動く山脈
「なぁ、どうする?」
「さぁ、どうしよ?」
オトハが連行された日、俺とフルーレットはクエストに出ようか迷っていた。
フルーレットは能力がピーキーだし、俺は平凡でクソ雑魚、そんなパーティではせいぜい受けれて探索クエストってところだ。
ただ、別に生活にも困っていないし、金がほしいわけでもない。だが、オトハがあんな状態で受けるのもおかしなことかもしれないし、何より怖い。
「そうだ!金はあるんだし観光していこうよ!」
街に戻るにはエリアⅠを経由していかないといけないが、そこにはスライムしか生息していない。スライム自体を倒すことは出来ないんだが、あいつら自体は敵意はないし、移動もとても遅い。だから丸腰でも何の問題もなく、街に行けるはず。
そうすると、今の今まで街を見てもいないし楽しんでいないことが分かった。だったら「この機会に楽しんでしまおう!」そんな浅はかな考えで思いついたものだった。
「うん、そうしよっか。」
思いのほか、あっさりとフルーレットは了承した。
「何?その顔。」
「いや…何でもない。」
「別にあんたのためじゃないわよ。ただオトハちゃん一日中帰ってきてないから心配だし、元気なかったから元気になれるようなもの買いに行きたいから。」
あーね。理解した。
下に降りると、いつもの騒がしい光景はなく、人1人すらおらず人気が無い。
(なんか嫌な気がするんだけど?)
俺はその気味悪さに胸騒ぎがしていた。
引き返そうとしていたが、受付机にふと視線に入るものがある。
「これは受付用紙?」
「クエストの受注は自己責任でお願いします?」
いつもは受付嬢さんがいるところには、代わりに紙が置いてあった。
静まり返った違和感はあったが、クエストを受けれるのなら外出しても大丈夫だろう。
俺たちはそんな軽い気持ちでギルドの出入り口の扉に手をかけた。
しかし、俺たちは知らなかった。ギルドのボードにかかっていた赤札の意味を…。本来ないものがあるのも知る由がなかった。
「…すべては先生のため。」
そして俺たちが行った後、何者かの影があった。紙がしわくちゃになって蝶となって飛んで行き、消え去り何もなくなった。
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「暇だ。」
私は暇だった。ギルドは赤札をかけられ、外出する者はいない。時折新人が誤って出てきてしまうこともあったが、それはもう昔の話で今はギルド職員であっても外出は許されず。更には仕事することすら許されない。実際に受付がいないようになっている。
「レオン、ここは何もないぜ。いるのはスライムだけ。スライム、スライム、スライム…どこを見てもスライムがいるだけ。退屈だ。せめてエリアⅡに行かしてくれよ。ここは暇すぎて死にそうだ。」
ギルドマスターからの命令だから仕方ないが、心配だからと言ってエリアⅠとは…さすがに見くびりすぎだと思う。それに脅威がないってところからエリアⅠに配属されているのは私だけしかいない。これが暇を加速させてしまっている。
(そもそもムカデは偶然捕まえれたんだろう。精蟲の眷属だから警戒するのは分かるが、これは果たして意味があるのか?お偉いさんは心配性だ。)
暇すぎていつもなら出てこない文句が頭の中に出てきてしまっている。
「しっかし、暇だ。ここまで暇だと困る。アンレイルたちは今何してるだろうな。
勉強か?いやないな、あいつら一見しそうでしない。調べもんなんてしない。片方は優等生っぽく見えるがポンコツ?、もう片方は能天気。意外と赤札なのを知らずに外に出てたりしてな…。
なーんて、こんなことないか。」
適当な冗談を言ってみると、遠くに人影が見える。そのシルエットは何の装備をしていないが、とても見覚えがある。
「アンレイルにフルーレット?いや、そんなはずは…。幻じゃない。あいつ等…。」
目をこすれば擦るほど、そのシルエットは鮮明になってくる。頭が痛くなってくる。
「アンレイル!フルーレット!なんでお前らがここにいる!?」
何故2人がいるかは置いておいて早急にすぐ宿舎に帰らせる必要がある。何かトラブルが起きる前に帰せば問題はない。
「ライアンさん?どうしてこんなところに?」
実際に二人は私の形相に驚き戸惑っている。
「今すぐ帰れ!」
私は必死さをアピールするため、彼らを捲し立てるように声を発する。
「帰らないとだめですか?街に行ってもだめ?」
「お願いします。すぐに帰りますから…。」
しかし効果的ではない。困惑はあるものの、何かしたいことがあるのかその場から動こうとはしない。
「どこに行きたいんだ?」
埒が明かないと判断した私は理由を聞くことにした。
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「それでいきたいのか。」
「オトハを元気づけるものを買いに行きたい」…なるほどこんな緊急事態でなければ見逃すが、今はそうも言ってられない。
「ギルドに赤札がかかっていたはずだ?」
「赤札?」
私の言葉に?マークを浮かべ、2人はお互いの顔を見合わせる。
(意味が分かっていない?)
私は2人の様子を見て嫌な気がした。
「もしや赤札の意味は知らないのか?」
心の中では知っていてくれと願っていたが、実際はそういかなかった。2人とも首を左・右へと首を振る。そのことで頭を抱えたくなった。
しかし、ここがエリアⅠなのが、不幸中の幸いだったかもしれない。
「今は危険だ。何も言わず引き返せ。…頼む。」
あの子たちは顔を見合わせ、回れ右をした。その瞬間だった。
「ライアンさん、こんなところに山なんてありましたっけ?」
「山?」
いつの間にか霧のようなものが出てきて視界が悪い。そしてアンレイルたちの先にはうっすらと確かに山のようなものが見える。だがあんなものは見たことがない。
「!?」
その時にあることに気付いた。
(これは霧じゃない。何かが焦げているようなにおいだ。それも全方位から?)
つまりは霧でなく煙であった。
(周りが燃えている?だが、エリアⅠにはそんなものはない。)
エリアⅠは何もない平原であり、燃焼し続けられるような魔素の濃度もない。
あまりにも不可思議な現象が起きていた。
「ねえ山動いてない?」
「俺もそんな気がする。」
2人のそんな会話が聞こえる。言われてみればゆっくりと動いているのが分かる。それも回転するように動いている。更に徐々にこちらの距離を縮めるように移動してきている。
やがてその正体が明らかになる。
「ハハハ、これは夢か?」
「…。」
「うっ…。」
アンレイルは絶句、フルーレットは口をおさえ吐きそうになり、私は…絶望していた。
その三者三様の反応は仕方がない。その正体を見れば仕方がない。
何故なら目の前にいたのはムカデであった。
だが昨日のと違うのは大きさが桁違いでそれは山脈のようだった。




