終幕
冷たい冬、そこに現れた者は初めから結末が定められていた。
そんなことも知らず、生きようとした。
だが、そのあがきは運命によって無慈悲にも潰された。
皆日常を楽しんで過ごしていた。
学校と同じように暮らし、遊んでは寝る。時に勉強することもした。
監視者は彼らの要望を聞き、出来る範囲で与えた。
1つ違うとしたら、30人が一斉に同じところに住むようになったところだろう。
初日は言い争いがあったりしたが、それが1カ月経つと、慣れて誰も文句を言わなくなった。
そんな平和な日が続くと思っていた。
我々もその記録を見て、猶予を4年からもっと短縮してもよいと考えていたその矢先だった。
それはもう3カ月になろうとした時だった。
空に蝶の大群が現れた。それは1日ではなくしばらくの期間続いた。春が訪れそうな矢先だったから、その子たちにとっては全く何も疑問を持たなかったんだろう。しかしこれは異常だった。
彼らのいる場所はエリアⅠ、この国の外に位置する場所で、それよりも外にあるエリアⅡ・エリアⅢと比較しても魔素の量が圧倒的に薄いため、植物も強力な魔物もほとんど生息していない。比較的安全な場所だ。
餌のないそんな場所に何故蝶が飛ぶ?そんな不可解な事情が続いた。我々はその不穏な空気を感じ、警戒態勢をとった。
そして、その予想は的中した。
始めは『眠れない』と訴えるだけだった。だが、徐々にエスカレートしていった。
己の体を自傷するもの、他者に暴力をふるうもの…。
それは監視者へも例外ではなかった。
その異常性ゆえ、無視することは出来なかった。状況の解析をするのがその時は優先すべき事項だった。
落ち着いた際に、1人1人にカウンセリングした。
そうしてカウンセリングをした結果、最悪な出来事が起こっていた。
思考誘導…。何者かの思念に彼らは引っ張られやすくなっていた。それは水面に落ちる波紋のように広がる。
誰かが行動を犯せば、それを真似する。そうして起こったのが狂暴化だった。この状態は非常に危険な状態だ。国民として認めたら、突如として暴徒化するリスクが非常に高かった。
この思考誘導は魔術の中でも最も難易度が高いとされている。それは術そのものの難易度ではない。
解術の難易度だ。術自体は精神の弱みに付け込んで暗示する…巣くって直接操作をする以上に質が悪い。
解除するにはこの暗示を晴らす必要がある。それは本人にとって、それ以上のショックを与える必要がある。即ちトラウマだ。
そう判断された結果、荒療治を行うことにした。
監視者は執行手形を発行された。いついかなる時であっても、彼らに罰を執行できる。例えそれが死であっても、執行できる。だがこれは最終の段階だった。
しかし現実はそれを実行させた。
いくら逃げようとしても、脱走防止で土壁を盛り上げて周囲を囲んである。その壁が彼らを絶望させた。恐怖が彼らを支配するまでそれは続いた。
その惨劇の後、彼らは従順になった。思考誘導は確実に解消された。
実はここまでに疑問があった。思考誘導はかなり厄介なものだ。
だが、どうやって彼らを扇情させたのかだ。火のない所に煙は立たない。
彼らをあそこまでヒートアップさせた何かがあったはずだ。
その日の夜に1人の子をカウンセリングした。その子が霧雨椎名だ。
実は唯一惨事を知らず、ずっと体調を崩し、隔離していた子だ。
本人からの要望ですることになった。
彼女は自覚なしの祝贈持ちだった。彼女の力は簡単に言えば、見えない声を聴く。
しかし彼女に聞こえている声は怨嗟だった。だからかなり不安定だった。
彼女は惨事を知っていた。そして教えてくれた。
そこで何故一連の出来事が起こったのか理解した。
原因は嫌悪感の暴走。即ち、クロカゲがゴキブリの蟲融人であることがばれたことだと。
同時に犯人は真名を知っている人間だと分かった。
そして、彼女と取引をした。
そうして、その声は私に憑いた。その声は憎悪と憤怒が入り混じっていた。
同時に『家が燃えてる。』と連絡がきた。
現場に駆け付けた時にはもう遅く、全て全焼していた。
ギルドに要請し、消火はできたが、残ったのは生焼けの死体と焼け焦げた木材だ。
次の日になって、家を調査すると、死体には部位がなかった。
あるものは手が、あるものは足がというように。
だが、その悩みはすぐに消えた。目の前に答えが来たからだ。
それは体が糸で紡がれた怪物だった。まるで人間の一部一部を紡いでいるようだった。
そいつはこう言った「私は冴羽双葉です。昨日の火事を命からがら逃げてきたんです!私は見たんです!コックローチが火をつけているのを!」って必死にアピールした。
それは自分で犯人だと自白していた。
「…ここで私は確信した。
これは陰謀だった。お前がいなければ誰も欠けずに生きれたことだろう。」
フライは長話を終え、口を閉ざした。話された話はにわかには信じがたいことだった。
フライの周りの空間が大きくゆがみだす。
「何をするつもり?」
双葉は顔を青ざめる。
「生きながら食い荒らされるのはとんでもなく苦痛だ。」
「待ってよ、謝るから。何でもするから。」
双葉は顔に怯えを見せる。
「謝る?謝るで済むもんじゃない。お前が何を言おうが、どうでもいい。死体の体は…体を保つのが限界なんだろ。もうさっさと失せろ。フィルターをかけ続けるのが面倒だ。お前からもらう情報は何もない。用済みだ。
これにて終幕だ。」
フライは冷たい言い放った。
歪みは黒い影だけを残し、双葉に近づく。
「嫌だ、やめてやめて、いやあああああああ!!!」
双葉は黒い影に覆われ、断末魔を上げ、黒い影も双葉もいなくなりそこには色とりどりの蝶が舞っていた。