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嵐の星のもとで  作者: 音頭
序章
8/30

犯人

「なあ、この世界に電話ってあるのか。」

「そんなのないわよ。どうしてこんなことに?」


思いがけないものを見て、俺は頭が真っ白に、優花は頭を抱えてしまい、2人してパニックになっていた。

ガチャン!

後ろから思いっきり扉を閉められたような音がした。


「もしかして…閉じ込められた?」

「嘘…そんな…。」


叩いたり、体当たりしてみても、扉は外から抑え込まれているように、びくともしない。

ちらりと優花のほうを見ると、体を震わせて、目尻には涙を溜めて、限界が近いことが伺えた。

(落ち着け、優花の前で弱い姿は見せるわけにはいかない。)

身体を叩いて、喝を入れる。


俺はそっと震える優花の手を握る。


「まさくん…?」


彼女は困惑しながら、こっちに顔を見せる。その様子は困惑以上にとても不安そうだった。


「大丈夫。どこもいかないから。」


安心したのか握り返してくる。


「とにかく突破口を探そう。」

「(こくん)」


無言で頷いて、俺の手を握りながら付いてきてくれる。

(昔行ったお化け屋敷を思い出すな。あの時と比べるとかなりましになったな。

特に泣くわ、怒るわでとんでもなくカオスだったからなあ。お化けの人から気を遣われたぐらいだったから…。)

思い出話はここまでにして、どこから探索すべきなんだろうか?

倒れているフライ、他には床には落ちている割れている瓶、散布されたように拡散された透明な液体。

まあ、フライからだろうな。


近くにあるピアノは新品なように綺麗で、埃1つない。椅子の座面はへこんでおり、少し前に誰かがそこに座ってたのだろう。間違えなくこれらは誰かが使っていた証拠だった。

ピアノの足にもたれて倒れているフライは帽子を深くかぶり、鮮血の水溜りに横たわっていた。

正直、深くかぶる余裕があるのなら、逃げられた気がするが…。

もしかして、自作自演なのか?


ぼっろ~ん


「「ひい!!」」


独りでにピアノが鳴った。俺たちは同時に飛び上がった。

急いで、ピアノを確認するが、そこには誰もいない。


「い、今ピアノが鳴ったよな。誰もいなかったよな。」


こくこくと優花は首を振る。

なんだ?ポルターガイスト?

と、とりあえずは続けよう。

優花に悟られないように動揺を隠す。


脈は優花に測ってもらったが、何もない。冷静状態を欠いた彼女だから、信用できるかどうかは正味怪しいラインではあるが、俺が測り方よくわからないから黙っておく。

赤く服が染まっているのは正面の胸のところぐらい。多分心臓を刺されたんだろう。

後は左手に血がべったりとついてるぐらいか。


近くに転がっているステッキは軽く、振っても音はしない。多分何の変哲もないステッキなんだろう。

と思ったのも束の間、持ち手も持った瞬間、ステッキの下の部分が落ちた。


「本当にあるんだな。」


ステッキの中には大きな刃が隠されていた。

仕込み刀と言うものだろう。刃の表面は光が反射して、俺らの姿がくっきりと反射していた。指をすっと触れるだけでも、簡単に切れるだろう。

怖かったので、何も見なかったことにして、元に直し、元の場所に戻した。


要するにフライは何かに心臓を刺された。それで出血多量で死んだってことだろう。

問題はその何かだ。凶器となりえるものは何か?

1つは仕込み刀、でもこれはまるで新品のように綺麗で、血なんてついていない。

他には何がある。そこで見渡すと、目についたものがあった。

割れた瓶だ。


優花と一緒に割れた瓶のところまで移動して、手に取ると、それからはあのフルーティな匂いがした。

しかし、どの破片にも血は付着していない。そして、瓶は一升瓶のような大きいものじゃなく手のひらサイズの小さなもののように見えた。


「香水の破片じゃない?」


ふと優花が口を開いた。確かに言われてみればそれは香水の容器ぐらいの大きさな気がする。


「これで殺した?」

「これで殺したんだったら、ステッキで反撃で来たんじゃあ?」


確かにそうだ。フライはあんな武器を持っていたのに使うことができなかった。どう見てもこの破片じゃあ、殺傷力が足りなすぎる。反撃できたに違いない。

この問題のミソは反撃をされずに殺したってところだ。

フライの手元からステッキが離れているってのがその根拠になる。


だとしたら、何が凶器となったのか…困った。詰んだ。

そうやって困っている時だった。


ぶ~ん

宙に何かが飛んでいる音がする。


「蠅?」


それは蠅だった。蠅は俺が見たと同時のタイミングで、動き出す。

それを目で追うと、その先には壁に突き刺さったナイフがあった。

よく見ると、ナイフの先に何かが刺さっている。


「蝶?」


それは蝶だった。


「なんで、蝶がここに?それよりもどうやって取る?」


ナイフが刺さっている位置は俺と優花を足しても少し届かないような場所だった。


「まさくん、私を肩車して。」


優花は震えながら、口を開く。その提案は彼女にとって勇気を出した発言だった。


「大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。」


震えながらではあるが、彼女は勇気を振り絞っていた。

そんな彼女を見て、その覚悟を無下にすることはできない。


「優花、どう?」

「もう少し、あともう少し。」


彼女を肩車し、踵を上げて、高さを上げる。結構足にキテいて、プルプルとしている。かなり限界に近い。


「取れた。きゃあああ!」


彼女がナイフを引き抜いた瞬間、俺のほうにも限界がきて2人とも共に倒れこむ。


「痛ててて。」


俺の視界は真っ黒だ。優花の声だけが聞こえる。何が起こったんだ?

俺は状況を呑み込めない。


「まさくん、ごめん!!!!痛くなかった?」


どうやら彼女が顔にまたがってしまった。彼女のスカートがふわりと舞う。


「そうか、パンツの色だったか。」


俺は賢者になっていた。


「まさくんのえっちぃぃ!」

「ぷげあ!」


顔を真っ赤にした優花に思いっきりビンタされた。

その勢いのまま、吹き飛ばされ、びちゃあと滑る。どうやら、透明な液体のところを滑っていったようだ。

(これはあの瓶の中の中身か?)

その透明な液体はどうやら香水の液体だった。

しかし、その散布された液体は割れた瓶の場所よりも離れている。

(これもよくわからんなあ。)


「ごめん!まさくん。」


優花は謝ってきた。いつもの調子が戻ったようだ。

俺は安心した。


「優花、ところでナイフは?」

「うん、これ…気持ち悪い。」


そのナイフは血がべったりと貼り付いていた。

間違いなく、それが凶器だろう。


後は犯人だ。この密室の中で誰が殺人を実行できたのかだ。

見たことのない梨花か?

それだと、状況がかみ合わない。梨花は恐らくはピアノに座っていた。その状態から殺害をしようとすると、フライの姿勢は逆のはずだ。ピアノの足を背にして倒れていたのだから、その後ろ側にある椅子から刺したのならフライは後ろから刺されたはずだからだ。そこから倒れると考えると、仰向けに倒れるのが自然だ。

そもそも凶器のナイフの刺さっていた位置は、フライの位置から斜め上。そこから、フライは刺された後にそのナイフを投げ返したんだ。その射線上で事件は起こった。だからこそ、ピアノ側にいたら犯行は不可能だ。


であれば、双葉か?

双葉はフライが1人で下に行った際、俺たちと一緒にいた。だったら不可能なんだ。


そもそもの論なんだが、誰かだと認知できるのであれば、フライは対応できたのではないか?あの仕込み刀で返り討ちにできたような気がする。つまりは不意打ちだ。不意打ちできた存在こそが犯人なんだろう。ここが分からないんだ。


「結局は不明か。」

「誰もできないよね。」


今度こそ詰みかってとこだった。


ぶ~ん

蠅の音が聞こえる。

蠅はフライの服の中へと消えた。

(服の中に何かあるのか?)

俺はフライに手を合わせて、服の中を漁った。すると服の中から真っ赤な日記帳が出てきた。


「あ、日記帳。」


俺はフライが言ったことを思い出していた。

これにはあの事件のすべてが書いてある。そのことしかフライは説明してくれなかったが、もしかしたら、それが今回のカギになっているのかもしれないとそんな小さな希望を持って、優花と共に読みだした。


「なあ、優花。」

「うん。今、鳥肌がやばい。」


確かにあの惨劇のことが書いていた。その内容自体は話していたこととほぼ同じだった。

だがある1行だけが俺たちを戦慄させた。


実行犯:冴羽双葉


生存者に梨花の名前がなかったことよりも、実行犯の欄に双葉の名前があることが恐ろしかった。

なぜならそれはさっきまで一緒にいた子が殺人鬼だったからだ。


「犯人は冴羽双葉?」


それは信じたくもない真実だった。













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