表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嵐の星のもとで  作者: 音頭
序章
7/30

殺人現場

「優花大丈夫か。」


俺は優花の背中をさする。さっきまでの威勢のいい彼女の姿はない。完全に参ってしまっている。


ボロンボロ~ン。

地下から奇妙な音がする。


「ひ!」


その音を聞いて、優花は怯えてしまった。


「はあ~。あいつ、余計なことを。」


だがその音に心当たりがあるのか、フライは大きくため息をつく。


「仕方あるまい、行くか。」


フライは立ち上がり、部屋を出ていこうとする。俺はその様子を見て、付いていこうとも思ったが、優花が怯えて、服の裾を掴んで離してくれない。そのため、現在進行形でフライと優花の交互へ首を振って、どっちに行こうかと非常に困っていた。


「ここで待機しておけばいい。黙らせてくる。」


俺のことを気を遣ってか、1人で地下へ行こうとする。


「待って、なら何が起こってるかだけでも、教えてくれても。」

「双葉の同級生の梨花っていう我儘な小娘がいてね、そいつが地下でピアノを時より練習しているんだよ。だが、センスが壊滅的になくてな、ずっと聞いてたら鬱になる。」


ああ、だから地下にはいくなって言ってたのか。なるほどね。

ん?同級生?なんかおかしくないか?


「生き残ったのは1人って言ってなかった?」

「やべ。」


やべって…。またなんか噓をついたのか?けど、これは俺たちのことを思ってのことだったのかな?そう考えると、何とも言えない気持ちになる。

フライはそれ以前にそそくさと部屋から退散して、いなくなった。

本当の意図は何かは未だにわからない。


「私も行きます。久しぶりに梨花ちゃんに会いたいんで。」


出てからすぐに双葉も出て行った。部屋には俺と優花の2人っきりとなった。


「あの~優花さん「ごめんね、まさくん。」」


気まずく、どう声をかけようかと迷っていたところに、震える裾越しにか細い声が聞こえてくる。

俺は面食らって言葉が出ないが、感覚では理解ができてはいた。

彼女は怖い話や心霊の話とかそういう系のはもっぱらだめだ。だから小さい頃は俺と一緒に寝ることが多かった。

一緒に寝ることはなくなったとはいえ、大きくなった今でもそういう系の耐性はないままだ。


優花はこの世界に1年前に来たという。生まれた時の記憶がなく、両親の顔を知らない。フライが付いているとはいえ、不安は常に付きまとっていた。

今の俺もそうだが、フライが何者であるかが分からないからだ。しかし今頼りにできるのはその人しかいない。正直悪い人だったとしても、どうしようもない。

優花はそんなところで実質縋る者なんていなく1人ぼっちだった。

地下からは不気味で奇妙な音そんな生活が続けば、誰だって心細くなるはずだ。それは怖がりの彼女であればより効いたことだろう。だから今までは寝れなかったんだろう。


そんなところに俺が来た。彼女は安心感に包まれたに違いない。これは俺が自分に酔っている部分もないわけではないが、でもこれは俺が彼女に対しても同様であった。一緒に住んでいたからこそ、正しく実家に帰ったような安心感があった。

だからこそ一瞬だけでも心細くなるのは怖かった。一度離せば、二度と帰ってこない…そんなことはないはずなのに、そうなるかもしれない。そんな不安があった。1度死んだ俺たちであるからこそ抱いたものだった。

故に彼女は俺に甘えてしまった。同時に地下室に付いて行こうとしていたところを自分が止めてしまったことに罪悪感を抱いている。

(そうか、俺頼りにされているんだ。だったら、俺もっと頑張らないと!)


「大丈夫、気にすんな。」


俺は言葉を吐き出し、腹をくくった。


「すまんな、待たせた。」


あの奇妙な音は鳴り終え、フライが戻ってきた。双葉はまだ戻ってきていなかった。


「双葉ちゃんはまだなのか?」

「積もる話もあるんだろう。もうしばらくは帰ってこない。2人ともには終わったら上に上がってくるように伝えているから、そのうち上がってくるだろうよ。」


ほーんそうか。それより…


「フライさん、喋ってくれた話本当に実話なんですよね!?」


俺の言ったことを受けて、フライは明後日な方向を見ていたが、すぐに返答をした。


「概ね。」


そして開き直った。


「完全に怖い話をするのもあまりよくないじゃん。まあまあ、今日の知りたかったら、懐の中に入れてある日記帳に書いてあるから。今日終わったらちゃんと渡すから。それで勘弁してくれ。」


本当かなあ。正直信用はできないが、言質を取ったので良しとしよう。

それに、実話であることが薄れていったからか、フライが無事に帰ってきたからかで、優花の握る力が弱くなっていた。それは安心からのものなのか、希望を持てたからなのか、はたまた異なる理由であるのかは定かではない。だが、大事なのは結果である。

(よかったよかった。)

俺は心の中で安堵した。


「お待たせしました。」


双葉が上がってきた。なんかさっきと比べてフルーティーな香りがするような。


「あれ、あいつは?」

「めんどくさいから、行かないって。」

「あの小娘、仕方ない。お前らここで待っておけ。引きずって連れてきてやるわ。」

「なら、俺も。」

「あのじゃじゃ馬相手にお前は相手にならん。そこで、ゆっくりしておけ。なに、すぐ戻って来る。安心しろちゃんと戻ってくる。」


フライは部屋を出て、また地下室へといった。

気を遣ったのに、戦力外通告をされてしまった。

(ま、言っただけだったし。そもそも優花が離してくれるとも思わないけど。)

最後にフラグのようなものを言い残していくし、本当に大丈夫なのだろうか。


~~~

「遅くね?」


1時間経っても、帰ってこない。連れてくるのに時間がかかるとはいえ、それでも遅すぎる気がする。


「見に行ってくる。」

「待っておく方が・・・。」


俺が立ち上がって行こうとすると、双葉に止められた。


「でもこのままだったら、何も変わらないじゃん。大丈夫だって、ちょっと覗くだけだって。」

「双葉ちゃん、私も行くから。2人だったらいいでしょ?」


少し元気を戻した優花がサポートしてくれた。


「うん、ここにいる。」


渋々ながら、納得してくれた。俺たちは2人で地下室に向かう。

まあ、優花が来てくれなければ、地下に行く行き方を知らなかったのは秘密だ。


「この扉の先にピアノしかない大きな部屋がある。」


優花は階段の先にある扉を指して答える。

扉の前に立つ。何の音も聞こえず、不気味だ。

扉に耳を当てる。


「静かだ。何も聞こえない。」


扉の先は物音一つもなく静寂のように感じた。

ドアノブをゆっくり回す。ギイィとゆっくり音を立てながら、ドビラは開く。開くと同時に、フローラルな香りが広がる。

(ん?この匂いって。何で双葉からした匂いがすんのだろう?)

俺はこの瞬間、扉を開けるのはここまでにしたら良かったと思うことになる。


「やっぱりフラグだったんじゃねえかよ。」

「ッ!!」


目の前に広がっていたのはピアノにもたれかかり鮮血の池に倒れているフライだった。

俺たちは今、目の前で殺人現場を目撃してしまった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ