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親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


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今後、現れないでしょう

 もっとも、爽司に限った話じゃなくて、大抵の人はよっぽどの理由もなく、他人に暴力を振るうことはない。

 そんなこと、茉莉に言えたことじゃないんだけど……いや、むしろ、言っておいたほうが良いんだろうか?

 そもそもの話、理由があれば暴力を振るっていいってことにもならないからな。極論、今日が雨で気分が乗らないから、みたいな理由で手を挙げられないとも限らなくなる。

 

「そもそも、茉莉は爽司をなんだと思ってんだよ。仮にも、あー、女子供に手を挙げるようなやつじゃねえよ」


 それが好きなやつだとか、気になるやつだとかってことならなおさら。

 爽司だけの問題じゃない。好きな相手をいじめて楽しむなんて、小学生男子のやるようなことだ。 

 とはいえ、すでに、俺はもちろんのこと、おそらくは茉莉にも、少なくとも爽司が茉莉に好意を持っているらしいってことが筒抜けだったとしても、それを本人の口から直接伝えてきていない段階で、第三者から勝手に気持ちを伝えたりなんてことはできないし、しない。


「朔仁くんの親友なんですから、信じていますよ」

 

「いや、そこは素直に爽司本人のことを信じてやれよ」


 茉莉に、そこまでの爽司との接点がないってことはわかってるけど。もちろん、クラスメイトではあるわけで、一緒に勉強会をしたりとかもしてるけど、そこまでだ。

 男女の、恋愛とかって意味での交際に関して、初心者である俺に言えることじゃないかもしれないけど、心の内側まで汲んでやって、信じてやってくれなんて、おこがましくて頼めはしないしな。

 

「簡単にわかったような気になりたくはありませんから」


「……それは」


 茉莉に告白してきたような相手のことを言っているのか?

 前に、よく知りもしない相手からの告白を受けるようなことはないとかって言ってたけど。

 俺には、ほとんど顔も知らないような相手から告白されるような祭りの心情とかはわからない。ただ、少なくとも、それを嬉しいとか、好意的には受け取っていなかったことは事実で。

 だけど、俺は爽司のことは、そりゃあ、ただの幼馴染で、なんでもかんでも知ってるなんて言えるような間じゃないけど、それでも、言えることはある。

 

「先に言っておきたいんだけど、俺が茉莉のことを恋人として大切にしたいと思ってるのは本心だから。それを踏まえたうえで言わせてもらうけど、爽司は、確かに羽でも生えてんのかってくらい軽いやつだし、わりと、誰にでも声をかけまくるようなやつだけど、向き合ってるやつに対しては真面目なやつだから」


 せいぜい、この程度だ、俺に言えるのは。

 

「……今の話のどこに信頼できるところがあったのでしょうか?」


「……それは俺も思う」


 幼馴染とはいえ、他人の生き方にそこまで口出しするつもりはないけど、あいつはもうすこし、自分の所業を振り返ったほうが良いと思う。

 俺が、爽司のそういった態度に関して、また馬鹿なことやってんなあって程度に見ていられるのは、それだけの付き合いとか、信頼とかがあるからなわけで。

 けど、高校生にもなって、幼馴染からとはいえ、異性と真面目に付き合いたいならもう少し態度をどうにかしろよ、なんて言われたくないだろ? よっぽど、人道から外れているならともかく……たしかに、付き合ってきた彼女が数十人とかっていうのは、人道から外れているんじゃないのかと思わなくもないけど、さっき話してた内容にもあったとおり、結局、彼氏彼女だ、付き合ったなんだっていうのは、双方の気持ちが重なってないと成立しない関係だからな。

 まして、爽司のそういうところは、わざわざ、調べたりするまでもなく、そういうやつとして認識されるくらいには、知れ渡っているわけで。

 それでも付き合うことに了承してるんだから、女子のほうも同じようなものなんだろうな。

 

「ちなみに、茉莉は、爽司のことはどう思ってるんだ? いや、クラスメイトだってことはそうだけど、俺と付き合ってるってことはひとまずおいておくとして、客観的にというか」


「本当に、朔仁くんは女心がわかっていませんね」


 茉莉にはため息をつかれた。

 その反応は予想していた。けど、先に謝ろうが、どうしようが、この問いかけをすればそういう反応になるだろうことは止められなかっただろうから、どうしようもなかったわけだけど。


「普通、彼女に対して、ほかの男性との恋愛を考えるのかどうかなんてことを聞いたりはしませんよ? 私以外の女性に同じことをしようものなら、即別れ話ですね。いえ、別れ話なんてものがあるなら、それだけ有情かもしれません。張り手一発で出て行かれることでしょう。もちろん、私以外の彼女などというものは、今後、朔仁くんにできることはないと思いますが」


 そう口にした茉莉は、俺に張り手の一発もかますことなく。


「朔仁くんは、私が七原さんに対して、どう思っていてほしいですか? もちろん、クラスメイトとして、あるいは、朔仁くんの友人として親しくしているということ以外に関しての話ですよ?」


「それは、クラスメイトとか、それよりはもう少し親しい間柄とかってことでも、爽司と良好な関係を続けてくれるなら嬉しいけど……」


 俺の幼馴染なわけだから。

 それ以外ってことだと、たとえば、共通の趣味を見つけるとか、そういう話になってくるのか?

 こんなことを俺から言うのは、爽司に対して残酷だろうか? 

 

「朔仁くん。わざと、話を濁しているんですか? 朔仁くんから始めた話なんですから、隠すにしても、私の気持ちをはっきり知っていてくれたほうがやりやすいと思いますよ」


「茉莉の言いたいことはわかる。俺が言うべきなんだろうって言葉も、なんとなくは理解してるから」


 ただ、それはひどく独りよがりな気持ちである気がして。


「ちなみに、私は朔仁くんがほかの女性に気を惹かれるようなことはないと信じていますから」


 それは、俺を信じているのか、それとも自分を信じているのか。

 いずれにせよ、その問いに関する答えは、以前答えたものと変わりはない。


「茉莉には、本音を言えば、他の男に好意を、恋愛的な意味では持ってほしくない。ただ、茉莉は魅力的なやつだから、爽司に限らず、他のやつが好意を持つのはわかる。それが、恋愛的なものでも、そうじゃなくても。それでも、俺も同じように茉莉を信じてるから。あんな告白でも、告白してくれたってことは忘れてないから」


 むしろ、忘れられないって言ったほうが正しいかもしれないけどな。

 

「あ、けど、茉莉が好かれてるってこと自体は、嫌なことだとかって風には全然思ってないから」


 自分の彼女なら、人から疎まれていたり、嫌われていたりするよりは好かれていたほうがいい。 

 自分だけが相手を好きでいればいいとか、そんな狭量なつもりはない。もっとも、茉莉の場合、それがストーカーにまで発展していたこともあるわけで、簡単には言えないんだけどな。


「私は、朔仁くんが今まで女性から好意を受けていなかったことは、べつに、不思議でもなんでもないと思っていますけどね。そして、これからも現れないでしょう」


「それは、自分がいるからってことか?」


 茉莉は、それ以外になにかありますか? と言いたげに微笑んで。

 

「私以上に、朔仁くんに好意を向ける女性は、今後、現れないでしょうね」


 それは、まあ、随分と高く買われたもんだな。


「では、今日もありがとうございました。また明日、朔仁くん」


 無事に送り届けた白月家の前で、振り返った茉莉が微笑む。


「ああ。また明日な、茉莉」


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