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嵐の星のもとで  作者: 音頭
序章
16/32

今後

「明日香そろそろ離して。」


ずっと抱き着かれるのは少し辛い。


「あ、ごめん。」


彼女は離れて、顔を見る。端正な顔つきのはずなのに、泣きすぎて目元が腫れてせっかくの顔が台無しになっている。


(あれ?)


腕は動くのに、まったくというほど足がピクリとも動かない。


「どうしたの?」

「足が動かない。」

「え?」


脚が動くが、足だけは決して動かない。


「もうお前の足は二度と動かん。それは戻ることはない。」


奥からあの女をおんぶしている男が来た。女は安らかな顔して、眠っている。


「あんたは?」

「私の名前はノーツ・モスキート。ここの主だ。お前はアキレス腱を切られた。二度と再生することはない。」


それはある種の死刑宣告だった。再び足を見る。やはりピクリとも動かない。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…。」


明日香は頭を抱え、ごめんなさいを連呼する。

彼女の中の罪悪感が苦しめている。

けど、こうなったのは仕方ない。どうこう言ったところで変わるわけでもない。何より彼女を逃がす選択をしたのは俺だ。

真っ赤に腫れた手、見ただけでもとても痛そうだ。それが必死だったということを教えてくれる。

彼女に落ち度は何もない。


「明日香、ありがとう。」

「え?」


彼女は驚いたように俺の方に顔を見せる。


「俺、正直死ぬと思ってた。けど、明日香が助けてくれた。もうそれで十分だ。」

「でも一生歩けないんだよ。私があの時こけなかったら、そうにはならなかったんだよ。」


ここまで突き詰めているのを見ると、何か過去にあったんじゃないかと思う。


「明日香、それは結果論だ。生きてるんだったら、前を見て生きたい。だから、肩貸してくれない?」

「う、うん。」


彼女は涙を拭きとって、俺に肩を貸す。しかし彼女の方が背が小さく、俺の足が地面に着く。


(そっかあ。)


彼女の方が低いことを忘れてた。そして表情を見てもきつそうだ。


ふわ


この時、浮遊感を感じる。


「雑なのはご了承ください。」


どうやら俺らはスターチスに担がれたようだ。


そのままで、階段を上がり、あの長机のある場所へと戻って来る。


「モスキート様、シャワー室は何処に?」

「付いて来い。」


シャワー室は浴槽のない普通のシャワー室だった。

男女で別れているわけではないので、一人一人順番に入った。

俺は足を動かせないので、スターチスさんと入った。

その後は、部屋に連れていかれ、ベッドに寝かされた。

部屋は明日香と同じだったが、そんなの気にせず、疲れすぎて、俺は眠りにすぐ落ちた。


~~~

「彼女は何者だ?」


突如現れたメイド姿の少女。こいつの正体が謎に包まれていた。

名前は確か明日香と言っていた。そして、2番(ベータ)と面識があったということは、おそらくは転生者だ。彼女は4番(デルタ)になるだろう。回収は順調だ。

それよりか今は気になるのはその正体だ。

手には血液の入ったアンプルがある。これは眷属を召喚したときに彼女から拝借したものだ。

それを因子解析したら、彼女は吸血鬼と蚊の蟲融人の因子を受け継いでいた。


「彼女は私とエルの娘になる。いつそんなことを?」


吸血鬼と蟲融人の交配は人間と同じようにして行われる。だが、今回そのようなことを一度たりともしたことがないのに彼女は誕生した。この矛盾が謎だった。


地下には私が作ったデスキートという吸血鬼と私の因子を練り込んだ眷属がいる。

それは魔素を濃縮させることによって鉱物化し、強力になった甲殻と吸血鬼の再生力を合わせ持つ。

兵器としての運用を考えて作っていたが、でかくて気持ち悪いや士気を低くするなどの意見があったため、使うことを断念し、封印せざるを得なくなったものだが…。


「それに彼女を挿入されたのか?」


彼女の意志を介在させる。そのことが魔素の充満した体に化学反応を起こし、姿が変質し人の形をとった。


「そんなことはないか。考えすぎか。」


考えたことは理論的にはおかしな話ではない。

だが、観測されたことはなく、あまりにも奇跡的。できすぎた話だ。

しかし確認しようとも、スターチスの浄化の光によってすべて浄化された。証拠は何もない。

確認や証明をしようとも、不可能であり、いくら考えようが、机上の空論になってしまう。


「今後のことを考えなければな。」


重要なのはその結果だ。疑似蟲融人として考える方がいいだろう。とりあえずは観察が必要だ。



「ここにいるんだろ。お前と打ち合わせをしたかったところだ。」

「おやおや、気付いていたか。」


どこからともなくハエが現れ集まり、ステッキを携え帽子を深くかぶった男が現れた。


「どうやら大変だったようだな。」


奥で眠っているエルの方に一瞬だけちらりと目を向ける。


「お前の方は明日だろ。こんなところで道草喰っててもいいのか?」

「あの2人の世界に入り込むのは至難の業だ。今日のところは放っておいていい。下手に外に出て鱗粉でも吸われたら面倒だ。できる限りタスクを増やせない方がいい。増えるとしんどいし、面倒くさい。」

「そうか。後、2人申請しておいてくれ。」

「うん?2人。増えたのか?」

「なんだ見てないのか?」

「ああ、面倒だったから。」

「面倒って…。わざわざ体に寄生させている意味があるのか?」

「見るときは見る。見ないときは見ない。見るのはお前の仕事だが、私は主には検死だ。見るより探すのが仕事だ。だから気分次第。それの方がワクワクするし、怖いっしょ。

けどお前も私を見てる。だからイーブン。

ま、それはそれとして、概要教えて。」


相変わらず、適当な男だ


「まあいい。まずは…」


今日あった出来事をすべて話した。



「ほーん、なるほど。しかし、戦力として加算させるのか?ライセンスの発行はできるが、魔法も使えない上に移動は車椅子だろ。それだと腫れもの扱いされるぞ。

いくら彼女が付くといっても、彼は孤立する一方だ。その選択肢は現実的じゃない。リタイアさせる方がいい。壊れるし、壊されるぞ。効率は悪くなる。あれが消しにかかってくるぞ。」

「彼女は依存するだろうな。これ以上にするだろうな。それでいい。潰れたらそこまでの奴らだったってことだ。感情で選んでいるわけではない。狙いはある。」

「そうか、ここでは納得しておこう。それにごみの清掃にもなるしいいか。グランに伝えておこう。名前はどうする?」

「お前の方で決めてくれ。」

「よしきた。任せとけ。4人分だな。」

「ところで、お前地下を使ったことは?」

「地下?ああ、あいつに言われたから1回だけある。羽音がやかましくて、1回しか使ってないけど。

そもそもお前のところでやったら。なんか見られてそうでやりにくいから、もう来ることはない。」


羽音は多分デスキートのせいだな。

しかし、1回だけか、何回も見た記憶があったから。やっぱり、あいつに幻像を使われて、騙されていたか。エルをいいように使われて腹立たしいな。

当の本人からは知らんと一蹴されたが、奴が関わっているのは間違いない。

あいつは何を考えているかが分からん。


打ち合わせは終わった。

男はすぐにハエに姿を変え、去っていった。


「エルにはどう説明しようか。」


やっとのこと解放されて眠りにつき続けているエルを見て、思案を巡らせるのだった。















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