名前 ギルドへ
「今から渡すのはギルドライセンスだ。」
1人1人順番にカードのようなものが渡される。
アンレイル・ラナウェイ
ランク:Ⅰ
ギルドカードと書いているものにはそんな情報が書かれていた。
「これから先、そこに書いてある名前で生きてもらうから。」
ラックは衝撃的な発言をした。
「なんでよ?」
「いやそう言われても、そう言えって言われただけだから。」
誰だそんな真似をするのは?
ジトっと目を向ける。
「そんな目すんな。知らんもんは知らん。まあ心機一転よ。」
目をそらされ、開き直られる。
「誰に言われたんだよ。」
「…。グビッ。ゲッ。」
目の前で一升瓶を飲みやがった。そして汚いげっぷをされる。
(最悪だこいつ。)
学校でやったら間違いなく嫌われる。それほど言いたくなかったことなのか。それとも口が滑ったのをごまかしたのか…うん、ごまかしたんだろうな。
ノリで生きている男だから、不思議ではない。
「そもそもお前未成年だろ。」
「もう1000歳は超えてます~!途中から数えてないけど。」
それはにわかには信じられなかった。
なぜならどこからどう見ても、よく見ていた顔そのままで、全く老化を感じさせなかった。
「人を第1印象で判断するのはよくないな。学校でも人を見た目で判断するなって教えられたでしょ。
これだから最近の若者は…。」
喋らせれば、1回1回鼻につく。
やっぱりこいつを調子を乗らせたら、面倒だと感じた。
「そういや、みんなの名前は?」
ここで新しい名前だということを思い出す。
「アンレイル・ラナウェイ。」
「フルーレット・ラナウェイ。」
「フラッド・レイン。」
「オトハ・シズカ」
優花はフルーレット・ラナウェイ、将貴はフラッド・レイン、明日香はオトハ・シズカ
覚えないといけないな。
「えーと、後は…。ああ、そうだ。ギルドの案内だ。」
ラックは手を叩いて思い出したように答えた。
「じゃ、行くか。」
ラックが先導のもと家を後にした。
「ここよ。」
汽車を乗って移動してしばらく歩くと、大きなガラス張りの建物にたどり着いた。
扉の前に立つと、扉はスライドして開く。
(酒場みたいなイメージだったけど…。本当に異世界なのか?)
中は酒場の酒なんて文字はなく、役所のように窓口と座る椅子がいくつもあった。
中に入ると、その視線は好奇な目で見られた。
フラッドが車椅子だから異質なように見えるんだろう。
「酒場みたいなとこじゃないんだな。」
「ここは役所を統括したところだから、ギルドだけではない。エリアⅡとⅢは宿屋と直結してるから酒場みたいなところだけどな。頭のねじが外れたのもいるから面白いぜ。」
それは…いやかも。
何するかわからない奴と一緒なんていやだよ。
「邪魔すんで、ギルドマスターはいる?」
「ラック様、今は不在と言うか…お耳を貸してください。」
「ふん?」
「実は…。」
ギルドと吊り下げられた看板に書いてあるところの受付にラックは話しかけると、コショコショと受付嬢は耳打ちする。
「エリアⅢまで連れて行けだと?」
「し!声が大きいです。」
「エリアⅡに呼んでおいて。」
「え?え?」
「そんじゃよろしく。」
「ま、待ってください!」
耳打ちを無駄にしただけではなく、ラックは自分がしたいように言うだけ言って戻ってきた。
そこには受付嬢の悲痛な叫びだけが残った。
「よーし、行くかあ!」
そのまま受付嬢を完全無視していった。
入ってきたときとは逆の入り口を通ると、その先には広大な大地が広がっていた。
遠くにはプルンとしたゼリー状の生物が這いずっていた。
「あれはなんだ?」
「スライムだ。」
スライム!RPGとかでもよく出てくるあの魔物か!
俺の中の少年心がワクワクしていた。
しかし違和感もあった。
「跳ねてはないんだ。」
「そういうのもいるが、ここにはいない。」
「「そっかあ…。」」
俺とフルーレットは落胆する。
家で一緒にしたゲームで出ていたキャラを見たのに、がっかりだったからだ。
近づいていくとその生物が前にいる。しかし自由気ままに動き、襲ってくる様子もなければ、どこうともしない。
「邪魔だ。」
その刹那、風を切る音が聞こえる。
パン!
破裂する音と同時にスライムは消滅した。
「「…。」」
絶句した。ビジュが良くないとはいえ、こんなのはあんまりじゃないか?
「どうしたん?」
「いや、なあ。」
「うん、ええ。」
驚きのあまり何もかける言葉が見つからなかった。
歩けば歩くほどスライムは増えてくる。
それはさっきの比ではなく、何倍の量に増えた。
「ちッ!」
ラックは舌打ちをする。目の前のスライムたちに苛立ちを隠せなくなってきている。
そして、その瞬間だった。
(うおっ!!)
一瞬だけ毛が逆立つような感覚が襲い掛かり、鳥肌が立つ。
(何だったんだ。)
そう感じるも束の間、目の前には衝撃的な光景が広がっていた。
「スライムが溶けた?」
元気よく動いていたスライムが突如として形がどろりと崩れ、そのまま動かなくなった。
そして、蒸発するようにすーと消えていく。
やがて目の前にはただの大地が広がっていた。
「ふうー、すっきりした。」
その顔はさっきの苛立った感じはなく、憑きものが落ちたかのような顔をしていた。
その変貌具合でさっきのはラックがやったのは一目瞭然だった。
「何さっきの?」
「ちょいと脅しただけよ。」
脅す?脅して死ぬのか?
正直言っていることが意味不明ではあるが、どこをとっかかりとしたら良いかもわからない。
とりあえずトンデモパワーが働いたって思っておくことにする。
「よーし、付いたぞ。」
目の前にはログハウスのような建物が見えてくる。立てかけられた看板にはギルドⅡ支部と書かれている。
微かに外に笑い声が聞こえてくる。外には何人かが立っている。
中に入ると、そこには活気あふれた酒場があった。
そのエネルギーに溢れた様子に俺は圧倒された。