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嵐の星のもとで  作者: 音頭
1章 ギルド参入編
25/33

正義執行

(上手くいった。)

オトハとの尋問を終えたのち、俺はニヤついた。

疲労困憊で精神膠着状態であった彼女は、こっちの言い分にただ従うだけだった。

念のため、執行者の資格持っていてよかったぜ。その上部になる統制者は落とされたんで、諦めたが、チョロいもんだ。

これで俺たちが疑われずに、彼女は囚人になる。犯人が俺たちであると疑われる余地はない。

(けど、つまみ食いができなかったってのは惜しいことをしたよな。)

凄い可愛い子だったから、それだけが残念だ。まぁ、囚人になったら可愛がってやるか。

(それの方があの子のためだ。あんな車椅子野郎には勿体無い。俺らのためになるんだ。間違えなく幸せだろう。)

そうやって、俺がニヤついた顔をして、愉悦に浸っているときだった。


「悦に入っている時に悪いが、君から提出された自白書、あれは却下された。」


突如として入ってきた制帽の被った奴に俺はそう告げられた。

それは俺に頭から冷水をぶっかけられたように驚かせた。


「は?」


俺は悦から現実に引き戻された。


「待てよ、意味が分からない。どういうことだ?」

「そのまんまの意味だ。お前のは証拠に使えないってことだ。」

「だが、彼女が犯人だって言ってたじゃないか!」

「そんなこと言われてもな。上がそう決めたんだ。文句言いたいんだったら、そっちに言ってくれ。」


上?統制者のことか。


「ああ、分かったよ。」


俺は衝動のままに上である統制者のもとに行った。


「どういうことですか!?俺のが使えないってのは?」


俺は統制機関長と書いてある部屋のドアを蹴破った。

目の前には制帽を被った筋骨隆々の男が座っていた。男の名は神代、執行者の上部組織。統制機関の機関長を勤めている。


「自白ってのは大きな証拠だ。そのため常に注意深くなくてはいけない。だからこそ、尋問は常に録音されている。」


神代は名にも気にすることなく、涼しい顔をしている。

(録音?…あの事を全て聞かれていたのか?

なら、尚更拒否されることはない。)

しかし、改めて考えてみてもやはりおかしい。


「尋問で大事なのは何だと思う?」

「そりゃあ、犯人をあげることだよ。」


藪から棒になんだ?何を当たり前のことを…


「なるほど、君は分かっていないようだ。でっち()()()のではなく、()()()ことだ。」

「…。」


体からひやりと嫌な汗が吹き出してくる。

そして、嫌な予感がしてくる。


「精神膠着状態である彼女に対して、一方的な決めつけ…。そんな状態の彼女が正しい判断をできると思うか?最もそれが威圧的であれば、誰が抗えるのか?」

「…。」


不味い。バレてる。


「執行者が何故、誰もがなれる理由を知っているか?」


俺は思いもよらぬその質問に面食らう。


「よくも悪くもメリットがあるからだよ。」


?どういう意味だ?

「社会は多種多様な種族、人、思想が入り交じる。そうなれば、コミュニティが作られるのは必然的なものだ。

だが、そのコミュニティにはどこかしらで支配的な存在が現れる。始めは1人支配されただけでも、いつかはそれは1人また1人と伝染してゆく。

そのコミュニティはいつかは社会に歯向かうカルトへとなる。

支配者は癌へとなり得るのだ。

だが、ここで人を拘束できる存在がいたとしたら?

答えは明白、癌は切除される。」


要は誰もが捕まえる権力があると思わせることで、内部から壊せる体勢を作り、悪事を働かせないようにしているってことか。


「だが、それには欠陥がある。誰が執行者を監視する?」


どう見てもそれは大きなデメリットじゃあないか。何がメリットがあるだ。


「それが統制者だ。執行者は捕えるという権利を有すが、統制者はそれをコントロールする役割がある。


執行者の3年以上の実務経験

書類選考

面接

法律の暗記 

4人の国皇、執行機関長、処刑室長…多くの人物からの許し


といった難しい審査を受け、初めて統制者になることができる。その分給料はどの職種よりも高く設定されている。


統制者は執行者の尋問を監視し、執行者を統制する。そして執行者を糾弾できる。その最終的な決定は統制機関長である私が決定する。」


長々しい話が終わり、神代の言う意図を理解した。


「もし糾弾された場合はどうなるんです?」


その意味は俺を追い詰めていた。俺は微かに体が震えていた。


「執行者は剥奪。処刑人に刑を執行される。」


その様子を見てか、神代は口角をあげ、にやりとする。


「待て!そんなこと聞いたことない!」

「言うわけないだろ。だからメリットが上回るんだよ。」


統制者が最も勝ち組なのは知っていた。だが、こんなルールがあるなんて、聞いてもいない!

なんて、汚いんだ!そんなの外道がするようなことじゃないか!

『嵌められた』

今の俺の心情はそれひとつだった。


俺はそのまま腕を誰かに捕まえられる。

その力は強く、振りほどけそうにない。


「待て!あれは俺だけじゃない!あれは…」


俺は生き残るために必死に弁明する。


「ああ、後で聞く。

その前に正義を骨の髄まで味わうといい。」


無慈悲にも突き放され、俺は連れていかれた。


「生きていればな。」


神代は男が連れていかれた後に、小さくボソリと呟いた。



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