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嵐の星のもとで  作者: 音頭
1章 ギルド参入編
32/33

灼熱の先

「…。」


あまりにもデカすぎるムカデが目の前に姿を現した。顔は目の前の山の入り口に位置しており、側面には2つの目と牙が付きこちらを静かに覗き、山の側面はかすかに降り注ぐ太陽の光が反射して、金属光沢があった。山頂は黒く隆起し黒いガスを噴出していた。それはまるで火山のようであった。


バシュッ!


ライアンさんは空中に向かってフレアのようなものを飛ばす。


「2人とも私から離れるな!」


ライアンさんは剣を取り出し、俺たちの前に立ちふさがる。

だがその顔の額には汗がにじんでいて、その姿から無理をしていたのは明らかだった。


ズズズズ…


ムカデが体を動かし地面がこすれる音がする。ムカデは蛇が鎌首を上げるように頭を持ち上げる。その様子はこちらをゆっくりと見て一瞥しているようだった。それには捕食者としてと鋭い眼光ではなく、まるでただじっと見ているだけのように見えた。敵意は全く感じなかった。


「ッ!」


その直後、俺の頭の中がずきりと痛む。


「どうした?」


その様子にライアンさんは心配し、フルーレットも心配そうな面持ちでこちらの顔を覗き見る。


「ああ、何でもない。ちょっと頭痛があっただけだ。」


(何だったんだ?)

突如として襲い掛かってきた頭痛を気のせいとして見なかったことにした。


ー………ー


その様子を何事もなくゆっくりとムカデは俯瞰していた。

だがその距離は先ほどよりも明らかに近くなり、それは目と鼻の先になった。


闘剣(オーラブレイド)


ライアンさんの剣が光り輝き、斬撃を飛ばす。

その斬撃は顔に直撃するが、顔は固く斬撃をはじき、はじかれた斬撃はムカデの背中の隆起したものをこそぎ落とす。

すると、隆起物のとれた部分からどろりと赤い液体が流れ出る。その液体は湯気を発しながら落ちてゆく。


「溶岩か!?」


ライアンさんは驚くが、それもそのはずだ。その溶岩はムカデの体をゆっくりと落ち、俺たちのほうに流れ出てくる。

(くさい。)

溶岩から匂ってくる匂いはとても臭い。匂いだけでも気持ちが悪いのに、吸いすぎると倒れてしまいそうになる。


「ううっ!!」


その時あの頭痛が俺に襲い掛かる。それは先ほどの比ではなく、もっと強く襲い掛かる。

脳内に映像が流れる。断片的だが、そこに流れたのは俺だった。

俺は血だらけになり、血だらけで事切れたフルーレットを手に抱いていた。

(なんだこれ…俺?)

俺は状況を呑み込むことができず、ただ困惑するだけだった。

(さみ…しい…。)

最後にそんな言葉が聞こえた。その声は聞きなじみのない声で、俺のでもなかった。

現実世界に戻されると俺は倒れた。

突如としてしんどくなり、支える力がなかった。


「…!」

「…!!」


(ミツケタ。)

2人がなんて言ってるかはわからなかった。だがそんな声だけが聞こえた気がした。


頭を上げればムカデはバラバラになり、やがて蛍の群れに変わった。

その群れは光の奔流となり、俺のほうへと押し寄せる。


「来ないで!!!」


フルーレットの叫びが聞こえる。その刹那、平原の草が急速に成長し群れを阻む。

しかしそれは勢いを殺すことがなかった。群れは蛍火となり、草を消し炭にして突き進む。

そして動けない俺の体に突撃した。

俺の体は燃えることはなかった。しかしながら、体の中では異常が起こり始めていた。

(熱い!!!)

その瞬間にまるで体を焼かれるような痛みが走る。

(熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い…。)

何かが体を蠢くような感覚はない。だが、焼かれて体を強引に引き延ばされたりする。そんな痛みと熱さが無限に襲い掛かる。

(体が千切れる!!)


「…!!!!!」


その痛みは筆舌しがたいもので、耐えきれる痛みではなかった。口からは言葉にならない叫びがでる。むしろ声帯が焼き切れてでていなかったのかもしれない。地面の土を指が手掌を貫通するほどに思いっきりつかむ。ギリギリと音が鳴るくらい歯を食いしばる。

しかしその痛みが治まることはない。無限の灼熱はおさまらない。

やがてその痛みに我慢ができず、暴れ悶える。

(死にたい…。)

俺は息も絶え絶えで、だらしなく顔は涙や鼻水で汚くなる。いつの間にか死を悟っていた。

(どこで間違えたんだろう?…転生した時から?それとも今日出て行ったから?)

頭の中には今までの出来事が映る。

(もういいや。ごめん、フルーレット。いや優花、最後の最後まで迷惑かけてごめん。)

諦めの先に出たのは親代わりとなってもらった優花の両親と優花に対し何も恩返しできなかった無念だった。

最後はどこかやさしい光に包まれ、痛みが和らいだ気がした。

そうして俺はゆっくりと目を閉じた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

目を覚めれば、そこは何もない殺風景な部屋だった。


「俺やっぱり死んだんだなあ。」

死後は地獄でも天国でもなかった。何もなかった。


「…。」


しかし後ろから何か気配を感じる。


「なんでいるんだ?」


振り向くとそこにはあの巨大な大ムカデがとぐろを巻くようにいた。


「…。」


ムカデは動かず、こちらをただ見つめる。喋ろうともしない。


「お前も死んだのか?」

「…。」


何も答えない。そもそも死んだとしたら、こいつがここにもいるのはおかしい。だって、俺を殺したのはこいつだからだ。


「なあ、ここはどこなんだ?」

「…。」


だんまりを続ける。いたちごっこにしかならない。


「…!…!…」


この状況に困っていると、何か聞こえる。


ー………ー

それと同時にムカデは体をよじらせ、顔を合わせなくなる。

その瞬間俺はこの空間から遠ざかる。



「…イル!アンレイル!」


俺はゆっくりと瞼を開ける。そこは無機質な天井。そして涙顔で滝のように涙を流しているフルーレットがいた。







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