随分と待たせてくれましたね
まあ、手放しで良かったと言えるような状態でもないとは思ってるけどな。むしろ、全然良くないっていうか、はっきり、悪いというべきなのか。
たとえ、爽司が勘づいているとしても、やっぱり、言っておくべきなんじゃないだろうか。
誰と付き合うのも白月の自由だし、なんてことは言わない。それは、俺に告白してきた白月に対して失礼すぎる。
俺も、ちゃんと付き合うんなら、相手も、自分も、誠実に接する必要があると思っている。もちろん、そんなことは異性と付き合うとかって以前の問題だってことは前提として。
悩んでいるくらいなら、やらずに悔やむよりは、やって悔やんだほうがいいっていうのは、そのとおりなんだろう。黙っていて、後で知られたってことになるほうが事態が重いことは明らかなわけで。
それに、付き合っている相手が他の誰かに言い寄られるのを黙って見過ごして表に出さないでいられるかどうかも自信はないし、そうなればすぐにばれるだろう。
爽司が白月に告白するのは自由だろうけど、白月がそれを受けるとは思えない。そして、そのときの断られる文句を想像するなら、なんで先に言っておいてくれなかったと言われるだろう可能性は高いわけで、それは、告白せずにいるより、告白して玉砕したほうが良かったとか、そんな風にのんきにも構えてはいられない。
あるいは、爽司なら、先に言っとけよ、くらいで笑って済ませそうな気はするけど。それはさすがに、都合が良すぎるか?
「まったく。彼女の一人、幼馴染に話すくらいでこんなことになってるなんてな」
いっそ、知られたところで、それがどうかしたのか? なんて程度に軽く言えるような性格だったら、こんなに困ってないんだけどな。まあ、そんなことを言えるようなやつは、大分性格が悪いと思うけど。
そもそも、爽司は好きだとかって言っていただけで、実際に白月に告白しているわけでもないわけだし、俺が後ろめたさを覚える必要はないはず。
俺が、白月とのこと以外にも、爽司になんでも話しているわけでもないように、爽司だって、なんでもかんでも話すような、そんなこともない。もちろん、特別隠すようなこともないわけだけど。
でも、白月とのことは、その、特別隠すことってやつなのかもしれない……そんなこともないか。どんなに隠そうとしたって、いずれは、必ずばれることだ。ただ、今爽司が気になっている、あるいは、好きな相手らしいってだけで。
もちろん、今付き合っている相手がいるような高校生だって、そのまま結婚して、晩年まで仲良く幸せに過ごす、なんてこともあるかもしれないけど。
「こんなに悩んでるのは、俺が白月のことを好きだとはっきり言えないからじゃないのか?」
この辺でもほとんど見ることのない真っ白な髪と真っ赤な瞳にだけじゃなく、思わず目を奪われるくらいに整った顔をしているとか、健康的なスタイルやら、勉強に取り組む姿勢に好感が持てるとか、ナンパとか、ストーカーとか、危なっかしくて放っておけないとか、自信満々どころか、不敵ともいえる言動だとか、耐えられることはすごいことだろうけど、少しくらいは頼ってくれてもいいと思っていることとか――。
「いや、俺も大分気になってるな」
口角が上がっているらしいことを自覚する。
どうやら、俺も大分、白月のことを好きらしい。ただ、その自覚がなかったってだけで。
これが、世間一般で言う、あるいは、白月や爽司の抱えている想いと同じものなのかっていうことには、自信はない。
けど、同じである必要もない。
俺には、爽司の女の敵みたいに思える言動――ナンパな性格に思うところもあるみたいだけど、それが良いと言っているやつもいることは確かなんだから。あるいは、俺にはわかっていない魅力を感じているのか。
まず、俺自身で白月に対する想いをはっきりさせとかないと、爽司にもなにも言えることがないからな。
そして、爽司にも、俺の白月に対する気持ちをはっきり言っておかないと、白月に答えに行くこともできない。まあ、その順番はどっちでもいいとは思うけど。
はっきり白月と付き合ってから爽司に言いに行くべきなのかもしれないし。
現状、俺はまだ、白月にはっきり好きだと言ってはいない。
「話はそれからだな」
さすがに白月も、俺が答えたとして、その後に爽司に話しに行くところにまでついてくるとは言わないだろう。
ついてこられて困るようなことでも……いや、やっぱり困るな。話せば、白月も気になるからついていくとかって言い出すだろうから。
できれば、爽司とのことは俺一人で――あるいは、俺と爽司の間だけでって言っても良いのかもしれないけど――解決したい。
とはいえ、その日のうち、つまり、昼休みとか、放課後とかに、白月を呼び出して学校で、なんて、どこで誰に見られたり、聞かれたりする可能性のある場所で堂々とするのは、さすがに気が引ける。見せ物になるつもりはない。それでなくても、白月は目立つからな。
だから、翌早朝。いつもどおりに走り込みの鍛錬をするときに。
「おはようございます、真田くん」
「おはよう、白月」
それから、準備運動などを済ませ。
「白月。俺もまだ未熟だから、これが好きだとか、恋愛だとかって感情なのかどうかはわからない。けど、白月と一緒にこうして、一緒に鍛練したり、勉強をしたりするのは楽しいと思っているし、これからも一緒にいられたら嬉しいとも思ってる。こんな風に簡単に言えることが、本当の気持ちなのかってことにも自信はないけど、今、俺は白月茉莉のことを好きでいるってことは間違いない」
「長いです」
白月の第一声はダメ出しだった。
一日くらい、俺にしては真面目に考えたつもりだったんだけど。
白月が言っているのは、台詞が長いとか、そういうことじゃないだろう。いや、それもあるかもしれないけど。それくらいはわかる。
「悪い」
「告白に対する返事なんて、私も好きですとか、私は好きではありませんとか、そんな程度のものでかまわないですから」
いや、本当にそのとおりだと思う。
罪悪感とか、照れだとか、そういった面倒な感情を長台詞で隠そうとしただけだ。白月には――つまり当人には――すぐにばれたわけだけど。
「俺も、白月のことが好きだ」
好きの感情のことなんて、ほんのわずかにしかわかっていないけど。
でも、他人と比べるものじゃない。白月だって、俺自身の、素直な気持ちが聞きたいと思っているはずだ。
「随分と待たせてくれましたね」
「すまん」
どうせそう答えることはわかっていたんだから時間の浪費だった、みたいに言われるかもしれないとも思ったけど。
いや、さすがにそこまで性格が悪いやつじゃあないか。
「どうせ、そう答えることはわかっていたのですから、時間の浪費でした」
「結局、言うのかよ」
つい、つっこんでしまい、白月からは胡乱気な視線を向けられた。
「なにを言っているんですか?」
「いや、こっちの話だ」
付き合った直後の会話で、こんなに雰囲気が滅茶苦茶になることってあるのか? 断ったんじゃない、受けたんだぞ?
「つうか、べつに、時間の浪費とか、そんなこともないだろ。結局付き合ったんだから、白月が言うように、早くても良いだろうけど、時間がかかっても問題ないんじゃないのか?」
「それでは、その告白を待っている間、私にはずっと悶々とした気持ちで過ごせということですね? 随分と鬼畜なことを考えるんですね、真田くんは」
いや、悶々としたって、直前に、そう答えることはわかっていた、みたいに言ってたよな?




