次の日の始まり
遠くから鳥のさえずりが聞こえてくる。
重い瞼をゆっくりと上げ、覚醒する。
前には机に突っ伏して、まだ寝ている優花がいた。
普段はしっかり者で、毎日俺を起こしに来る女の子。それは始めて見た彼女の無防備な姿であった。
(こいつ、こんなに可愛かったっけ?)
俺はかすかに胸の奥が熱くなっていた。
「ん、んん〜。」
起きると思って、ドキッとしたが、まだ眠っている。
(はああ、なんだよ。)
気持ちを切り替えようと、頬を手で叩く。その後に違うところを向いた時だった。
「じ~。」
「うわあ!」
いつの間にかフライさんが来ており、無言で何も言わずに俺のことを見ていた。
それに驚き、飛び上がる。
がたっと椅子を倒した音を上げて焦り、優花の方を見るが、彼女はまだ寝息を立てて寝ている。
起きていなかったことに胸をなでおろす。
「気にするな。恥ずかしがらなくていい。」
「来てたんだったら、起こしてくださいよ。」
昨日急にいなくなったと思ったら、急に現れる。
神出鬼没な人だ。
「悪い悪い面白かったもので、それにその子やっと熟睡できた様だったからね。」
「え?」
「私もこの子が小さい時から面倒を見ているが、ずっとそわそわしていて、不安そうだったんでな。熟睡することがほとんどなかった。どうやら彼女にとって君の存在はとても大きいようだ。」
そういえば、昨日聞いたぞ。
全然構ってくれなかったって。
地下からは変な音が流れてきたりして、気持ち悪いって。
そりゃあ、リラックスできないわって思った。
「この子転生者でしょ。しかも思春期でしょ。どういう風に関わったらいいのかなって。今の子難しいし、怖いもん。」
口調が変わり、ブルブルと体を震えさせる。
この人のキャラがよくわからない。とんでもなく胡散臭い。
ん?待てよ。何で優花が転生者ってこと知っているんだ?
「なんで「んん、んん~。」」
なぜ知ってるかを聞こうとしたタイミングで、優花が伸びをして目覚めた。
タイミングが悪い。
優花はまだ寝ぼけているのか、ぼうっとしている。
「優花、おは「昨夜はお楽しみでしたね。」」
「「な・・・。」」
その言葉に2人の顔は真っ赤になる。
この人絶対怖がっていない。面白がって遊んでいる。
「そ、そんな不埒なことしてないわよ!別にしてきても・・・。」
「そうだ。そんなことしてない。こいつにそんなこと思うわけないだろ!」
なんか優花小声でなんか言ってなかったか?
「またまた、顔真っ赤にして~。青春だねえ。」
フライは茶化してくる。そしてなぜか優花ににらまれてる。
何かしてしまったのだろうか?
「そもそも、フライさんはここに何のために来たんですか?」
「油を売りに。ここにサラダ油とこめ油と他には・・・。」
まさかの物理的に!?何もない虚空から油が出てきたぞ。
「本当は?」
いらだっている優花に話の腰を折られる。
「つれないなあ。さあ、入ってこい。」
「失礼します。」
そこに俺たちと同い年ぐらいの女の子が入ってきた。香水の匂いが鼻孔を満たす。
(ん~。匂ったことない匂いだな。いい匂いな気もするんだけど、なんか刺激臭?みたいなのも混ざった感じもする。)
きっと特殊な体臭がするんだろうと思い込むことにした。
「冴羽双葉って言います。よろしくお願いします!」
彼女は勢いよく頭を下げた。
「さあ、そこに座っ「ひい!」」
自己紹介も終わり、フライが座るように促すと、彼女はおびえた。
「またそれですか。別に触ろうとはしてないというのに、厄介ですね。」
「ごめんなさい。」
ん?なんかあったんかな?
「何かあったんですか?」
俺が気になっていたことを恐る恐る優花は聞くが。
「いーえ、気にする必要はありません。少々思春期をこじらせただけです。」
フライに一蹴され、はぐらかされる。
「フライさん、あのー、私大丈夫ですから。」
「え、面倒くさ。」
フライさんはしかめっ面をして、今から喋らなければならないことを心底だるそうにしていた。
「まあ、色々あったってことで…。」
フライは話の論点をずらそうとする。
「早く言ってください。」
いらだっている優花が冷たく言葉を放つ。
「おお、怖い怖い。睨むな。お兄さん委縮しちゃうだろ。まだまだそういうのが難しい年ごろかもしれないけど、そういうの怖いからやめてね。」
何も物怖じすることなく、茶化す。
だがそれに屈することなく、優花は冷たい視線を向け続ける。
「後悔しても知りませんよ。」
その声はさっきまでのふざけた様子はなく、とても冷たかった。
まるで心臓をぐっと鷲掴みにするようなものだった。
(声だけでもこんなんなるのか?)
動揺を隠すのに必死だった。
「この世界・国の神話、この場所にしか生存していない。生物融人という種族から説明しましょう。その方が理解がしやすいでしょうからそこから説明しましょう。」
フライの話が始まった。