追い込み
「さあ、やろうか。」
私はエルの前に立ちふさがる。片手に太刀を構える。
「あなたに私を殺せるかしら?」
エルは赤黒い槍を生成し、手に持つ。
地面を足で蹴り上げ、その勢いのままに腕を振り下ろす。
キン!
金属音が鳴り響き、両手持ちの槍でガードされる。しかし返される力は強くない。
「さっきの光がまずかったようだな。あまり押し返してこれてないな。」
光は彼女を弱体化させた。
崩すのにはあまり苦労をしそうにない。しかし、顔には焦りが見えない。
(何が狙いだ?)
私は気味の悪さを持っていた。
「そんなことより自分の心配をしたらどうかしら。」
顔のあたりがきらりと輝く。
その瞬間一閃の光が放出される。首を傾け避ける。
「そんな狙いがバレバレのものくらうはずがないだろう。」
「そうかしら?だったら、次を避けてみたらいいわよ。避けれるのならね。」
また射出されようとしている。
そこで、狙いに気付く。
(なるほど、狙いは倒れているガキだ。このままいけば、貫かれる。)
かと言って、私が庇ったところで貫通する未来も見えている。
おそらくは崩しも、間に合わない。
それが、奴の余裕の理由だ
「あなたが強くても、そこにいるのは弱者よ。もう二度と歩けなくさせたんだから、あなたに対してはいい人質になるわ。」
射出される。しかし、倒れている彼には当たることなく、空中で消滅した。
「へ、どうして?」
その混乱が隙を作った。その隙をついて、槍を下から上に押し上げて体勢を崩す。
「しまっ…。」
そのまま右上から左下へと太刀を振り下ろす。
「浅かったか。」
敢えて服を辛うじて切らすだけで留まらせる。
ここから少しずつ心を追い込んだ行く。
「なんでだよ。」
中身の焦りが出てきていた。
「その力の根幹は血だ。血をレーザーのように射出したのがさっきの技だ。だが、それはとても遅い。零距離であれば、遅かろうが効果的だ。特にさっきみたいに人質がいたりする場合はな。だが、タネがわかっているのなら対処なんか簡単だ。血には血をぶつければいい。」
血を媒体にする攻撃には血をぶつければいい。
タネあかしをして、余裕をなくす。
「まさか、蚊をぶつけたのか!」
「そうだ。…余裕がない顔をしたな。それもそうだろうよ。その技は無限ではなく、体内の血を使っているのだろう?どうする?その子は貧血だぞ。吸血鬼なのに血が最も嫌いな子だからな。無駄撃ちすると体がふらつき始めるぞ。血液は大事だからな。」
「ふん、だが、貴様が俺を殺せないのはわかっている。お前はパートナーであるこいつを殺せるのか。」
エルは自分の体をポンポンと叩いて挑発してきた。
「なら試してみるか。眷属召喚。」
どこからともなく、蚊の大群が押し寄せる。
「眷属分解」
体を蚊にして群れに溶け込む。そのまま群れはエルを中心に回り始める。
「くそ、気持ち悪い技だ。」
気持ち悪いという人が大半だろう。それが奴の心をすり減らす。
「ッ!」
時より腕と太刀に戻して、斬りつける。皮膚の表面を切りつけ、斬られたと錯覚させる。
いくら反撃して傷付いても、眷属変換で怪我した部位を取り換えることができ、その犠牲はあまりにも微々たる足るものだ。
それを眷属召喚して数を補充し続ける。そんなサイクルを繰り返す。
そして、時に攻撃をする。それをゆっくりと繰り返し続ける。
エルの顔は余裕が完全になくなっていた。
どんだけつぶしても、その黒い渦は止まることはない。
奴は削れるが、こちらは何も変わらない。
無意味な攻撃、無意味な防御、それが奴を狂わせていった。
奴は完全に限界が来ていた。もう戦意喪失しているのは明らかだった。
「聖者の手」
「しまった!!」
どこからともなく白い手が現れ、エルから何かが引きずり出される。
引きずりだされたエルはそのままばたりとうつ伏せに倒れた。
完全に精神を折られた奴はスターチスに引きずり出された。
眷属状態を解除させ、元の姿に戻る
「神罰は下される。神の裁きを受けよ。神雷」
スターチスの指先に光が収束し放たれる。引きずり出されたものは光に貫かれる。
「熱い熱い熱い!」
奴は悶え苦しみながら、消滅していった。
~~~
「くそお!もうちょっとだったのに。」
もうすぐで、手に入ったのに!吸血鬼と蟲融人のハイブリットがやっと完成したというのに。
分体が完全に滅せられたので、マーキングも使えない。
あのオークめ!
「まあ、いい。次がある。」
「次?君に次があるとでも?」
声をした方に振り返ると、そこには氷のように冷たい目のした男がいた。
「私は一番嫌いなのは無能だ。何でここにいる?」
「は?何言ってんだ?俺が無能?そんなわけないだろ?」
命令したのはこいつなのに、どういうつもりだ?
「今回の件でモスキートに彼女を殺させてやれば、お前はよかった。」
こいつ、俺に死ねって言ってるのか?
「待て!あれはあのオークがいたからだ。」
「確かに一理ある。」
「だったら…「過程は聞いていない。」」
「私が聞いているのは結果だ。分体である君が死んだところで、君には何の影響もない。君が死ぬというのが最もな利益だったがはずだが、何でしなかった?」
まずい…
「それは…。」
「マーキングをしたかったんだろ?しかしどうも解せないね。何でしたかったんだ?執行機関である限り、君が彼女に近づくメリットはないはずだ。モスキートの反感を買うだけで、君にはデメリットしかない。やる理由がないはずだ。」
「…。」
「君、スパイだろ。」
「!?」
何でバレているんだ?
「彼女を使って何したかったんだ?君は用済みだ。しかしその情報は聞かせてもらおうか。ついでに君が誰のもとにいるのもね。」
ゆっくりと男は近づいてくる。
「く、来るな!来るな!」
俺は必死に足搔こうとしたが、体が金縛りにあったように動かない。
そんな時だった。
コンコンコン!
「デスカル様、いらっしゃいますか?モスキート様より通信です。」
誰かが部屋をノックしてきた。
「ああ、今行く。
モスキートに見られたら、厄介だな。また来る。この部屋で大人しくして持っておけ。」
そう言うと、デスカルは部屋から出て行った。
「はあ、ちびるかと思った。」
体は動くようになっていた。
一刻も早く俺はこの国を出ていかなければならないと思い、急いでこの場所から去った。