振り落ちる凶星 小さな希望
ドーン!!!
深夜にエリアⅢ深域の奥地で、彗星が落ちた。
落ちた森は凍り付き、巨大なクレーターを作った。
「キウ・コールドスター、貴様に借りを返しに来たぞ。」
クレータから黒い何かが這い上がってくる。そして森の中に消えていった。
日が上がると、ギルド内は大騒ぎだった。ラナウェイの一件が終わったと思った矢先、恐ろしいことが起こった。
「エリアⅢで大量の魔物が殺害か…。それもタイラントスネーク、ティラノスワイバーン、オケアノスシードラゴン。ランクⅣの冒険者でも苦労する魔物だ。陸・海・空の頂点捕食者どもをいとも簡単に。いったい何が起こった。」
朝に返ってきた冒険者の報告書を見て、オルス・バーンシュタインは頭を抱えていた。
今ラナウェイの件で上司であるギルドマネージャーのグランは不在だ。そうなるとエリアⅢ深域支部のギルドマスターである私が一番上になる。つまり今責任がある状態であった。
「オルスさん、新しい報告書です。」
受付嬢が急いで、私の机に報告書を置く。
私は置かれた報告書を読む。
(奥の密林に巨大なクレーターを発見、周辺の木々は凍り付いている…。凍り付くと言うことは水属性の臨界突破。属性の臨界突破はほとんど起こりえないとされている。しかし臨界突破した何かが落ちてきた?これはかなりまずい状態かもしれない。少し前のムカデの件とは違う。これは攻撃的だ。最悪の場合スタンピードが引き起こされる。)
「今すぐ、各支部のギルドマスターを招集させろ。ギルドマネージャーにもつないでくれ。これは緊急だ。」
私の剣幕にギルドの事務内は騒然とする。
次の瞬間に事務は慌てふためく。このギルドは事務であってもたくさんの修羅場を越えてきたランクⅣの冒険者しか入ることができない。そんな経験豊富な者で構成されているが、そんな集団でも騒めく事態であった。
(間に合ってくれ…。)
私は後祈ることしかできなかった。
その一方、騒めいていた男がいた。
(あと1カ月しかもたない。)
病院で俺は今余命宣告をされた。正直長続きしないことは分かっていた。
運ばれてきた日は全然だった。肩も腕も手も動いていた。今では指先すらまともに動かせない。ペンすら持つのが難しい。肩も腕も動きが鈍い。初めの時のように硬かった。
今ではドクターも看護師さんもリハビリの人も俺に申し訳なさそうな顔をしていた。
疑問に思っていたが、今日になんでか分かった。
(まだまだだと思っていたけど、そうか…。)
不思議と絶望はしていない。落ち着いていた。
俺の頭にはあの鷲の言葉が残っていた。
(屍の上に芽吹きは表る。例え、死を迎えても先にあるのは虚無ではない。それは何かの養分へとなる。
絶望の先には必ず希望が訪れる。)
俺は一人じゃない。死んだとしても誰かのために生きられる。何も怖くなかった。枕元には羽がある。これがあれば不思議と怖くなくなる。
「君か~、なるほど。」
窓から人の声がする。
「誰?」
ゆっくりと窓のほうを振り向く。
窓には男が一人座っていた。
(誰だ?今まであったこともない。見たことのない男だ。窓は狭いのに、どうやって座っているんだ。)
「やあ、初めまして。僕はハエトリよろしくね。」
「はあ、何の用?」
「つれないなあ。せっかくサプライズプレゼントをあげようと来たっていうのに。」
サプライズプレゼント?そんなの欲しいとも言ってないんだけど。変な奴に絡まれためんどくさいなあ。
「顔に出てるよ。けど…聞いたらほしくなると思うけどなあ?」
「???」
欲しくなるプレゼント?そんなもんはない。1か月後にはどうせ死ぬ。なのに欲しくなるってのはそれこそ死ななくなるとかそんなレベルのものじゃないと釣り合わない。
「動く体と頑丈な体。後者は君の努力次第だが…全然問題ないはずだ。」
そんな馬鹿な。そんなんものなんてありはしない。そんなのがあるんだったら、誰も苦しまない。
「なるほど。だが、ここは君のいたところではない。分かるかな神沼将貴君?」
「!!!」
なんで俺の名前を!?俺が転生者であることを知っている?
「やっとこちらのことを聞く耳を持ったようだ。」
「あんた何者だよ?もしかして先生か?」
「残念ながら違う。一つだけ言うとしたら、私は君たちの敵。悪者だ。」
よくわからんが、敵なら俺にそんなものを送って何の意味がある。敵に塩を送ることをしても何の意味もない。何が狙いなんだ?
「何が欲しいの?」
「ん?」
「俺はあんたからそんなものを貰っても、あんたにとって何のメリットもない。だから何が欲しいの?」
「そうだな。欲しいのはただ一つだ。服従しろ。」
服従?それが欲しいもの?仮に体が動くようになっても、所詮は一般人。国を転覆させることなんてできない。意味が分からない。俺に期待しすぎではないか?
男の顔を見ても、表情は笑ったままで何一つ変えない。
奴の考えが分からない。だが…奴の慢心を利用してやる。奴からしたらハイリスクだが、こちらにはリスクがない。だったらのってやる。このまま死ぬのならのらない手はない。
「分かった。従うよ。」
俺は即答した。
「契約は成立だ。ほらよ。」
「!…??」
何かが起きたのか?特に何も起こらない。
「体を動かしてみろ。」
「動かそうとしたって、動かない…ってあれ?」
動かなかったはずの指が動いた。
「君の命令に従って体の中に私の眷属がいる。名をランソウ。君の指令に従い、糸を伸ばし体を動かす。権威は私のほうが上だが、君の命令にも忠実だ。これから1か月後あることが起こる。その時が君にとってのとても大事な選択になる。
だからその日まで…誰にもこれをばらすな。分かったか?」
「え、ああ、分かった。」
何故釘を刺したのかは分からないが、まあいい。実際披露する気もない。
「分かった。」
「それなら…」
その時病室の扉が開く。
「レインさんどうで……きゃああああああ!!!蜘蛛!!」
「あ、やべ。」
看護師さんが男のほうを振り向くと、叫んでどこかに消えてしまった。男は霧のように消えて、少し大きなハエトリグモになった。
「さいなら~。」
蜘蛛はぴょんと窓の外に跳んで、いなくなった。
「何だったんだ?」
よくは分からないが、希望ができた。前向きに生きることができそうだ。
その後しばらくすると殺虫スプレーを持って看護師さんが来たが、もうすでに蜘蛛はいなかった。




