これからは覚悟してくださいね?
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
白月茉莉は、いつもどおり、白月茉莉だった。自信は今日も絶好調みたいだな。
「付き合う中で好きになっていくということもあると思いますし」
こいつ、さては、自分が告白されたときに言われた台詞を繰り返しているんじゃないだろうな? いや、それはないか。
白月茉莉が言っているからここまで力がある(ように感じる)んだし、他のやつが言っても、ただの痛いやつだろうな。
それに、白月がそんなことに他人の台詞を使い回すやつだとは思わない。自分に自信を持っているやつだから。
「けど、付き合うって、あれだろ。もっと真剣に向き合わないと失礼だろ。それで傷つくやつもいるかもしれないし」
おこがましく、俺のことを言っているんじゃなく。
「私は気にしませんが。それとも、真田くんが私の気持ちを推し測った結果だとでも言うつもりですか?」
けど、その考え方自体が、すでに自分よがりなのかもしれない。傲慢とも言うだろう。
結局、相手の気持ちを無視していることには変わらないわけで、それになんとか理由を探しているようで。
「とはいえ、先程も言いましたが、私だって、無理矢理付き合ってもらうつもりはありません。たしかに、気持ちを伝えたことは事実ですし、受け入れてもらえることが一番に決まってはいますが、私一人の気持ちを一方的に押し付けるのは、円満な関係とは言えませんから」
「白月……」
これもやっぱり、過去、白月自身が気持ちを押し付けられてきたと感じているからなのか?
ストーカーまでとはならなくても、言えば、嫌がらせなんかだって、気持ちの押し付けには変わらないわけだからな。それが、たとえ、害意や悪意だったとしても。そういったことを白月が良しとしないだろうっていうのは、簡単に想像がついた。
「これも、さっきも言ったじゃないですか。元より長期戦の構えだと。真田くんが、ご自身のそういった事情に疎いのはわかっていましたから。というよりも、多分ですが……いえ、やはりこれはなんでもありません」
大抵、こういったときのなんでもないっていうのは、なにかがあるときの話なんだが、今の俺に白月を強く追及はできなかった。そんな権利もない。
「気持ちが変わったらいつでも言ってくださいね?」
ただ、これだけは聞いておきたい。
「……なんで俺のことをそんなに? 白月のことをもっと大切に考えてくれるやつなら、ほかにいくらでもいるだろ」
今までの周りがあれだったからわかってないだけで、ストーカーとかにまで発展するやつなんて、そうそういないだろう。
「俺が白月のことをそんな風に大切に、幸せにできるだろうなんて」
勘違いじゃないのか? とは言わなかった。
「そうですね。そういったこともあるかもしれません」
白月はそれを否定したりはしなかった。
「ですが、これから、いつか現れるかもしれない、どこかの誰かより、今、私の目の前にいる相手――真田くんのことを強く信じるのは当然ではありませんか? この数か月という間ではあっても、それなりに付き合ってきたように思いますし。そもそも、そんなに考えてするものでしょうか? 恋愛というのは」
たしかに、白月は以前、会って数日、話したことなどほとんどないのに告白されても困るというようなことを話していたと思う。
そして、俺と白月が同じクラス、前後の席として交流を持ってからは、ふた月ほどは経過している。
まあ、本当は、時間の問題じゃないんだろうが。いや、時間の問題だけじゃないって言ったほうがいいのか。
「白月は勘でテストの答案用紙を埋めるのか?」
「よほどの難問であれば、インスピレーションを大事にすることもありますよ? ここで言っているインスピレーションというのは、鉛筆を転がしてマークシートを埋めるということではなく、今までに遭遇したことのある問題を統合的に考えて、似た、あるいは、近いと感じる問題から見地を得るという意味ですけれど」
たしかに、恋愛っていうのは、俺にとっては大問題だが。自分で遭遇したことがないって意味で。
「試験には時間制限もありますからね。それこそ、鉛筆を転がして埋めるといったことも必要になってくるのかもしれません。なにも埋めなければ、絶対に点はもらえませんから。ですが、今、私が真田くんに告白しているのは、試験の問題ではありません。自分の感情に素直に従ってもかまわないのでは?」
「それは、素直に従うなら、俺は白月のことを好きだとか、そういうことを言いたいのか?」
たしかに、俺は自身で恋をしたことはない、と思っている。
だから、その感情がわかっていないのかもしれない。
つまり、今、白月に対して感じている、感謝だとか、尊敬だとか、そんな風な想いも、実は、恋だとか、愛だとか、そんな気持ちなのかもしれない。
もしかして、思考を誘導されてるとか? いや、そんなことはない、はずだ。
「さあ? 真田くんがそう思うのでしたら、そうなのでは? 私としては、そうだと嬉しいですけど」
白月は楽しそうに笑みを浮かべている。もちろん、それは、俺自身が答えを出さなくちゃならない問題に違いはないわけで。
「とにかく、これからは私はそういうつもりで接しますから。覚悟していてくださいね?」
覚悟、ね。
今までそういった機会はなかったし、自分から作ろうと思ったこともなかったわけだけど、これは、そのつけが回ってきたとか、そういうことなのか?
いや、そんな言い方をするのは白月に失礼か。
「わかった。俺も真剣に、白月のこと、考えるようにするから」
それは、いままではまったく考えたこともなかったのかと、白月にため息でもつかせてしまうかもしれないと覚悟はしたけど。
「やっぱり、真田くんは素敵だと思いますよ。そうやって、真摯に向き合ってくれるところも。私は告白されても、見ず知らずの相手なら、むべなく、お断りしてきましたから」
「そんなに立派な話じゃねえよ」
そもそも、白月は俺にとって見ず知らずの相手じゃないからな。比べられるわけがない。
「私がそう思っているから、私の中ではそれでいいんです。真田くんには真田くんの思いも、考え方もあるのでしょうけれど、私はそう思っているということです。それが、真実かどうかは関係ありませんし、真田くんが気にされる必要もありません。いえ、本当は、少しは気にしてほしいところですが。私も、真田くん以外に発信するつもりもありませんし」
白月が真っ直ぐなのか、それとも、恋をしているやつは誰でもこうなるのか。
爽司も、恋人がいるときには、他の誰かに声をかけるような真似はしなかったって言ってたしな。実際、二股はしたことがない、はずだ。間をおかずに、べつのやつと付き合ってるから、ほとんど似たようなものかもしれないけど。
まあ、あんな、経験豊富な爽司のことなんて、参考にできるはずもないんだから、考えるだけ無駄だ。俺は俺の答え方をするしかない。
「では、また学校で。急かしたりするつもりはありませんが、あまり一人で待ち続けたくもありませんから、できるだけ早くに答えをいただけると助かります。もちろん、曖昧なものではなく、はっきりとどちらかを」
「ああ……いや、待てよ」
まさかとは思うけど、俺が首を縦に振るまで諦めないとか、そういう意味じゃないよな?
「どうしましたか?」
「いや、やっぱりなんでもねえ」
なんとなく、白月を弄んでいるとか、そんなつもりは断じてないけど、今までの会話にも楽しさを感じたのは黙っていた。




