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嵐の星のもとで  作者: 音頭
序章
9/30

トリック

「一体どうやって、殺したんだ?」


双葉が殺人犯だと仮定しても、そのトリックは不明のままだ。

彼女には完璧なアリバイがある。

その条件を満たしながら、犯行を実行する必要がある。


「どうやったら、可能なんだ?」


この部屋の扉は建付けが悪く、そっと開けるにしても音が必ず出る。

ばれずにってのは難しい。

入った途端で、気付かれる。


「ねえフライさんってなんで双葉ちゃんが犯人であることを知っていたんだろう?」

「なんでって、そりゃあ…あれ何でだ?」


双葉は生存者の欄にも書かれていなかった。生存者の欄に書かれていたのは霧雨椎名、全く知らない名前だった。死んだところにも名前はなかった。

つまりはフライは全く関係のない人間を犯人だと断定したんだ。

(でも、ありえないよな。)

フライが何者であるかは分からないが、断定するのはそれなりの理由があるはずだ。

そのカギが手帳に書かれているはず。

俺たちはそれを読み解くことにした。


「キツイ、無理だ。」

「もう目が痛くなってきた。」


ダメだ。あまりにも事細かに記録されている。文字読みすぎて目が痛い。全然情報入ってこない。

1年間の30人に関する行動記録は書かれてはいるが、主に書かれているのはその死体の解剖に関する記載。しかもかなり専門的なことが書いてあるっぽい。フライは何者なんだ?

(なんだよ、鱗粉の幻覚・幻聴による誘導効果って意味が分かんねえよ。)

それで狂暴化したって書いてあるが、本当か?

確かに突如として3カ月時点で行動が変わっていってるから、辻褄は合うんだけど…。

根拠としては冬に飛ぶ不可解な蝶、クロカゲのことをコックローチと呼ぶ少女、蟲融人による犯行…

分かるか!理解できる範疇を超えてる。

読めば読むほど?マークが増えていく。


「蟲融人って何のことだろ?」

「さあ?」


生物融人なら言っていたが、そのお仲間だろうか?

ぶ~ん

ハエが現れ、手帳の前のページのほうへと消えていった。


「このハエって何なの?」

「さあ、でも助けてくれてるのかなあ?」


詰まったときに現れる。確かにお助けキャラのようなものかもしれない。

ただ、もう少しかわいいキャラだったらテンション上がったんだけどなあ。

取り敢えず消えたページを開く。

見出しには生物融人と書かれていた。


生物融人は個であり集である。

持つ能力は3つ、遺伝能力(ジーンアビリティ)・眷属召喚・眷属変換・眷属分解である。

遺伝能力は遺伝子として刻まれた生物としての力を行使できる。耐性や攻撃的なものも含まれる。

眷属召喚は自身の分身の眷属を呼び出す。

眷属変換は損傷した部位を眷属に変換する。

眷属分解は体を眷属に分解する。

蟲融人(インセクトマン)鳥融人(バードマン)水性融人(ウェイルマン)爬虫融人(レプタイルマン)両生融人(アンフィビマン)が存在するが、両生融人は絶滅した。


なんでこっちを説明してないんだよ。どう見ても大事じゃないか。何が概ねだ。全然じゃないか。

進化という強力な力を持ちながら、自らの体を再生できる防御能力確かに究極生物と言っていたのも頷ける。


「この眷属ってもしかして蟲融人なら虫のこととか、種類のことを表しているんじゃない?だって、フライさんいつも現れるとき、ハエが出てくるし、ハエなら扉の隙間から簡単に出てきて、気付かないうちに背後取れるから、神出鬼没なのも納得できるもの。」


優花の言ったことはとても説得力があった。

だったらあのハエはフライの眷属なんだろう。だったら、なんで動くんだ?本体が死んだのに動くってのは気味が悪い。まさか…本当に幽霊?


「…考えるのをやめよう。」

「??」


これ以上は寒気がするので、考えるのをやめた。


「そうだ!蝶はどうなったんだ?」


今更ではあるが、思い出した。ナイフを引き抜いた際ハプニングがあったから、まったく気にしていなかったが、その虫を調べ損ねていた。

蝶が落ちたところであろう場所を見たら、そこには灰のような塵が落ちていた。


「塵になったのか?」


蝶が死ねば、塵になるのだろうか?蝶は風化していたのか?

なんだか目の前で異常な光景を見てしまっている気がする。


「眷属?」


優花はぼそりとつぶやいた。

そのつぶやきが俺の頭に閃きを与えた。


「冴羽双葉は蟲融人?」


これが出した答えだった。


「でも、双葉ちゃんはどうやって殺したの?」


次の課題はここだ。どうやって殺したかだ。

死因は刺殺だ。これをどうばれずに実行したかだ。


「眷属を用いたら、密室の環境下でも可能じゃないか?」

「蝶がナイフを持って突進したっていうの?」

「でもそれだったら、不意打ちにならないか?」


この奇想天外の発想、間違えなく不意打ちになってしまうだろう。


「確かにそうかも、このナイフとっても軽いの。おままごとに使うプラスチックのナイフレベルで。」


優花はまさかの納得してくれた。しかし待て、それは刺す能力があるのか?


「まさ君が思ってることわかるよ。このナイフ、殺傷力があるのか?って思ってるんでしょ。」


流石は幼馴染、よくわかっていらっしゃる。


「ナイフの刃に文字やら雷っぽい模様やら刻まれている。私これ知ってる。確か魔導刻印って呼ばれるものだったはず。原理は魔素を流したら刻印に刻まれた通りの効果が発動するってものだったはず。だから、おもちゃが凶器へと変わり経てもおかしくない。」


ほへーそんなトンデモ効果があるんですねえ。流石異世界。

とにかく今はやり遂げたって感覚がすごい。トリックを解いたこの達成感に浸っていた。

後は香水の謎を知りたいな。落ちてるだけじゃなくて、充満してるんだから。結構謎なんよ。

しかし、次の瞬間に熱は冷めることになる。

コッコッコ

扉の外から階段を降りてくる音が聞こえてくる。双葉がゆっくりと降りてくる音だ。


「優花」

「うん。分かってる。」


最悪だ。この部屋には隠れる場所がない。

武器になるのはステッキだが、そのステッキ自体がピアノの椅子らへんに移動してしまっている。

(いつの間にそこに。)

取りに行く時間なんてない。優花を隠すように前に立つ。

(最悪、優花だけでも逃がせるだろ。)

ガチャリとドアノブが回る。

俺たち二人の間に緊張が走る。


「あれ、なんで?」


扉を開けた双葉は予想とは違い驚いた様子だった。


「まあ、でも何もできない2人だけならいっか。もう猫被らなくてもいいわね。」


双葉の口角が上がる。

ぞくりと悪寒がする。そして、確信する。あの日記は本当だったと。フライを殺したのはあいつだったと。


「双葉ちゃん、あなたが…。」

「なんで知ってるのかは知らないけど、そうよ。私がやったのよ。30人殺しの犯人は私よ。」

「どうして!?」

「単純な話よ。私をこけにしたあいつを絶対に許さない。そのためにやった。みんな鱗粉なんて簡単に吸い込むから。操るのは簡単だったわよ。コックローチがあんなことをするのは計算外だったけど、でも追放できたからいいのよ。あのオークがいなかったら、上手くいっていたのに。」


コックローチはクロカゲのことだろ。オークは多分スターチスのことだよな。だが、あいつってのはいったい誰のことなんだろうか。


「フライはバカだった。いえ、私がうまくやりすぎたのね。後は貴方たちを殺すだけ。」


双葉は懐から包丁を取り出す。


「さようなら。」


俺は震える足を前に出して、優花の前へと踏み出す。


「まさくん!」

「優花、ごめん。」


今こそ正しく勇気を振り絞る時だ。自分を奮い立たせる。

その瞬間だった。

バチン!

急に電気が消え、停電した。


直ぐに電気は復旧したが、前に見えた光景にぎょっとした。

目の前には胸に穴が開いた女性が現れた。その穴からは赤い液体が流れ落ちる。その胸の空洞から双葉の顔を見れる。


「全く何よ…。なんであんたがいるのよ。梨花、あんたは死んだんじゃ…。確かにこの手で…。」


その顔は青白く、ひどく動揺していた。

バチン!

再び電気が消え、暗転する。


またすぐに復旧し、女の姿はなくなっていた。あったのは女がいたところに赤い液体の水溜りがあっただけだった。

(梨花は幽霊だったのか?あの時に鳴ったピアノあれは…。)

俺は完全にビビってちびりそうだった。さっきまでの覚悟とは裏腹に怯えが前面に出てしまった。


「…。」


だが、双葉も怯えていた。

その瞬間だけ時間が停止していた。


「馬鹿馬鹿しい。幽霊なんかいるわけないでしょ。過ぎた茶番ね。」


言葉を吐き捨て、一歩ずつ俺に双葉が近づいてくる。

(ここまでか。)

そう悟った時だった。


「ッ!!」


突如として、彼女の足が切れ血を吹き出し、倒れこんだ。

その切り付けた犯人は空中に浮かぶ抜かれたステッキだった。

(幽霊って存在するんだ。)

俺はもう限界だった。もうよくわからなくなっていた。

よく見ると帽子も浮かんでいる。


パチン!

指を鳴らす音が聞こえる。


「ハハハハハ、さあさあここまで。お楽しみいただけたかな。」


目の前には帽子をかぶりステッキを抜いたフライが現れた。








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