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親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


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なにかと言えば、武術馬鹿

 爽司にとって都合がいいことで、俺にとって都合が悪くなることっていうのも、あまり考えられないし、放っておいていいだろう。

 それに、もし、そんな事態が待ち受けているとすれば、爽司のほうからはっきり、警告でも、忠告でも、してくれるだろう。あんなにふんわりとした感じじゃなく。

 少し考えてみたけど、やっぱり、心当たりになりそうなことはない。そもそもナンパとか、俺の日々の動線に全く触れてもいないことだし。それで、どう俺に関係してくるっていうんだろうな。逆に警戒するまであるぞ。

 とはいえ、考えていても仕方のないことだし、爽司の邪魔も手助けもするつもりはない。爽司にとって、俺程度の口出しが必要とも思ってないしな。

 

「結局、白月は道場には通ってくれないみたいだな」


「朔仁。いつも白月とそんな話ばっかりしてんの?」


 爽司は呆れたように。

 そんなことって、そのことを爽司は知らないはずだと思ったけど?

 

「大事なことだろうが」

 

 組み手の相手が増えるってことだけじゃなく、白月自身の自己防衛力の強化にも繋がる、一石二鳥どころじゃない話だ。

 爽司はわざとらしくため息をついてみせ。

 

「いいか、朔仁。デートに道場に誘われて嬉しい女の子は、まあ、ほとんどいない。言っとくけど、実家が道場だからとか、そういうことを前提に話してるわけじゃないぞ。一般論だ、一般論」


 いや、俺だって別に、デートのために道場にくるってことが、普通じゃないだろうってことに対して、疑問を持っているわけじゃない。

 やっぱり、道場で行うべきは鍛錬であり、神様だとかを信じてるわけでもないけど、神聖な場所って感じはするからな。

 そもそも、よっぽどのことでもないと、来てもつまらないだろうし。

 いや、たとえば、白月が、護身術だとかを学びたいとかって本気で考えているなら、ありえるのかもしれないけど、それはやっぱり、デートじゃあないからな。

 まあ、一応。

 

「嬉しいとか、嬉しくないとか、そういうことはわからないけど、知ってのとおり、というか、見てのとおり、うちの道場は結構な広さがあるから、これを二人で占有して、ごろごろだらだらと過ごすことができるっていうなら、喜ぶ相手は結構いるんじゃないか?」


 まあ、爽司は一般論とは言ったけど。うちも、道場がなければ、俺の部屋で二人でくつろげるほどのスペースがあるかと言えば、微妙ではあるだろう。いや、その程度はスペースがあるか。四人で一緒に勉強会を開いても、窮屈には感じない程度ではあるからな。

 

「朔仁の口から、のんびりだらだらなんて言葉が聞こえるなんてな」


「俺をなんだと思ってるんだよ」


 俺だって、休みの日に、日がな一日、のんびりと横になったまま過ごすことも……あんまりないな。基本的に、休みの日は、起きたらランニングに出かけるし、午前か、午後にか、道場に出るのが、もはや日常になっているからな。ルーティーンというか。

 むしろ、道場で稽古をしないなんてことになったら、俺自身、気持ち悪さとか、しっくりこないとかって感じて、そっちのほうが不自然になると思う。

 というか、それは、ここにいる誰も、似たようなものだと思うんだけど。

 それはともかく。

 それは多分、他人からもそう思われていた、いや、さらにひどく思われていたらしく、爽司はあっさりと。

 

「なにって、武術馬鹿? 実際、朔仁自身だって、そう思ってるところはあるだろ?」


「いや。自分でそこまで思っていたりはしないな」


 たしかに武術中心の生活をしているって意識もあるけど、武術馬鹿と言えるほどかと聞かれると、そこまでではないんじゃないかと思う。

 

「のめり込んでるやつほど、自分にとっては足りてないと感じてるものだからなあ」


 爽司はやれやれと言いたげに肩を竦めてみせる。

 

「いや、べつに足りてないとか、そんなことはないと思うけどな。休むこと、というか、身体を休めることも修行のうちだってことは、理解している」


「まさに、その考え方が、そのものだろうが」


 そう指摘されるまで、まったく、気にしてはいなかった。けど、あらためてそう言われてみると、確かに。武術のために生活しているかもしれない。生きているのに必要だから、武術を学んでいるわけじゃなく。そもそも、大抵の習い事と呼ばれるものに、そんな、生き死にまでかかるようなものはないわけで。

 まあ、そこまで考えるのは、さすがに、極端が過ぎるだろうな。

 たしかに、上を見れば果てしないんだろうが、

 たとえば、父さんなんかは、多分、身体に武術が浸みこんでいて、武術について考えるとか、考えないとか、そういうレベルじゃないほどに思える。

 

「まあ、デートに道場っていうのはどうかと思うけど、なにかにそこまで一途に打ち込んでいるのは、魅力的に見える相手もいるだろうから、悪いことじゃないとは思うけどな」


「朔仁のことを一途なんて言葉で表現していいのか?」


「ほかのものを見たことがないってだけじゃないのか? 一途って言うより、ただの馬鹿だと思うぞ。まあ、そこまで貫けば、たしかにすごいとは思うけど」


 こいつら、さてはつっこめないように工夫してるだけで、喧嘩売ってるな?

 そもそも、爽司から例えに出されたから、それに答えたってだけで、俺だって、もし、仮に、女子とデートなんてものに出かけるなんてことがあるとするなら、道場をデート先に選んだりしないだろ。

 自宅でデートするってことが、ないとは言わない、むしろ、自然なことだとも思うけど、それは、道場で二人して、組手をするとか、そういうことじゃないのは、わざわざ、考えるまでもないだろ。

 もちろん、そういう付き合い方があっても悪くはないと思うけど。

 誰がなんと言おうと、その当人同士が認識していれば、それはデートと言って、問題ないわけだし。

 

「そもそも、デートのことなんて、一人で考えるわけじゃないんだから、道場なんて場所が候補として上がるはずないだろ」


 デートって、そもそも一人じゃなく、相手と行くからそう呼ばれるんだろ? 一人で行くなら、それはデートじゃないし。

 一人で勝手に行先決めるわけじゃないんだから。その候補地に道場が挙がるとは、俺だって、思わない。むしろ、挙がったところで、よっぽどの――相手も武術家だとかってことでもない限り、採用はされないだろう。俺だって、実家はともかく、デートでまで道場に行きたいとは思わない。

 道場に来たなら、俺にとってはデートじゃなく、修行、鍛練ってことになるからな。

 いや、趣向がどうこうってことじゃなくて、気持ちが自然とそう切り替わるっていうか。

 それに、どこに行くにしたって、一人で決めてサプライズみたいに演出するよりは、相手の意見を聞いて、二人して満足のできるだろう場所を選ぶっていうか、計画を立てたほうが、結果的には楽しめると思う。あるいは、楽しめなくても、それはそれで良かったとかって笑い合えるとは思うぞ。あるいは、反省として、次に生かすとかな。もしくは、二人でデートについて話し合った時間そのものを楽しい思い出として共有できるとか。

 まあ、デート自体がつまらな過ぎて、それきり別れるとかてことにでもなるほどだったとしたら、笑い話じゃあ済まないんだろうけど。

 祭りとかでも、準備をしているときが一番楽しいって言うからな。

 まあ、それは、本番が楽しくなかったときの言い訳に使うべき言葉じゃないとは思うけど。

 それに、所詮、女子と付き合ったことなんてない俺の意見だしな。

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