表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/98

これ以上、あれこれ言わない

 ◇ ◇ ◇



 そもそも、高校生にもなって、いじめだの、嫌がらせだのをするってこと自体、普通は考えられないことだと思う。

 とくに、鳳凛高校は、それなりに学業――ようするに、偏差値だとか、大学進学実績的にも優秀と言われるような高校だから、そんな、無駄な労力を費やしているような余裕は、基本的にはないはずだ。

 というより、そんな他人への嫌がらせなんかを準備したり、考えたりしているような時間で、問題集を解いたり、単語帳をめくったり、そもそも、本を読むなんてことでもかまわないわけで、といったように、多くの生徒が考えているはずだ。

 そりゃあ、もちろん、嫉妬だとか、羨望だとかが、まったくないとは言わないだろうけど、それを一旦、冷静に考えられるだけの思考力は持っているはずだ。

 こんなこと、俺が偉そうに言えたことじゃないけどな。俺だって、爽司とか、透花とか、あとは、今回の白月のこととか、近しい相手に危害が及びそうなら、あるいは、実際に加えられたとしたら、どうなるかわからない。

 まあ、俺なら、本当にむかつくことがあったら、正面から言いに行くと思うけど。だって、回りくどいだろ? それに、正しく受け取られるかもわからないわけだし。

 とはいえ。


「結局、普通に学校に来るんだな」


 どうやら、爽司はすでに、白月に嫌がらせを敢行したやつらの素性も知っているらしい。

 俺は、あの暗い中で判別できた程度にしか、相手のやつらのことを知らなかったから、今、このクラスにいてもわからない。あるいは、いないこともわからない。そこまで興味がなかったって言ったほうが良いのか?

 多分、見かけたことがない顔だとは思ったけど、そもそも、女子とはそこまで面識っていうか、交流があるわけでもないからな。爽司みたいに、学内全部――どころか、学外まで――の女子と繋がりを持っているなんてこともない。

 一応、うちの道場に通っている中には女子もいるから、それを知り合いと数えていいなら少しは増えるだろうけど。

 

「学生の本分は勉強ですし、両親に費用を出していただいてまで、通わせてもらっているのですから、あの程度のことで休むわけには参りません」


 白月には、一応、写真を見せてはいる。あの、片付けたりする前のやつを。

 もちろん、最後まで見せないほうが良かったっていう意見も、わからないでもない。


「あの程度、ね」


 それは、相手方からすれば、処分を受けたのは自業自得だろうけど。

 白月だって、今回の待ち伏せで、自分の机がどういう状態だったのかっていうことを、実際に確かめられたわけだろ。元のものと完全に同じとは言わずとも。

 もちろん、勝手にやられるのと、自分たちである程度コントロールしていた状況とでは、受ける衝撃も違うんだろうけど。

 

「べつに、強がっているわけではありませんよ、私は。それに、彼女たちが事態をどの程度に受け取っているのかということは、私にはわかりませんし、今のところ、どうでもいいことですから」


 突き放しているように感じられる言い方なのは、仕方のないところだろう。 

 実際、白月の側からすれば、まるで面識のない相手なんだから、むしろ、どうやって心配したりするのかって話だ。


「そうか。まあ、白月が気にしてないってことなら、それでいいのかもな」


 そもそも、処分だの、反省の仕方だの、そんなことは教師側で決めることだ。

 被害者である白月に決定権があっても、所詮は一生徒にすぎないし、裁判所だって、被害者側が刑を決められるなんてことはないからな。求刑するのは、弁護側だし、裁決するのは、裁判官側だ。 

 

「透花さんと七原さんには感謝していますよ。もちろん、真田くんにも。本当にありがとうございます」


「俺には感謝なんてしなくていい。ただ、借りを返してるだけだから」


 受けた借りの大きさなんて、こっちで勝手に決めて良いことだろ?

 白月は、たかだか勉強程度のことで、なんて言うのかもしれないけど。


「借りと言われても、ただ、勉強を一緒にしているだけですし。それとも、真田くんは、勉強を教えてくれと頼まれて教えたとしたら、それを借りだの、貸しだのに数える人ですか?」


「それを言うなら、俺のほうだって、ただ、待ち伏せしてただけだろうが。しかも、結局、謝らせてもいないんだぞ」


 もしかしたら、個人的に、あれから、白月に謝りに来るなんてことがあるかもしれないけど。あるいは、昨夜のうちに、訪ねてきて、なんてことがあったのかどうかは知らないけど。

 教師側にも、こっちから謝意を求めたみたいなところはあるかもしれないけど、仕方のないことだと割り切ってる部分も大きかったしな。

 もちろん、それは、起こってしまったってことに対してであって、起こさせてしまったっていうことに対してもってことじゃない。

 もっとも、白月がどう思っているのかってことが、すべてだから。

 生徒の成長のために反省を促す、みたいなことは、俺たちじゃなく、学校側、教師側の問題だ。それでも、自主的なものを求めるとか、そういう話になるのかどうかは、もう知ったことじゃない。また、白月(あるいは、ほかの誰か)にちょっかいをかけるなんてことがないうちはな。

 

「はい。ですから、この件に関して、これ以上、あれこれ言うのは止めておきましょう」


「わかった」


 被害を直接受けた当人である白月がそう言うんなら、俺はそれに従うしかないだろ。

 前の席だっていっても、多少、飛び散ってきたかって程度で、問題じゃなかったしな。俺以外の、後ろとか、左右のやつらも、少なくとも表面上、気にしてる素振りはなかった。

 まあ、そいつらは知らないから気にしようがなかったってことでもあるわけだけど。

 前回は俺が、そして、今回はあいつらが、他のやつに知られる前にきれいさっぱり清掃しているからな。 

 

「それにしても告白を断ったとか、その程度で……しかも断られた本人じゃなく、加えて、別段、彼女とかってわけでもない相手からの仕打ちだからな。はっきり言って、俺には到底、理解できない」


 なんで、こんなことが起こっているのか。

 いや、そりゃあ、なんとなくはわかる。嫉妬とか、そういうものだろ? ただ、その気持ちが、理性に勝るほどのものなら、自分で告白でもなんでもして、気持ちに決着つけるほうが楽だったんじゃないのかとは、思わないでもない。 

 他人に迷惑をかけるほうを選ぶとか、はっきり言って、馬鹿のやることだろ? 

 

「俺にはわかるぞ」


「……爽司。多分だけど、それって、自信満々に言えることじゃないんじゃないのか?」


 爽司の場合、完全に自業自得だろうが。

 そしてべつに、精神状態の説明を求めているわけでもない。求めているのは、謝罪と反省だ。それ以外はとくに必要だと思ってない。それは、多分、俺じゃなく、白月本人も。さっきの態度を見ていればそのくらいはわかる。というか、曲がりなりにも、これまで、それなりに、クラスメイトとして一緒に過ごしてきているわけだからな。

 

「朔仁は女の子からの気持ちを蔑ろにするなよ」


「……そもそも、そんなもの、受け取ったことがねえよ」

 

 もちろん、俺から告白したなんてことも。

 そして、その話は、なるべく、爽司には言われたくないんだよなあ。

 もっとも、透花が直接告白しているわけじゃないから、たとえ、俺にすらばればれのことだったとしても、爽司が責められる所以はないっていう、おかしなことにもなっているわけだが。

 

「ふっ」


 爽司は小さく笑ってから、俺の肩を叩く。

 なんだ、その、おまえはわかってないとでも言いたげな態度は。

 しかし、そのとおりで、考えてもわからなかったから、気にしなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ