表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/98

そういうわけで、初デート

『では、明日十三時に駅前広場の時計台の下で。楽しみにしています。』


 土曜日の夜、白月からそんなメッセージが届いた。

 一応、明日の早朝にも走り込みをする関係上、顔を合わせはするけどな。 

 

『わかった』


 そうメッセージを返す。

 駅前の広場で指してる駅っていうのは、間違いなく、最寄りの駅のことだろう。普段の俺の動線にはほとんど関わってないわけだけど、一応、地元ってことにはなるわけで、勝手を知らないわけでもない。

 鳳凛高校への電車通学者の多くが使っているだろうそこを待ち合わせに使うということは、当然、学校のやつとも顔を合わせやすくなるわけだけど。

 とはいえ、憚ることがあるわけでもない……いや、さすがに、他人の口伝で爽司にっていうのは気まずいか?  

 だからって、さっきまで道場での修行で顔を合わせてた爽司に、白月と付き合うことになって明日デートだから、みたいな報告をするのは、違うだろうし。

 そもそも、俺はなんで、さっき、一緒に稽古をしていたときに爽司に言っておかなかったんだ。

 俺は経験ないから確実とは言えないけど、もしかして、このまま、ずっとタイミングを逃し続けて引きずるなんてことにならないよな?

 今まで、幼馴染として、爽司や透花に話せなかったことがない、なんてことは言わない。多分、二人にだって、それぞれ抱えているものはあるだろう。なんでもかんでも話すほうが健全とも思ってないしな。

 いや、話すのも話さないのも、俺次第なことはわかってるんだけど。

 

「電話……は違うよなあ」


 スマホで呼び出した爽司の番号への発信に、指をかけそうになって引き戻し、画面を戻す。

 結局、連絡なんてできない。

 いや、まあ、電話で話すようなことでもないだろ。もちろん、メッセージなんかでも。さっきまで顔を突き合わせて話せなかった俺に言えることじゃないけど。

 

「いっそ、爽司と透花にも声をかけて……って、あほか俺は」


 白月が誘ってきてるのはデートだぞ。しかも、付き合うことになってからって意味じゃあ、初デートことになるわけで、白月がそのあたりにどの程度の思い入れを持っているのかはわからない――推測するしかないけど、楽しみにしています、なんてわざわざメッセージに付け加えるくらいだ。

 そもそも、俺は爽司から話を聞いているからこう思っているわけだけど、白月からもストレートに告白されているわけで。

 付き合いが長い、幼馴染である爽司に対して肩入れ気味になってるけど、想いを伝えてきた白月に対しても、真摯にいなくちゃならないだろう。

 だいたい、爽司はいつも誰と付き合っただの、別れただの、好きとか、気になるとか、そういったことを俺に報告してくるけど、それは誰もがそうしなくちゃならないわけでもない。

 だから、一報入れる必要なんてないだろう。

 それ以前の話でってことなら、そもそも、白月――じゃなくても、ってことも今となってはないわけだけど一応――と付き合ったからって、それを誰かに報告しなくちゃならない決まりもないわけだし。結婚だとかの報告を家族にするのとはわけが違うんだから。

 白月も俺も、まだ結婚できる年齢じゃないしな。

 

「とはいえ、デートなんて、どうすればいいのかさっぱりわからないんだよな」


 白月からも、待ち合わせ時刻と場所の指定だけで、予定なんかはさっぱり送られてこないし。

 なんでも、完全に、ぴったりスケジュールを組んでいると厄介だってことはわかるけど。 

 とはいえ、付け焼刃みたいに調べても仕方ないだろうし。多分、一緒にいるだけでも、それなりに楽しい、はず。


「まあ、なるように任せるしかないな」


 というより、それしかできない。

 武術の稽古とか、勉学と比べるのはあれかもしれないけど、結局、繰り返してノウハウを蓄積していくしかないんだろうから。

 

「まあ、デートの経験豊富だろう知り合いがいないわけじゃないけどな」


 さすがに、爽司には聞けないわけで。



 翌日。

 白月を待たせるわけにはいかないし、俺は三十分ほど早く待っていられるように、家を出た。

 これは、女子を待たせるわけにいかないとか、そういうことじゃなく――それがまったくないとは言わないけど――白月を一人で待ちぼうけさせられないってことだ。

 同じ意味に聞こえるかもしれないけど、白月茉莉が一人で待っていたら、視線を集めるのは火を見るより明らかだから。ましてや、それでナンパなんてされていようものなら、後から俺がどんな文句を言われるかわかったものじゃない……だいたいの予想はつくけどな。


「朔仁くん、早すぎませんか?」

 

 やってきた白月の第一声がそれだった。 

 遅刻して文句を言われるならわかるけど、早く来すぎて文句を言われるとは思わなかった。そりゃあ、学校だって、開門前に来られたら迷惑だろうとか、そんなことならわからないでもないけど。

 

「白月だって、十分早いだろ」


 今だって、約束していた時間よりはニ十分程度早い。

 

「朔仁くんも楽しみで眠れなかったとか、そういうことでしょうか?」


「いや。昼過ぎの待ち合わせで、朝早いかどうかは関係ないだろ」


 そういえば、今朝の走り込みには、白月は顔を見せなかったな。てっきり、そこで顔をあわせるものだと思ってたけど。

 

「そういや、なんで、今朝は来なかったんだ?」

 

 もちろん、トレーニングなんて、本人のやる気でこなすものだってことはわかってるけどな。

 今の白月の様子を見れば、まさか、体調が悪かったなんてことでもないんだろうし。

 

「せっかくのデート当日なんですから、そこで初めて顔を合わせたほうが特別感があると思いまして」


「昨日、写真付きのメッセージ送ってきたやつの言うことじゃねえな」


 昨日の、デートの催促っつうか、念押しをするようなメッセージには、自撮りらしき白月の部屋着の写真が添えられていたが。

 

「お嫌でしたか?」


「……嫌ってことはないけどな」


 必要か? とは思った。

 もちろん、必要不要で成り立っている関係じゃないってことも理解しているけど。


「心配されなくても、朔仁くんにしか送りませんから」


「……そうか、じゃねえよ。いや、べつに誰に送ったって、白月の勝手だろうが」


 いや、デートの催促を俺以外に送るのはどうなんだ? って話じゃなく。

 

「そうですか? 私の部屋着姿ですよ? それとも、もっと過激なほうが朔仁くんの好みでしたか?」


「馬っ鹿。おまえ、こんなところでなにを――」


 総反論しようとして、白月が笑っていることに気がついて。


「白月。俺をからかって楽しんでるな?」


「からかわれていると感じてはいてくれているんですね」


 こいつ、仮にも、告白してきた相手に対して、信用なさすぎねえか? いや、これがからかいで終わると思ってる程度には信頼しているとか、そういうことか? 世の中の付き合ってるやつらの許容ラインがどの程度なのかってことはわからないけど。

 

「もちろん、楽しんでいますよ。それが、恋人とのデートでのやりとりじゃないんですか? それとも、朔仁くんはもっと深刻な感じでのデートのほうが良いと、そういうことでしょうか?」


「……いや。白月が楽しんでるならそれでいいけどな」


 俺が楽しんでないとか、そういことじゃない。

 

「では、これからもからかわれ続けてくれるということですね?」


「そういうことじゃねえよ」


 なんというか、まじで、先が思いやられるというか、爽司は、いや、他のやつらもかもしれないけど、よく、白月と付き合おうなんて考えるよな。

 そりゃあ、俺だって、白月が良いやつだってことはわかってるけど……いい性格してるやつって意味じゃなく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ