教えてくれなかった。