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親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


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なかったことにする

 今ではある程度慣れたってだけで、白月茉莉を初めてみたときに感じた雰囲気のことは、きっと今後も忘れることはできないだろう。

 女子と話すことを避けているって程でもないけど、積極的に話すほど仲が良くなる相手がいるわけじゃない。クラスメイトとして、クラス単位だったりでなにかをするときには話したりもするかもしれないけど、スマホの登録先にあるみたいなことになると、俺には白月と透花くらいしかいなかった。

 ようするに、大抵の――おそらくは、爽司以外の――男子生徒にとってと同じように、俺も女子界隈の話についてはとんと縁のないことだった。

 その透花だって、女子とうまくやっていないわけじゃない。むしろ、バスケ部というコミュニティに所属している分、クラス内外に関わらず、親しい相手はいるようだし。 

 そんな、敵を作り辛い性格の透花とは違って、どうやら、白月茉莉というやつは、放っておいても敵を作られてしまったり、そして、それをどうとも思わない(少なくとも、表面に出さない程度には)精神も持ちわせてしまっているらしかった。

 連休も終わり、高校に入って初めての定期テスト、中間テストが間近に迫る中、俺が登校すると、教室の入り口に数は少なかったが――そもそも、この時間帯に登校しているやつが少ないのはいつものことだけど――人だかりができていて、入学式直後の様子を彷彿とさせた。

 

「なにしてんだ、入らねえのか?」


 教室の入り口に留まっている、俺よりも先に登校していたクラスメイトに後ろから声をかける。


「真田」


 振り返ったクラスメイトたちの顔には驚きとか、焦りみたいな感情が浮かんでいて。

 

「入らないつもりなら、そこに留まっていられても邪魔だから、どいてくれ」


 入学式のときにも似たような会話をしたなあと思いつつ、教室に足を踏み入れ、直後――あるいは同時にと言っても良いのか、クラスメイトたちがなぜ入らないでいたのかは理解できた。

 俺の、というか、白月の席にゴミ箱をそのままさかさまにしたようにゴミが散らかっていたから。

 そこだけ掃除をし忘れたとか、皆が帰った後にそこにだけゴミが溜まったとか、誰かがゴミ箱と間違えたとか……まあ、ありえない話だろうな。 

 べつに、中学までだって見たことがあったわけじゃないけど、ここは一応、高校の教室だよな?

 腫れ物にでも対するように、知らぬ存ぜぬを通す態度のクラスメイトのことは気にせず、俺は教室の後ろに備え付けられているロッカーから、箒とちりとりを取り出してきて、さっさとゴミを拾い集め。

 いまだ、教室に入ることなく、扉の前で屯しているやつらに、ひと言。


「どけ」


 綺麗なぞうきん(ようするに、洗って乾かしてあったやつ)を持ってトイレに向かい、濡らして戻ってきたそれで机と椅子と床を綺麗に磨き、ついでに、乾いたタオルで湿っているのを拭き取っておく。

 使った雑巾は、窓の外の手すりにかけておいて、俺は手を洗ってから、席へと戻った。

 その間、他の誰も教室へ入ってきていることはなく、教室の扉から視線を感じてはいたけど。 


「なんで誰も中入らねえの?」


 その状態はそんな声が聞こえてくるまで続いていて。

 

「あれ? 朔仁じゃん」


「爽司」


 今登校してきたらしい爽司は、爽司に押されたように、そろそろと教室に入り始めたクラスメイトに肩越しに親指を向ける。

 

「どうなってんだ、あれ」


「知るかよ。俺が来たときからあんな感じだ」


 理由は、おそらく、九割がたは想像つくけど、それは、教室前でクラスメイトたちが屯す理由にならない。

 さすがに、各教室ごとに監視カメラがついているとか、その予定なんてものも、とくにない。

 だから、すでに片付けた以上、証拠は俺とか、俺より早かったやつら、その中でスマホに証拠を収めたやつら数人の記録の中にしか残っていないだろう。

 それを、爽司に、今、教えるつもりはない。どうせ、今日中には告発しに行く予定だから、少なくとも、明日には知ることになるだろうけど。

 もっとも、もしかしたら、爽司が過去に付き合ったどこかの誰かが、偶然にしろなんにしろ、爽司が白月のことをなにやら憎からず思っているらしいとか、そんな話を耳にして、今回の凶行に及んだとか、そんな話が……絶対にないとは言い切れない。

 各教室にこそ、それから、廊下ごとなんかに監視カメラはついていないけど、校舎への入り口にはついている。

 昨日、授業自体は休みとはいえ、一部の教師とか、守衛だとか、用務員だとかの人たちは学校に来ているはずで、それなら、学内の点検なんかはするんじゃないかと思う。

 それも一応確認には行くけど、それを知っていたとしても、対処しなかったって場合もあるし、そのこと自体は、犯人を特定するには至らないだろう。せいぜい、時間帯の特定に繋がるだけだ。

 にわかに、廊下のほうが騒がしくなり始め、人が割れたかと思うと、真っ白な髪のそいつが教室に入ってきて。


「おまえはどこの預言者だよ、白月」


「あいにく、旧約聖書の類は嗜みがありません」


 あるじゃねえか。俺だって、そんなような感じの名前を知ってるだけで、実際になんの話なのかなんてことは知らなかったからな?

 まあ、それは今はどうでもいい。

 

「それで、真田くんと七原さんはどうされたんですか? パンダにでも就職することが決まりましたか?」


 そんな、笹食って、タイヤで遊んで、寝てるような場合じゃねえんだよ。そもそも、白月に言われたくはねえな。

 だが、それを白月に教えたりはしない。


「なんだ? そうしたら、白月が見物料でも払ってくれんのか?」


 だいたい、入学式の直前の教室も、あんな感じだったんだぞ。主に、おまえのせいで。もちろん、白月自身がなにかをしたわけじゃないだろうことはわかっているけど。

 自分のときには疑問もなかったくせに、他人のときには突っ込むんだな。

 もちろん、理由は違うんだが。

 

「では、真田くんはご自身がパンダであると認められるわけですね?」


「認めるわけねえだろ」


 どこをどうみたら、俺がパンダに見えるんだよ。

 ともかく、白月に教えるんなら、片付けた意味がねえ。それについては、あの惨状を知っているやつらにも、どうにかして、意思を統一させておく必要があるんだけど。

 

「ともかく、白月には理由を教えるつもりはない」


 このときばかりは、白月の特性というか、感謝した。

 なにせ、まだ、白月が入ってきたばかりの動揺が抜けきっていなくて、教室内がわりと静かだったから、おそらくは、他の――つまり、あの惨状を目にしている――クラスメイトにも、俺の宣言が届いたと思えるからだ。

 そして、率先して片付けた俺が黙っていると決めたことを、他のやつらがおいそれと口にすることはないだろう。つまり、白月の耳に入る可能性はかなり低くなったと思っていい。あんなこと、知らずに済むなら、そのほうが良いに決まってるからな。

 本人が知りさえしなければ、生ごみとかで、臭いが残っているなんてことでもないわけだから、問題はなにもない。

 むしろ、白月が知りもしなかった、気にもかけていない様子だってことは、しでかした犯人に少なくない影響を与えるはずで、おそらく、動くと思われるし、今度は職員側とも連携して動くこともできる。

 つまり、俺がいつもどおりに下校していても、教室とか、主に白月のことに関して、監視の目を――学内に関して――向けさせていることができることになる。

 それで、相手が躊躇するようなら、それはそれで、結果としては上等なわけだからな。

 

「……わかりました」


 もっとも、俺の言い回しからか、白月は起こっていた事態の内容をある程度察したみたいだったけど。

 

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