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親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


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直接向き合うということ

 それに、あけすけな話をさせてもらえば、教師側で白月に対して嫌がらせじみた行動に出る理由がない。

 白月は特待生であり、その成績には教師陣の査定とか、学校の評価とか、ようするに、給料に響いてくるわけで。

 その白月の精神を乱すかもしれない行動をとる理由がない。

 自分の職場とか、給料、立場……そんなさまざまな要素を鑑みても、白月を攻撃する理由があるってことなら、想像はできないけど。

 教師が白月に執着するなら、もっと別の、こんなに注目されずに済む方法を考えられそうなものだしな。

 まあ、決めつけとか、先入観は良くないんだろうけど、なんにしても、管理体制の甘さは追及されることになるだろう。

 

「それに、知らないほうが良いことというのは、加えて、それが自分のことともなれば、ほとんどないと思っています。それが、たとえ、悪いものでも、良いものでも」

 

 白月の視線は真っ直ぐ俺を捉えていて。

 ひとつため息を吐き出してから。


「それなら簡潔に。俺が朝来たときには、教室の扉の前にちょっとしたっ人だかりができていた。言っても、数人程度のものだけどな。それで、白月の――その机と周囲がゴミ箱みたいに扱われてた。それで、俺が今教室の窓の手すりのところにかかってるタオルっていうか、雑巾――もちろん、綺麗なやつだぞ――それで、ひととおり、濡れ拭きと空拭きを済ませて、ついでに、アルコール消毒もした。わかったか?」


 それ以上のことはなにも知らない。というより、これからどうしようかと考えている最中ってところだな。

 もちろん、やったやつは引っ張り出してくるつもりだけど。

 

「それは、ご面倒をおかけしてしまったみたいですね」


「白月がかけた面倒じゃないだろ。むしろ、かけられた側じゃねえか。謝ってもらわなくて結構だ」


 まさか、自分が世界の中心だとでも思ってそんなこと言ってるわけじゃないだろうから……言動に近いものが見られるときはあるけど、それは、そういう感じのものじゃないしな。

 もちろん、感謝だってされたいと思ってやったわけじゃない。

 ただ、見て見ぬふりはしたくなかったってだけだ。


「それで、なんとなく、今日の机と椅子は綺麗だと感じられたんですね」


「綺麗っていうか……」


 元の惨状を知っている俺からすれば、普段どおりってだけに見えるけど……普段の掃除じゃあ、アルコールまで使ったりはしないって意味なら、そのとおりではあるのか。

 

「まあ、それはいい。それより、結局、心当たりはないってことでいいんだな?」


 白月に心当たりがあれば、調べるのがだいぶ楽になったんだけど。

 

「そうですね。直接的に絞り込むことができそうな相手は思い浮かびません」


 自分の関与しないところで買った恨みとか、それこそ、知ったことじゃないしな。

 ただ、今回は実害が出ているから、無視してるだけじゃあ済まないだろう。せいぜい、一時しのぎにしかならないだろうなってだけで。 

 登校下校時間を、駅の改札みたいな感じで、個々人を識別できるように生徒手帳かなにかで判定してくれていると楽なんだけど、遅刻してないやつにはチェックなんてないしな。

 

「それなら」


「現場を押さえる、もしくは、直接手を出させるように仕向ける、現実的なのはこのどちらかだと思います」


 俺も思っていたけど、本人に言えることじゃないから黙ってたわけだが。

 さすがに、おまえ襲われてこい、なんて、誰にだって言えるはずないし。 


「……白月。さては、この前の教訓がなにも活きてないな?」


 この前とは言っても、もう二か月くらい前かもしれないけど、それで、実際に襲われて、刃物まで持ち出されてただろうが。

 運が悪ければ、マジで、いまごろ、あの世だぞ。

 なんか、今回は危機意識が低く見えるんだけど、気のせいか? 

 もちろん、実際に襲われかけたって現場と、人伝に惨状を聞いただけの事後処理を終えている現場で、どっちのほうが危機感を覚えるかってことは、比べるまでもない。それはわかるんだけど。

 

「そんなことはありませんよ? あのときよりは、多分、いくらかましになっているはずですから」


 本当か? と思って近づけば、顔を逸らされた。

 

「言いたいことがあるのなら、直接言いにきてくれればいいんですけどね」


 白月は呟いて、小さく息を吐き出す。

 普通、直接向かわない理由は、直接対決だと勝ち目を見出せないからっていうのが大きそうなものだけど。

 ただ、白月に直接対決で勝てないかって言われると……俺だって、格闘技関連以外じゃあ、勝ち目はないと思っている。

 それが、今回みたいなことをして良い理由にはならないってことは、小学生とかでもわかることだと思うがけどな。

 とはいえ。


「どうかしましたか、真田くん」


「いや、まあ、難しいよなって」


 白月は首を傾げるけど。

 白月茉莉に対して、直接向き合うってことが難しいんだろうなってことは、俺にも理解できる。

 もっとも、容姿はともかく、俺の知った話じゃないけど、勉学のほうは、白月自身の努力の結果なわけで、それをすごいとか、尊敬するような気持ちは抱いても、嫉妬するのは違うだろうと思う。

 まあ、俺が外から見て言っているだけで、本人たちにとっては、坊主憎けりゃ、みたいな状態なのかもしれないけどな。いずれにしても逆恨み(なんなら、言いがかりってほうが近いかもしれない)って意味なら、同じだけど。

 

「私が美人で優秀だから、周囲が直視できないんだろうとか、そんなことを考えているんですか?」


「エスパーかよ」


 賢いからなのか、自覚しているからこそ、その結論に真っ先に辿り着いたのか。

 でも、まあ、理解しているほうが大変なのか、理解していないほうが大変なのかっていうのは、わからないからな。

 白月がたまたま図太いから大丈夫そうに見えるけど。

 それとも、本当は、見てないところでは泣いてるかもしれない。とても、普段の様子とか、今の白月の態度からとかは想像できないけど、雨の中に逃げ出してきていた白月も、白月自身ではあるんだよな。

 

「真田くんもそうですか?」


「勉強教えてくれてるのは、素直にありがたいと思ってるぞ。それから、俺は男だから、容姿に関する嫉妬うんぬんは、なんとなくそういうものだって理解しようとしているだけで、本質的には理解なんて全くできていないんじゃないかと思う」


 ものすごく薄い表面の膜を掬った感じというか。

 まあ、十数年来の付き合いがある爽司とか透花ならともかく、そんなに簡単なものじゃないともわかってるから。

 そんなに簡単に、理解した気になられているのが、一番、うざかったりするしな。

 

「それは、答えになっていると思っているんですか?」


「だから、俺はありがたいとかは思ってるけど、それ以上に、とくに、敬遠するような思考を持ち合わせてはいないってことだ」


 そりゃあ、まったく、嫉妬がないと言えば嘘になるだろうけど。

 でも、俺は白月に勉強を教えてもらっているわけで、それを聞けば、白月がどれだけ努力してきたのかはわかるから。もちろん、全部わかるなんて、口が裂けても言えないけどな。

 少なくとも、高校くらいまでの教育で、露骨に才能で差がつくなんてことはないだろ? おそらく、そこに差はあったとしても、努力でどうにかできる範囲だ。もちろん、多少の運ってこともあるんだろうが。

 

「そうですか」


「ああ。だから、少なくとも一人は、白月茉莉に感謝してるやつがいるってことを忘れんなよ」


 そして、恩だとか、感謝だとかっていうのは、決して、量なんかで定義されたりはしない。

 

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