正義執行
(上手くいった。)
オトハとの尋問を終えたのち、俺はニヤついた。
疲労困憊で精神膠着状態であった彼女は、こっちの言い分にただ従うだけだった。
念のため、執行者の資格持っていてよかったぜ。その上部になる統制者は落とされたんで、諦めたが、チョロいもんだ。
これで俺たちが疑われずに、彼女は囚人になる。犯人が俺たちであると疑われる余地はない。
(けど、つまみ食いができなかったってのは惜しいことをしたよな。)
凄い可愛い子だったから、それだけが残念だ。まぁ、囚人になったら可愛がってやるか。
(それの方があの子のためだ。あんな車椅子野郎には勿体無い。俺らのためになるんだ。間違えなく幸せだろう。)
そうやって、俺がニヤついた顔をして、愉悦に浸っているときだった。
「悦に入っている時に悪いが、君から提出された自白書、あれは却下された。」
突如として入ってきた制帽の被った奴に俺はそう告げられた。
それは俺に頭から冷水をぶっかけられたように驚かせた。
「は?」
俺は悦から現実に引き戻された。
「待てよ、意味が分からない。どういうことだ?」
「そのまんまの意味だ。お前のは証拠に使えないってことだ。」
「だが、彼女が犯人だって言ってたじゃないか!」
「そんなこと言われてもな。上がそう決めたんだ。文句言いたいんだったら、そっちに言ってくれ。」
上?統制者のことか。
「ああ、分かったよ。」
俺は衝動のままに上である統制者のもとに行った。
「どういうことですか!?俺のが使えないってのは?」
俺は統制機関長と書いてある部屋のドアを蹴破った。
目の前には制帽を被った筋骨隆々の男が座っていた。男の名は神代、執行者の上部組織。統制機関の機関長を勤めている。
「自白ってのは大きな証拠だ。そのため常に注意深くなくてはいけない。だからこそ、尋問は常に録音されている。」
神代は名にも気にすることなく、涼しい顔をしている。
(録音?…あの事を全て聞かれていたのか?
なら、尚更拒否されることはない。)
しかし、改めて考えてみてもやはりおかしい。
「尋問で大事なのは何だと思う?」
「そりゃあ、犯人をあげることだよ。」
藪から棒になんだ?何を当たり前のことを…
「なるほど、君は分かっていないようだ。でっち上げるのではなく、上げることだ。」
「…。」
体からひやりと嫌な汗が吹き出してくる。
そして、嫌な予感がしてくる。
「精神膠着状態である彼女に対して、一方的な決めつけ…。そんな状態の彼女が正しい判断をできると思うか?最もそれが威圧的であれば、誰が抗えるのか?」
「…。」
不味い。バレてる。
「執行者が何故、誰もがなれる理由を知っているか?」
俺は思いもよらぬその質問に面食らう。
「よくも悪くもメリットがあるからだよ。」
?どういう意味だ?
「社会は多種多様な種族、人、思想が入り交じる。そうなれば、コミュニティが作られるのは必然的なものだ。
だが、そのコミュニティにはどこかしらで支配的な存在が現れる。始めは1人支配されただけでも、いつかはそれは1人また1人と伝染してゆく。
そのコミュニティはいつかは社会に歯向かうカルトへとなる。
支配者は癌へとなり得るのだ。
だが、ここで人を拘束できる存在がいたとしたら?
答えは明白、癌は切除される。」
要は誰もが捕まえる権力があると思わせることで、内部から壊せる体勢を作り、悪事を働かせないようにしているってことか。
「だが、それには欠陥がある。誰が執行者を監視する?」
どう見てもそれは大きなデメリットじゃあないか。何がメリットがあるだ。
「それが統制者だ。執行者は捕えるという権利を有すが、統制者はそれをコントロールする役割がある。
執行者の3年以上の実務経験
書類選考
面接
法律の暗記
4人の国皇、執行機関長、処刑室長…多くの人物からの許し
といった難しい審査を受け、初めて統制者になることができる。その分給料はどの職種よりも高く設定されている。
統制者は執行者の尋問を監視し、執行者を統制する。そして執行者を糾弾できる。その最終的な決定は統制機関長である私が決定する。」
長々しい話が終わり、神代の言う意図を理解した。
「もし糾弾された場合はどうなるんです?」
その意味は俺を追い詰めていた。俺は微かに体が震えていた。
「執行者は剥奪。処刑人に刑を執行される。」
その様子を見てか、神代は口角をあげ、にやりとする。
「待て!そんなこと聞いたことない!」
「言うわけないだろ。だからメリットが上回るんだよ。」
統制者が最も勝ち組なのは知っていた。だが、こんなルールがあるなんて、聞いてもいない!
なんて、汚いんだ!そんなの外道がするようなことじゃないか!
『嵌められた』
今の俺の心情はそれひとつだった。
俺はそのまま腕を誰かに捕まえられる。
その力は強く、振りほどけそうにない。
「待て!あれは俺だけじゃない!あれは…」
俺は生き残るために必死に弁明する。
「ああ、後で聞く。
その前に正義を骨の髄まで味わうといい。」
無慈悲にも突き放され、俺は連れていかれた。
「生きていればな。」
神代は男が連れていかれた後に、小さくボソリと呟いた。




