表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/98

告白と告白

「なあ、朔仁」


 翌日、いつものように放課後、うちの道場で門下生たちと鍛錬をこなし、皆が帰った後に掃除をしていると、爽司が一人で戻ってきた。


「どうした、爽司。忘れ物か?」


 一応、皆が帰った後に確認はしてるつもりだけど、財布だとか、スマホだとかはなかったと思ったが。

 

「忘れ物……いや、物じゃないんだけどな。話し忘れてたことがあってよ」


 話し忘れたこと?

 新しい彼女ができたとかって報告なら、今すぐじゃなくても、というより、いちいち、報告してくれなくてもかまわないけど。

 そもそも、明日も学校で会うわけで、そんなに急な用事がなにかあるのか?

 しかも、一度、帰ったふりをして、他の門下生が帰るのを待ってまで。


「そうか、急がないなら、ちょっと待っててくれるか、すぐに掃除を終わらせるからよ」


 掃除っていっても、道場の床の雑巾がけだけどな。

 

「ああ……いや、俺も手伝うから」


 普段、他の門下生に掃除までやらせることはない。

 実際、ある程度のまとまりがあるとはいえ、最後ともなると、結構遅い時間になるし、そこから掃除までして……なんてことになると、それこそ、俺たちのほうが警察の厄介になりかねない時間になる。

 俺なら、自宅の敷地内から出ることはないからな。

 まあ、年末とか、そういう日には、一年への感謝ってことで、その日にいるやつらで大掃除でもないけど、それなりに気合入れてやるけど。

 もちろん、普段からやってもらって、全然困ることはないし、むしろ助かるわけで、爽司の提案を断る理由もない。

 

「助かった、爽司。それで、話ってなんだ?」


 だから、掃除を終えて、余計な話をしたりはせず、本題に入る。

 そのあたりは、爽司もそのつもりだったみたいで。


「朔仁。俺、好きな人ができた」


「またか」


 ついこの間まで、なんとかって先輩と付き合ってたんじゃなかったか?

 

「そんな顔するなよ。先輩も、受験に本腰入れるってことで、寂しいけどって別れたんだよ」


「そうか」


 べつに、そっちの事情は聞いてない。

 

「今度はどこの誰なんだ? また、べつの先輩か? それとも、他校の後輩か? もしかして、同級生じゃないだろうな?」

 

 透花からはなにも聞いてないけど……それは、相手が透花ではないってことなんだろうな。まあ、いまさら透花が過剰に反応するとも思えない。

 いや、爽司はまだ、好きな人ができたって言っただけで、告白したとか、好き合ってるなんてことは言ってないな。

 なら、まだ、可能性はある……のか?


「いや、白月だよ」


「白月? 白月茉莉?」


 それは、ひと月とか前から言ってないか?

 いまさら、あらためて聞かされるようなことじゃないと思ってたんだけど。


「ああ、うちのクラスの白月茉莉だ」


 それは、知っている。多分、他の誰か、なんてあやふやな相手よりは、ずっとよく。

 

「いや、雰囲気から察してたけど、まだ告白してなかったのかよ」


 爽司にしては珍しいんじゃないのか?

 

「いや、今回はマジのやつなんだって」


「それは、いつも言ってないか?」


 だからこそ、俺は、透花に対する爽司の態度こそ、マジのやつだと思ってたんだけど。すくなくとも、ある程度以上は。

 そして現状、白月と透花はそれなりに良好な仲だと思う。

 

「それにしては、いつもより期間をかけてたんじゃないのか?」


 いつもなら、知り合った時点でナンパしてたはずだ。

 それが、今回は、数か月挟むという、一段置いている。もちろん、入学してすぐと言ってもいいころ、先輩と付き合っていたから、あんまり、気にするようなものでもなはずだ」

 まあ、それはいい。


「それで? 今回は、なんだって、告白もする前に、俺に声をかけに来たんだよ」


 誰々と付き合った、付き合ってる、みたいな事後報告は結構受けるし、受けないこともある。誰のことが気になる、みたいな話もな。

 けど、告白しようと思ってる、なんて、そんなあやふやとも言える状態を俺に伝えてきたことはない。

 

「まさか、協力してくれ、なんて言わないよな?」


 七原爽司が、俺に。

 一歩譲って、透花に告白しようってことなら、俺に協力できることもあるだろうけど、他の誰に告白しようってことでも、俺に力になれるとは思えない。たとえ、それが、白月であっても。

 

「いいや」


 爽司は首を横に振り。


「そんなことは言わないし、頼まないな。べつに、なにってほどのこともない。それとも、気になるか?」


「なに言ってんだ」


 なんだって、他人の腫れた惚れたの話を俺が気にするんだよ。

 といったような、話を爽司とした日の翌日。

 もはや、習慣と言ってもいい、むしろ、そんなことすら意識しないままに、白月と下校し、家まで送り届けたわけだが。


「もうべつに平気だと思いますが」


「それはそうだろうけど、一応な。なにがあるかわからないから」


 知り合いだろうと、知り合いでもなかろうと、知り合ってから、白月が狙われた回数は呆れるくらいのものだ。

 さすがに、数十回とか、百回を超える、みたいなことはないけど。というか、今の時点で百回を超えてたら、一日二回以上襲われていたり、会っていない日、たとえば、日曜日とかも数えていたりすることになるわけで。

 そもそも、クラスメイトと、それもわりと近所のやつなら、一緒に登下校するとか、そんな程度のことに、大した理由なんて必要ないだろ。

 まあ、爽司が好きだとか言ってたし、それはいつものあれだとは思うけど、そんな相手と、いつものこととはいえ、二人きりになることに、思うところがないわけじゃないけどな。


「そういえば、真田くん」


 そして、そんな風に雑談めいた、明日の天気を知っているか、みたいな口調で白月は。


「私を幸せにできるのはあなたしかいませんから、私を幸せにしてくれる気概はありますか?」


 さすがに、そこまで言われて、なんのことだかわからないほど、俺だって、鈍感だったり、馬鹿だったりするわけじゃない。

 どうやら俺は立ち止まっていたらしく、隣を歩いていた白月の背中が視界に入ってくる。

 数歩進んだ白月は振り返り。


「……おまえは、天上界の人間かよ」


 自尊心どうなってんだ?

 誰がこんなモンスター作り出したんだ。


「私は白月茉莉ですが」


 それは知ってるんだよなあ――って。


「なにしてんだよ」


 白月は一歩、二歩と歩み寄ってきて、俺の手を掴む。


「ご覧のとおり、私はここにいます」


 たしかに、白月に掴まれているのは感じているけど。

 いや、まあ、白月のこの感じはいつものことだから、そう衝撃を受け続けてもいられないんだけどな。 

 それにしても。


「なんだって、俺に」


「理由はもう言いましたけど」


 たしかに聞いたけどよ。


「それとも、もっと、いくつも理由が必要ですか? 意外と、欲しがりなんですね」


「なんだって?」


 意外とってなんだ。あ、いや、俺が欲しがりだとかってことを肯定するつもりはないけど。

 まさか、余計なストーカーがこれ以上現れないようにするための防波堤として、なんてつもりじゃないだろうしな。

 そんな面倒なこと、白月茉莉がするはずがない。それは、短くとも、この一か月とか、二か月そこらの付き合いしかない俺でもわかる。 

 しかし、あまりにも、タイミングが悪すぎるというか。

 もちろん、誰それと付き合うのに、他人の許可やら、承認やらが必要なんてことはない。それが、結婚ってことにまでなると、変わってくるのかもしれないけど。

 白月はしばらく俺を見つめ続け、やがてため息をつくと。


「わかりました。今すぐとは言いません。ですが、近いうちに、好きにさせてみせますから」


 いい顔をして――白月が美人で良い顔をしてるってこととは関係なく――そんな宣言をしてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ