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親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


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ばーか、うるせえばーか

 どうやら、あのときの俺の感覚は正しかったらしい。

 それに、良い雰囲気だった、だと……? そんなことまで覚ってたのかよ。

 少なくとも、俺にはそんな雰囲気をしている自覚はなかったけど……これも、当人にはわからないってことなんだろうか。


「朔仁が自分から女子相手に好きだのなんだのなんて、言えるはずないと思ってた。朔仁は良いやつだからな。俺が気になってるって言っておけば、そいつに近づこうと思ったりはしないし、そうなりそうだったとしても、自分から離れる選択をするだろうってな。まあ、現実は、俺の想像をはるかに超えたわけだ」


 誰かを好きになるとか、恋をするとか、ようするに、惹かれるなんてことは理屈じゃないんだと、昔、爽司から言われた気もするな。

 爽司の気になる相手とわかっていて、茉莉と付き合うことを決めたように。もっとも、それは、相手側からのアプローチも過激にあったからだってことも含まれてるだろうけど、結局、決めたのは俺だ。

 

「それに、俺は聞いたよな? 白月をデートに誘ってもいいのかって」


「そりゃあ、知らないと思ってたからな。デート――一緒に遊びに行くってことを決めたのは茉莉の判断だろ。そんなことにまで口出す権利はないだろうが」


 それに、事前に報告連絡相談があったからな。

 そんな程度のことも信頼できずに口出すんなら、どうせ、長く続きはしない。

 長くても、数か月程度で別れてる爽司にはわからない……そんなこともないだろうな。俺だってそう感じているくらいだ。


「俺が知ってるとわかってたら止めてたのか? いいや、そんときは、俺たち二人のことを信じてるとかそんな感じの理屈をこねて、結局、許可してただろ、朔仁なら」


 それは、そうかもしれないけど。幼馴染と彼女を信じないやつなんていないだろ?


「爽司はそうじゃないってことか?」


「そもそも、朔仁はそんなことしないだろうと思ってるって言ってるだろ。他人が想ってるって程度の相手ならともかく、付き合ってまでいるような相手に懸想するようなやつじゃないよ、おまえは。俺が白月に興味を持ってたのは、朔仁と付き合う前からだろ。いや、朔仁と付き合ったのが、それより後だったって言えばいいのか? そもそも、よっぽど特別なやつじゃないと、自分の彼女を他の男と二人で遊びに行かせて平気だったりしないんだよ」


 それこそ、個々人の感覚の話じゃねえか。

 

「それに、白月は俺が気のある素振りをしても、全然、俺のことを好きになるような様子もなかったからな。ああ、こいつは朔仁しか見ることはないんだと思ったよ。それで余計に惹かれたね」


「……爽司。おまえ、滅茶苦茶なこと言ってるって自覚してんのか?」


 それは、自分のことを好きになるはずのないやつに惹かれてるって言ってるってことだぞ。

 その想いが叶うことはないと知っていると。絶対叶わない道にその身を投げると。

 それでも、想い続けるだけでもいい、そういうことか? それは、いくらなんでも、馬鹿なんじゃないのかと言いたくなる。


「朔仁だって、白月に恋をしたならわかるだろ? なにをおいてでも、たとえ、どんな道だろうとも、それを求める、求めずにはいられない気持ちが」


 爽司は、白月のことが好きになったとか、それ自体に嘘はないんだろう。

 ただ、それは、白月茉莉個人にどうしてもってことじゃなく、俺という物差しを利用して定めているだけだ。

 それは、他の誰かからは不純なように見えても、俺からは、ひどく純粋に思えた。危ういほどに。

 そして、爽司の言いたいことは、俺にもわかる。わかってしまうようになっていた。少なくとも、今、この場においては。

 そうじゃなければ、爽司の気になる相手だと言っていた茉莉と付き合うなんて、絶対にしなかっただろう。

 だけど。


「そんなこと、言い訳にしてんじゃねえよ」


「言い訳じゃない、本音だ」


 だいたいなあ、と爽司が殴ってくるのを、俺も躱さない。


「おまえらが最初から付き合ってるって言ってれば、俺だってデートに誘ったりしないし、朔仁にこうして突っかかったりすることもなかったんだよ」


「知ってたんなら同じことだろうが」


 もっとも、茉莉が、そのほうが楽しそうだからと言ったのに乗っかったのは、俺だけど。

 けど、それは、爽司に黙っていることにじゃなく、爽司を含めて、周囲に関係を秘密にすることにだから。

 

「気になってるってのと、付き合ってるってのは違うだろうが。それは、朔仁だってわかってんだろ?」


「ああ、今まさにな」


 けど、それを言うなら、俺も爽司も、なにも言えなくなるってことだぞ。

 だから、そんなことは前提なんだよ。


「この、むっつり朴念仁が」


「はあ? おまえに言われたくねえんだよ、この軽薄鈍感スケコマシが」


 二人きりの道場で、俺たちの骨を撃ち、肉を叩く音が響く。

 

「軽薄とスケコマシは同じ意味だろうが」


「そんなこと知るか。だいたい、おまえには、二つどころか、百個つけても足りないくらいだろ」


「朔仁に鈍感なんて言われたくはねえんだよ」


「おまえはどこからどう考えても鈍感だろうが」


 ずっと近くにいる、俺でさえ気づいている程度の透花の想いに気がついていないだろうが。

 何年一緒にいると思ってんだよ。

 それで気がついていないんだから、鈍感に決まってるし、気がついていて放置してるんなら、それも鈍感だろうが。

 

「前から言ってるだろ。透花のことは、そういうことじゃないって」


「おまえの都合なんて、気にすると思ってるのか? だいたい、昔から、そういうことじゃないとは言ってるけど、じゃあ、どういうことなのか、具体的に言ってみろよ」


 口ではなんて言おうと、爽司が透花を大切にしているんだろうってことはわかってる。

 ただ、それで、なんで、恋人ってことまで、付き合おうって話にならないのかってことだ。

 まさか、恋愛的な意味で好きじゃないとかって、お茶を濁そうとかしてるんじゃないだろうな?


「……俺はこんな感じだろう? まあ、だいたい、朔仁が思ってるとおりの男だ。これだけ長く付き合いがあっても、透花のことすら、信じきることができていない。そんな俺に、透花を付き合わせるなんてできないだろう」


 ほかの女子相手ならいいとでも思ってんのか? まあ、それはいい。正直、名前も顔も知らない相手より、ずっと身近にいる、知り合い、あるいは、それよりもっと近しいと呼べる相手なんだから、そっちを 優先するのは当然だと思うからな。


「そんなこと、透花が気にすると思ってんのか? まあ、まったく気にしないってこともないとは思うけど、そんな爽司のことは、ずっと一緒にいるのは同じなんだから、透花だってわかってるに決まってるだろ」


 信じきることができてないとかって、言い訳にしてんじゃねえよ。今できてなくても、これからしようとする、そうして関係を築いていくのがパートナーだろうが。

 

「白月一人としか付き合ってない、それも、付き合いたての朔仁に言われることじゃないな」


「はっ。今まで爽司が付き合ってきた相手にそこまでの意味があるってんなら、聞いてやるよ。せいぜい、長くたって同じ相手とは数か月しか付き合ったこともないくせに」

 

 まあ、俺だって、爽司が言うとおり、茉莉と付き合って、所詮は数か月程度だけど。

 そういう意味なら、俺たちは同じ場所にいるだろうが。

 むしろ、今、きちんと付き合ってる相手がいる以上、俺のほうが上だとも言えるだろうが。こんなことでマウントなんかになりはしないけど。

 そんな、なんの得にもならない言い合いをしながら、俺と爽司は殴り合いを続けていた。

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