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親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


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やっぱり性格が悪い

 ◇ ◇ ◇



 爽司が帰り、俺も道場を出ようとしていたところで、茉莉が立っていた。


「うおっ。なんでいるんだよ」


 いったい、いつからそこで待って……いや、もういい時間だろ。良い子は帰れ。

 

「それはこっちの台詞です。なにをしているんですか、朔仁くんは」


 なにをしているって、道場ですることなんて決まってるだろ。俺だって、道着を着ているままなわけだし。

 いや、違うな。

 茉莉が、そんな、見てすぐにわかるようなことを聞いてくるはずもない。

 

「べつに、たいしたことじゃない。それより、こっちの質問に答えろよ」


「……まあ、ここは朔仁くんのホームですからね。実は、話していなかったことですが、私は魔法使いなので、瞬間移動ができるんです。朔仁くんの弱っていそうな気配を察知してやってくることくらい、朝飯前だということです」


 どうやら、本当のことを話すつもりはないらしい。

 茉莉は挑発的な笑みを浮かべて、俺と、それから、道場の中を見回す。


「七原さんはもうお帰りになられたんですね」


「……まあ、修行の時間は終わってるからな」


 もしかして、爽司に用事があったとか? それとも、そもそも、爽司に呼び出されたからここに来たってことなのか?

 いつもは修行中に見学になんて来たりしない茉莉が、今日に限って来るとか、タイミングが良すぎるしな。

 

「本当に、朔仁くんたちがなにを思って、なにをしていたのかということはわかりません。なんだか、喧嘩のようなことをしていたらしいとは、想像くらいはできますけど」


 実際、茉莉はきっかけの一つだったってだけで、そこまで関係はないからな。まあ、本当に知らないなら、勝手に巻き込んでいて悪いとは思うけど、巻き込まれてるってことも知らなかったのなら、相殺されるだろう。

 仮に、爽司に向けられていた気持ちには気付いていたとしても、それに関わってはこなかったわけだしな。 


「それで、区切りはついたんですか?」


「区切りとか、そういうことじゃないんだろうけどな」


 一応、言いたいことは言い合えたって感じか。

 

「大仰なことなんてなにもない、よくあるいつもの喧嘩だ」


 だから、茉莉が気にすることなんて、なにもないってことだ。

 茉莉のことだから、俺と爽司が喧嘩してたからってなにを気にすることがあるんですか? みたいに思ってるかもしれないけどな。

 実際、俺とか、爽司の想いとか、当人同士としては思うところもそれなりにあったけど、茉莉からすれば、なんだか勝手に盛り上がってるってくらいの感覚だっただろう。

 

「七原さんは言うまでもなく、朔仁くんも透花さんには失礼ですよね」


「そこに俺を並べるなよ」


 透花に対する失礼度で爽司と同列に扱われるのは、大分、俺に対して失礼だとは思わないのか?

 

「透花さんはお節介なんて必要ないと思っていると思いますが。というより、大抵の人はそうだと思います」


「お節介までやいてるつもりはねえよ。ただ、幼馴染だし、何年も見てきてるんだぞ。ほんの少し、背中でも押そうとっていうか、そこまででもなく、ちょっとそっちを向かせようとしてるだけだろ」


 このままだと、爽司と透花はあと十年くらい、あのままだぞ。

 ゴールデンエイジとか、青春時代とか、思春期とか、そんな風に言われる時期なんだろ?

 そりゃあ、まあ、今までそんな気配は微塵もなくて、告白されるまで茉莉の気持ちにもまったく気づいていなくて、女心に対する理解なんて欠片も持ち合わせていないような俺に言えることじゃないっていうのは、そのとおりだろうけど。

 

「外から突っついて破れたりしたらどうするんですか。そういうのは、外からでも、じれったいところを見て楽しむものです」


「性格悪いな、茉莉」


 他人の恋愛に対する立ち位置なんて、そんなものでいいのかもしれないけど。

 その過程だって、のちに、必要だったとかって言えるようになるのかもしれないし。俺だって、少し前まで、こんなことを言ったり、あるいは、考えたりでもするようになるなんて、まったく思ってなかったわけだしな。


「そんな、性格の悪い私に付き合ってくれている朔仁くんの性根は、問題ないと言いたいんですか?」


「いや、まあ、俺だって反省するところはある……とは思ってるよ」


 茉莉から告白されたときに、雰囲気とか、そんなことなんて気にせず、爽司と正直に話し合っていれば、ここまで――殴り合いなんてことにまではならなかったんじゃないかとは思う。

 とはいえ。

 

「まあ、でも、爽司の想いとか、考えとかは別にして、あいつのことは、いつかぶっ飛ばしてやらないとならないとは思ってたけどな」


 べつに、爽司が誰とどれだけ付き合おうとか、別れようとかってことを繰り返そうと、どうでもいいって思ってることは事実だけど。

 

「どうしてですか?」


「いや、それは、なんとなく」


 透花のことがあるから、幼馴染として思って、なんてことは言い訳にしない。

 実際、俺がなにかしたところで、誰かのためになんてなるとは思ってない。今回、爽司とぶつかり合ったのだって、半分はあいつからで、残りの半分は俺の個人的なものをぶつけるためだったしな。

 

「朔仁くん。なんとなくで人に暴力を振るうのはよくないと思います」


「……急にまともなこと言うんじゃねえよ」


 言ってることはそのとおりなんだけど。反論のしようもないくらいには。

 一応、まったく、なにも理由がなかったってことじゃないからな?

 茉莉は小さく笑って。 


「冗談です。朔仁くんがなんの理由もなく他人に暴力を振るうとは思っていません。きっと誰か、なにかのためなんでしょう。教えてもらえないことは、少しだけ、面白くないとも感じていますが」


「それは――」


「たとえ、聞いていたり、察していたりしたとしても、朔仁くんの、相手の口から直接聞きたいと思うこともある、ということです」


 そういうこともあるんだろうか。

 そうだな。たとえ、透花の気持ちとか、爽司の気持ちがわかったとしても、当人同士でそれを話し合いでもないけど、伝えあってほしいと思ってることは事実だしな。

 

「今回のことで、七原さんは透花さんに素直になると思いますか?」


「いいや。そう簡単じゃないだろうな」


 それに爽司が、自分のことを好きだとか言ってくる相手のことは好きじゃないって言うなら、下手に透花のことを焚きつけるわけにもいかないだろ。もともと、そんなつもりはなかったけど。

 一応、今の爽司が相手なら、それでも大丈夫なんじゃないのかとは思うけど。とくに、透花が相手なら。むしろ、透花以外ならだめだろうけど、透花なら大丈夫なような気もする。

 もちろん、そんなことは、いまさら俺の関与することじゃない。透花だって、いきなりされたら、戸惑うだろう。

 まあ、べつに、結婚、夫婦だとか、恋人だとかってだけが、人間関係の形じゃない。

 たとえば、また、十年とか、十五年とか、そのくらい先のことでも、爽司と透花が隣にいて、なんだったら、俺もそれを見られるくらいの立ち位置にいられたら、それだけでもいいのかもしれないし。


「茉莉だって、爽司と透花については、見ていて思うところもあるだろ」


「……私を一緒にしないでください。朔仁くんは、私によく何様のつもりだとか言いますが、七原さんと透花さんに関しては、大概だと思います」


 それは、まあ、べつにこのくらいいいだろ? 爽司だって、事あるごとに俺に彼女を作らないのかとかって聞いてきてたくらいだぞ。

 ずっと近くで見てると、いろいろあるんだよ。


「ですが、少し残念ですね。もう少し、七原さんには秘密のままでいてというのも、面白そうだったと思うのですが」


「やっぱり、性格悪いな」


 

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