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親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


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名前呼び問題

 どうせ、なにを反論したところで言い返されることは目に見えているから、黙っておくけど。

 

「なにか、気がかりだったことがあるんですよね」


 白月はこっちの頭の中なんてお見通しみたいな様子で。


「まあ、ちょっとな……」


 口が裂けても、白月本人に言えることじゃないけど。

 それにしても、告白の答え自体に悩んで遅くなったわけじゃなくて、俺自身のケリをつける必要のあったことのせいで返事が遅れたんだと結論するのは、さすがというか。

 たしかに、白月は美少女だろうけど。

 仕方ないか。そういうところも、白月のことをすごいやつだと思っている一因だからな。

 

「……私が一緒にいたいと思ったのは真田くんですから、遠慮をする必要はありませんよ」


 白月茉莉は有名人で、それなりには、あるいは大分とも言えるかもしれないけど、モテるやつだ。

 付き合いたいとか、そんな風に思っていたやつは、結構いることだろう。

 とはいえ、そんな名前を知らないやつらのことを気にしているわけじゃなく、俺が考えているのは爽司のことだった。

 幼馴染が好きだというやつに惹かれてしまうことは、間違っていたんじゃないだろうか。

 命の恩人で、どうしても返しきれない借りがあるから、爽司の望む結果に落ち着いてほしい、みたいな話じゃないけど、一度や二度、ふられたくらいでは諦めきれないってくらいには惹かれていたらしいから。

 そんな相手から告白されたってこと自体が……もっとも、それは俺にはどうしたって止めようもなかったことなんだけど。そもそも、最初から白月茉莉と関わらなければとか、そんなありえない仮定はするだけ無駄だし。もちろん、あの事情を知って首を突っ込むなってことも同じだ。

 じゃあ、断れば良かったのかって言われると、それは誠実じゃないし。さすがに、友人の好きなやつだから付き合えない、なんて断り文句はありえないってことくらい、俺にもわかる。

 

「ああ。これまでどおりに接するってことでかまわないんだろ?」


 それなら、まあ、隠しとおせるかもしれない。

 いや、隠しとおせるのか? 本当に?

 

「朔仁くんは女の子の気持ちをまったくわかっていませんね」


 白月は、やれやれと言いたげに、わざとらしく、肩を竦めてみせた。

 

「前に、口にしなけりゃわからないって言ったよな?」


「そういうことを、女の子のほうからではなく、できれば、男性のほうからリードしてほしいと思う女心が理解できていないということです」


 男性からリードしてほしいとかっていうわりに、告白してきたのは白月のほうからだよな? まあ、俺のことなんて待ってたら、百年経っても解決しなかったかもしれないってことくらいは、自分のことながら、わかるけど。

 

「俺に超能力者にでもなれってのか?」


「なってほしかったのは、超能力者ではなく、恋人ですよ、朔仁くん」


 超能力者になってほしいとか言われても困ったというか、そっちは、ほぼ確実に無理だからな。

 十年だか、二十年だか、真面目に奉公して仙人になったとかってやつもいたけど、あくまで、そんなのは創作の中でのことだしな。


「ですが、朔仁くんも瓦を割る超能力くらいは使えるのではありませんか?」


「それは、多分、超能力じゃないだろうな」


 一般人を超えた能力だって意味でなら、超能力と呼ぶこともできなくはないかもしれないけど、普通は、瓦だったり、ブロックだったりを割るような力を、超能力とは呼ばないわけで。 

 そもそも、白月の求めている超能力だかっていうのは、そういう力の話じゃないだろ?

 

「努力はするつもりだけど、恋人って関係になったからって、いきなり、以心伝心みたいな関係にはなれないだろ」


 こう言うのもなんだけど、結局のところ、恋人なんて、関係性に名前を付けただけの話だからな。

 

「それはそうでしょうが。差し当たっては、まず、私のことは茉莉と呼んでください。もっとも、呼びにくければ、茉莉様とか、茉莉ちゃんとか、あとは、そうですね、まつりん、これでも可としましょう」


 これでも可としましょう、じゃねえんだよ。調子に乗りきってるな。


「……名前の呼び方程度で親密度が計れるものでもないだろ」


 そんなに急ぐ必要もないだろうし。もっとも、恋人って関係になったなら、多少は相手の期待に応えることも必要になってくるというか。

 いや、必要って言い方はなんとなく、あれだな。


「では、朔仁くんはほかにどうやって愛情を示してくれるつもりですか? 毎日、お願いすれば、抱き締めて、耳元で愛を囁いてでもくれるのでしょうか?」


「そんなこと、本当にしてほしいのか?」


 どう考えても、俺をからかって楽しんでるだけだろ?

 白月は、わざとらしく、首を傾げてみせ。

 

「今のところ、私はそんな程度でも幸せを感じられると思いますが、それ以上、ご自分でハードルを上げてしまって大丈夫ですか?」


「べつに、ハードルを上げてるつもりはない。だいたい――」


 いや、待て。


「どうかしましたか、朔仁くん。なにか、考えごとですか、朔仁くん」


 おまえが先に俺のことを名前ででも呼んでみろよ、と言おうと思ったんだけど、そういえば、さっきから、白月のやつ、しれっと、俺のことを名前で呼んでるな。なんか、表情もしてやったりって感じが浮かんでるように見えるし。

 

「まあ、聞くまでもなく、朔仁くんの考えていることはお見通しですが」


 まじで、付き合いたての、初めての彼女に、舌打ちをしたくなることなんてあるか? 世界中見回しても俺くらいじゃないか?

 それとも、俺がありえないと思ってるだけで、世の中の恋人も通り過ぎてきたことなのか? 喧嘩とかって意味じゃなくて。

 仕方ない。覚悟を決めるか。たかだか、名前を呼ぶだけで、覚悟を決めるっていうのも、おかしな話だと思うんだけどな。

 だが、ただ、翻弄されてばかりで終わるだけじゃないってことだ……そうはいっても、なにをどうしても結局勝てないと思うんだが、どういうことなんだろうな。

 惚れたら負けっていうんなら、白月のほうが俺に負けてないといけないんじゃないのか? 俺は、白月を負かすつもりなんてないけど。そもそも、この場合の負けるとか、勝つって、どういう基準なのかもわからないしな。

 それでも、少しは反撃したい気持ちも、ないと言ったら嘘になるわけで。

 俺は、一つ深呼吸をして。


「それで、茉莉様とか、茉莉ちゃんとか、まつりんだとか、ふざけてんのも含めていろいろ言ってたけど、本当はどれで呼んでほしいんだ?」


「朔仁くんが好きなように呼んでくれてかまいませんよ。あまりにふざけすぎていると、応えないとは思いますが」


 こいつ、自分で挙げてた呼称はふざけてないとでも言うつもりなのか?

 

「いずれ、結婚したときに、白月とか、真田なんて呼んでいてはわかりにくいですから」


「気が早すぎるんだよなあ」


 一応、法律上はもうすぐ結婚できるようになるとはいえ。

 

「茶番はこのくらいにしておきましょう。それとも、朔仁くんはどうしても私のことを名前では呼びたくありませんか?」


「どうしてもってことはないけど、そっちこそ、どうしても名前で呼んでほしいのか?」


 とはいえ、名前くらい、呼ばないでいる俺のほうが意味わからんってことなら、そのとおりなんだよな。


「朔仁くんが恥ずかしがって、どうしても呼べないというのでしたら、残念ですが、諦めます」


「わかったよ、茉莉。これからそう呼ぶ」


 茉莉は数度目を瞬かせ、くるりと反転して、俺に背を向けて。


「……そうですね、これからよろしくお願いします、朔仁くん」


 

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