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全部ナンパっぽく聞こえる

 もちろん、力の強い女子も、力の弱い男子もいるだろうが、それはそれとしてだ。

 

「白月は、同じ中学から進学した友達とか、近くに住んでるやつとかはいないのか? ああ、鳳林に進学したやつでって意味だけど」


 中学がこの辺りの地元生ってことなら、近くには知り合いが住んでるかもしれないけど、同じ学校じゃないと、下校時間を合わせるのはまず不可能だろうからな。

 どうしたって、迎えに来るまでの時間が空くし、じゃあ、等距離のどこかを待ち合わせ場所にしよう、なんてことも無理だろう。

 そもそも、人それぞれ、付き合いがあるはずだからな。

 だから、本当はさっさとクラスメイトとかで一緒に登下校できるようなやつを見つけるのが早いんだけど。

 

「どうでしょう。私も同級生の進路を完全に把握しているわけでもありませんし、少なくとも、同じクラスにはいなかったわけですから。その人それぞれの付き合いというものもあるでしょうから、私ばかりそれにこだわるわけにもいきません。クラスに友人を作るのが早いでしょうが……」


 そして、俺のほうを見て。


「いや、俺かよ」


「すくなくとも、今はクラスメイトで、こうして多少の縁もできたことですし」


 とくに気にする様子もなく、提案してくる。


「ナンパされかけた直後に、男に頼むって、それでいいのか?」


「真田くんが嫌だというのでしたら、無理にとは言いませんが」


 この流れで嫌だとは言えねえだろ。

 だが。


「もしかして、高校生にもなって、女の子と一緒に歩いていて、彼氏だ彼女だと囃し立てられるのが嫌だとか、そういう理由がおありでしょうか?」


「……そんなことはねえよ」


 ほんの少し思ったけどな。

 

「そういうことにしておきます」


 白月は機嫌でも良さそうに微笑む。

 俺のことをやりこめたとでも思ってんのか?


「白月は、ナンパされたりとかっていうのは、よくあるのか?」


 頻繁なようなら、同級生と一緒に帰るなんて対処じゃなく、学校とか、警察とかに話したほうがいいんじゃねえかと思うけどな。

 それとも、同一人物じゃねえと、ストーカーと断定されないみたいなことってあるのか? ないだろ。

 

「真田くんが、どの程度の頻度であれば、よくあると考えているのかということはわかりませんが、それほど多いとは思っていませんよ。そもそも、中学まで、あまり遠くに遊びに行くということもありませんでしたし」


 まあ、中学生をナンパ、なんて、結構危なそうに見えるからな。

 とはいえ、白月の中学時代の姿を見たことがあるわけじゃねえ(噂程度は知ってたけど)から、もしかしたら、そんな倫理観なんて吹き飛ばすような魅力があったのかもしれねえと、言い切れはしねえけど。

 実際、白月が自身の魅力を理解しているってことは、それを今は制御できてるってことだろ?

 制御できてるっていっても、なくなってるわけじゃないっていうのは、さっきのやつらとか、学校での様子とかでわかるけど。

 もっとも、見た目からして、目立つなっていうのが無理な話だってのは、誰にどうこうできることでもないだろうが。

 

「実際に付き合ったこととかはないのか?」


「ナンパをしてくる相手と真剣に交際しようと思うようなことがあると思いますか? もちろん、一目惚れという現象、そのものを否定するつもりはありませんが」


 男女の、なんだ、恋愛がどうのこうのって付き合いがどうやって始まるとか、そんなことはわからねえけど、本気なら本気の、態度ってものがあるよな。

 武術だって、他流試合でよその流派のやつらと組手をするときと、普段の鍛練、修行の際に組手をするのとじゃあ、全然、勝手が違うからな。どっちも、本気で、真面目にやってないとかってことじゃあないが。

 とはいえ、ナンパに対処するって、目先の目標を優先するなら、恋人を作るっていうのは、妥当な考え方ではある気はする。断るのが楽になるからな。

 そうじゃなくて、自分で好きになった相手とかはいないのかって質問だったんだが、この調子だといないみたいだな。

 まあでも、逆に、そういう相手がいないなら。


「恋人がいるとかって噂を流すのはどうだ?」


 白月の噂なら、あっという間に広がるんじゃないか? その効果のほどは、俺も身をもって知っているし。 

 そして、実際に付き合うわけじゃないから、誰にダメージがくるわけでもねえ。好きなやつができたときには、事情を説明すれば、納得もしてくれるだろ。


「誰が、どうやって流すんですか?」


「うっ」


 俺は言葉に詰まった。

 こうして俺と普通に話ながら歩いているだけで、見かけた人からは噂になって流れるかもしれねえけど、相手が俺じゃあ、すぐに嘘だってバレるだろうしな。 

 爽司に頼むことは……できればしたくねえ。

 

「じゃあ、今後はもし、遠くに、いや、近くでもなんでも、出かけたいことがあったら、俺――とか、爽司とか、透花とか、誰でもいいけど、声かけろよ。複数人でいれば、ナンパのリスクも減るだろうからな。べつに、迷惑とかってことは考えなくていいから」


 とくに、俺とか、爽司とか、男と一緒なら。

 普通に考えれば、男と一緒にいるのにナンパ目的で声かけてくるようなやつはいないだろう。いるとしたら、よっぽど常識のない迷惑野郎だな。それでも、自分で対処しないとならない部分が減るだけでも、楽にはなるはず。

 まあ、それはそれで、今度は別の問題が発生するだろうが。

 それに、さっき言っていた、恋人がいるって噂の流布にも役立つかもしれねえ。相手には不服があるかもしれねえけど、俺が自由にできるのは自分の身一つくらいのものだし。

 とはいえ。

 

「――なんか、あれだな、白月に声かけようとすると、全部ナンパの誘い文句っぽく聞こえるな」


「考え過ぎではありませんか?」


 その白月の笑顔が、言葉と裏腹に、肯定してるんだよなあ。これは、お墨付きと考えるべきなのか?

 

「真田くんの考え方を参考にするなら、異性に声をかけるのがどれも告白になってしまいますし」


「それは極端すぎる話だけどな」


 いや、俺の例えも極端すぎるってことが言いたいのか?

 白月の巻き込まれている状況と、助けになる方法を考えているんだから、その状況に近くなるのは、ある意味、当然なのかもしれないけど。

 

「いろいろと考えてくださって、ありがとうございます。ですが、私もナンパ程度を苦に思っていることはありませんから、大丈夫ですよ」


「苦には思ってなくても、面倒だとは思ってるんじゃねえのか?」


 いちいち、絡まれるのとか。

 

「真田くんは全部正直に話されますね。ですが、気にしていなければ、どうということもありません。あまりとりたい手段ではありませんが、最終手段もありますし」


 最終手段? とは思ったけど、他人の奥の手を探るような真似はしないでおく。

 それと、なんとなく、プレッシャーを感じたし。

 白月の噂のことまで含めて考えれば、わざわざ、いまさら俺が横から口出しするまでもなく自分での対処法も心得ていることだろう。

 

「ですから、デートがしたいのであれば、デートがしたいと誘ってくださいね」


 なんの話……あ、俺に言ってるのか。


「いや、いままでのが全部、長い前振りとかって話じゃないからな。言われるまでもなく、もし、遊びに誘うなんてことがあれば、直接誘うから」


 そんな、回りくどい言い回しとか、得意じゃねえし。

 そもそも、俺から誘って遊びに行こうって発想が、いままでなかったからな。クラスメイトとかに誘われてってことならあったけど。


「冗談ですよ」


 慌てる俺に、白月は肩をほんのわずかにすくめてみせて。

 

「真田くんはご友人が少ないんですか?」


「多いとか、少ないとか、考えたことねえけど、べつに、普通なんじゃねえか?」


 一緒のクラスになったことのあるやつとは、だいたい、友達といっても差し支えないだろうし、クラスを越えてまで、わざわざ、見ず知らずのやつに声をかけに行くとかってこともない。 

 

「ああ、でも、白月と仲良くしたくないとかってことじゃないからな」


「わざと言ってるんですか?」


 そう付け加えると、白月には怪訝な顔をされたけど。

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