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嵐の星のもとで  作者: 音頭
1章 ギルド参入編
33/33

別たれた道 

「ここは?」


俺は目をパチパチして周囲の状況を確認する。右にはモニターがあった。そこには波形と数値が映されていた。医学の知識がなくてもわかる。これは恐らく心電図だ。つまりここは病院だ。

(俺は生きていたのか?)

あんな状況からどうやったら生きているんだ?

本来なら生きていることを喜ぶべきだと思うが、それ以上に何故が大きかった。


「目が覚めた!良かった…良かった…。」


耳元で声が聞こえ、そっちを向くとそこには目を真っ赤にしたフルーレットがいた。


「フルーレット?どうしたのそんなに目を真っ赤にして?」

「う、うん…何でもない。」


何でもないことはないだろうが、状況が飲み込めない。

こんなにも目を真っ赤にした彼女は見たことがない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「それで…「起きたか。」」


フルーレットとしばらくの間、俺が眠っていた時の話を聞いたり、世間話をしていると、会話の中に乱入してくる存在がいた。

それは制帽姿の男だった。ただ見たことはない。とっても筋肉隆々な男だった。


「アンレイル、お前を捕縛しにきた。」

「は?」


言われた言葉は意味が分からなかった。いや、俺じゃなくてもこの反応をするのはおかしなことではないはずだ。


「いやいや、そんなことある!?俺、何にもしてないよ!?」

「そうです。アンレイルは何もしてない。だって病院で今の今まで寝てただけですよ。」


俺もフルーレットも反論する。


「安心しろ、フルーレット、君も捕縛対象だ。」

「え?」


フルーレットは鳩が豆鉄砲を食ったようような反応をする。


「詳しくは隣の建物で話をしよう。」


男は1歩ずつ近づいてくる。


(まずい逃げなきゃ!)


だが、身体が動かない。


「きゃあ!」


フルーレットは捕まり、軽々と担ぎ上げられる。そのまま男はベッドの近くにあるナースコールを押す。


しばらくすると、ナースが来るがナースは男を見て、俺に繋がっている管を取り外される。いやいや俺患者じゃないんかい。


「じゃあ、また。」


俺も軽々と担ぎ上げられて、病室を出される。ナースもグルだったらしい。



「さーて、じゃあ話をしようか。」


隣の檻に囲まれた建物に入ったところまでは覚えているが、中には部屋が多くどれがどれかわからない。途中でよくわからなくなったんで、気にするのをやめた。フルーレットはなぜか別室に連れていかれた。


「あの~ここはどこですか?」

「尋問室。」

「フルーレットは?」

「別々にやるよ。」


口裏を合わせられたら元も子もない。当たり前だ。なぜそんなことも思い浮かばなかったのか…まぁいっか。

そもそも捕まる理由なんてないし。免罪免罪。あっという間に釈放されて終わりよ。


「この部屋での会話は常に録音される。自身の会話が不利益にもなるのでご注意を。

私は執行統制機関長カミシロだ。今回は何故こうなったかの心当たりは?」

「ありません。」


だってないんだもん。


「そうだ。何もない。」

「は?」


思わず声が出てしまった。


「思い当たる節がなくて当たり前だ。だが、治安維持をする我々からしたら、捕らえなくてはならない。否、管理せねばならない。」

「???」


捕らえなくてはならない?管理せねばならない?ますます意味が分からない。


「君の中にいるものだよ。」

「俺の中?」

「そうだ。心当たりはないか?」

「心当たりって言われても...。」


中ってそんな抽象的なこと言われても、分からん。だって変なとこ全くないもん。何なら前以上に元気いっぱいだよ?


「ヒント頂戴!」

「ヒント?そうだな「ム」から始まって「デ」で終わる生物だ。」


ムから始まり、デで終わるね…そんな生物いたっけ?


「何文字?」

「3文字だ。」


3文字か。じゃああいうえお順で考えていくのが早いな。

ムアデ、ムイデ、ムウデ、ムエデ、ムオデ、ムカデ…おお!ムカデじゃないか!いたわ。ムから始まってデで終わる生物。思ったより早く出てきたな。

うん。スッキリした。…ん?


「もしかして俺の体の中にムカデがいるってことですか?」

「そうだ。あんなことがあったのに覚えていないとはどこまで能天気なんだ。」


いやぁ、ご指摘が痛い。けどもあんなに痛かったのに何で忘れていたんだろう?マジで死ぬかと思ったのに。

そっか、じゃああれは俺の中だったってことね。なるほどね。解決した。

この時俺がスッキリしたのと対称に、何故かカミシロは少し驚いたような顔をしていた。


「ん?何ですかその顔は?」

「いや、何でもない。」


だが、その真意を伺うことは叶わなかった。


「お前の中にいるムカデ、そいつは謂わば動く火山だ。この国なんて軽く吹き飛ばせるぐらいのエネルギーを秘めている。そんなものを野放しには出来ない。だからこれからは我々に従って貰う。」

「ええ、やだ。」


だって面倒そうだもん。それに中にいたムカデちゃん全然こっちに見向きもしないし、大人しそうだったよ。あのこ監視する必要ないって。


「残念だが、君に拒否権はない。早速だが、開拓地へと移送させて貰う。要は異界へと追放だ。戻ってこれるかどうかは君の実力次第だ。」

「待って待って、ギルドはどうなるの?それにフルーレットは?話が急展開過ぎてついてこれないって。」

「ギルドは一時的に利用禁止、フルーレットとも一時的に接触禁止だ。」

「ええ~、そんなぁ。」


折角面白くなってきそうだったてのに、悲しいなぁ。


「だが、直ぐに受け入れられるとは思っていない。だから時間を上げよう。1日あれば十分か?」

「ん?時間?いらないけど。」


カミシロは俺の返答にまた驚いたような顔をしていたが、聞いていた限り戻ってこれそうだし。別に問題はない。


「そうか。お前は将来大物になるな。なら今から手配しよう。部下が別室に案内するから指示があるまではそこで待っておくように。」

「はーい。」


そうして俺は別の制帽の人に連れられて、部屋を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私は2人の尋問を終えた。一方は楽であったが、もう一方は骨が折れた。


アンレイルは能天気な奴だった。自分が蟲融人(インセクトマン)に生まれ変わったのに拒否反応を一切示さなかった。最も本人が生まれ変わったことを認知しているかは分からない。それでも体の中にムカデ。

普通体の中に蟲がいるってなったら、拒絶反応を示すのはおかしな反応ではない。現に蟲融人にはそうした拒絶反応を起こすものが後を立たない。それなのにアンレイルはまぁいいかって感じだった。

驚いたのはそれだけではない。開拓地へと追放されいつまた彼女と会えるかも分からないのに、「ええ、そんなぁ。」と言って惜しむかと思えば、次の瞬間にはこれもまぁいいかってなっていた。切り替えが早いというのかそれとも能天気過ぎるというのかよく分からない奴であった。


続いて尋問したフルーレットはアンレイルと比べてかなり大変だった。

実際中身としてはアンレイルは危険性が高いものだが、フルーレットは異常な回復能力を持つということしか分からないため、検査することを伝えるだけのはずだった。

だが、彼女はアンレイルと離ればなれになることが分かるとひどく取り乱し、泣きわめいて宥めるのが大変だった。否、宥めることなんてできなかった。そっと部屋に戻すしかなかった。

彼女はおそらくアンレイルに強い恋愛感情を抱いているのだろう。

アンレイルとフルーレット、彼と彼女は前世では同じ屋根の下で住んでいたと聞いている。だが、アンレイルの本当の両親はいなかったらしい。もしやそこで何かがあって、彼女が執着しているのかもしれない。


「上手く行けばいいのだが…。」


さっきのを思い出せば思い出すほど、不安は強くなっていく、だが止めるわけにもいかない。


「慎重に事を運ばなくてはいけないな。あいつの操り人形にはさせん。」


私は彼らの道がより良いものとなるよう祈るしかできない。だが、打てる手は打っておく。奴の正義のままにさせることは絶対にしない。


「そうと決まれば、あいつに連絡だ。」


私は布石を打つことにした。

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