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親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


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借りとか、貸しとか、そういうものは必要ない

 ストーカーの件はともかく、今回のことは学校には報告するほどのことでもないだろう。

 学校の周辺に出没つするストーカーは、ともすれば、全校生徒が標的になる可能性があるわけだけど、身内のごたごたまでいちいち報告する必要があるわけじゃない。

 もっとも、白月の今の両親が離婚して、名字やらなにやらが変わる可能性があるってことなら、話は違うかもしれないけど、どうやら、白月は白月のままだし、住所もあの家にそのまま暮らし続けるってことらしいから、その辺りの手続きは必要ない。

 

「短い滞在でしたね……」


 白月が深刻そうな顔で、しんみりとした感じに呟くけど。


「滞在ってほどのことでもないだろ。雨宿り程度じゃねえか」


 時間にすれば、半日もないだろう。そんなに、あらたまって、思い出に浸るように言うほどのことはない。

 さすがに、母親に事件の説明をした直後に、うちに泊まりに来るとは言わないだろう。そもそも、うちに来る原因になった相手が今はいないんだからな。

 

「いろいろと、気を遣っていただいたのに、申し訳ありません」


「いや、気を遣ったとか……俺にも得があったから誘っただけで、茉莉の心配がいらないってことになったなら、それで十分なことだからな」


 好きなときに組手のできる同世代っていうのは、なかなかに貴重だからな。

 もちろん、うちの道場に通っている同年代はいるけど、あの雨の中みたいなことだと、外出を控えようって思うやつも出てくるわけだし。べつに、うちは強制して通わせてるわけでもなんでもないから。

 

「真田くんの頭の中はそればっかりですね……」


 白月が溜息交じりに呟く。

 それは、仕方ないだろうが。生まれたときから一番身近な、実家の話だぞ。

 

「美少女と一緒にひとつ屋根の下で暮らすというシチュエーションが一つ潰えたんですから、もうすこし、惜しむとか、残念に思うとか、そういう反応があるのではありませんか?」


 自分で自分のことを美少女と称するとか……いや、たしかに、それを否定はできないわけだけど、普通、口にするかね。それは前からだし、いまさらといえば、いまさらなんだけど。

 

「それだけ言える元気があるなら十分だな」


 というか、縫子さんもなんとか言ってやってほしい。母親なら、娘のそういうところも知ってるんじゃないのか? 

 

「茉莉が自分の目で見て信頼できると判断した相手なら、私が口出しすぎることもないんじゃないかしら」


 信頼できるっていうか、反応を楽しんでいるだけだと思うんだけど。

 

「まあ、対戦相手が増えなかったっていうのは残念なところだから、茉莉がうちの道場に通いたいってことなら、いつでも歓迎だからな」


 対戦相手のパターンが増えるのは、俺にとっても、喜ぶべきことだから。 

 白月に見てもらうと勉強も捗るから、そっちの方面でも頼りにはしたいところではあるけど、さすがに、住み込みで教えてもらうなんてことはしなくていい。 

 

「はい。ですが、今も真田くんの家にお邪魔させていただく必要がありますので。私の、濡れていた服を回収しなくてはなりませんし、お借りした服もお返ししなくてはいけませんから」


 つまり、うちの道場に通うつもりはないってことか。まあ、それは、ある程度わかっていたから、そこまで落ち込むこともない。


「それこそ、いつでもいいけどな。あ、いや、道着を返すってことのほうで、茉莉の服のほうはさっさと回収してくれるほうがありがたいけど」


 いつまでもうちにおいておきたくはないからな。

 白月だって、いつまでもこのままっていうのは困るだろ。宅急便なんて無駄だし、それくらいなら、俺が直接届ける。

 さすがに、学校に持って行くとかってことになると、目立つなんてことじゃないからな。


「また、真田くんのところへお邪魔させていただいた際、荷物が軽くなると考えたなら、それでも問題はないように思いますが」


「本気じゃないだろ?」


 うちにはいつ来てくれてもかまわないけど、さすがに、着替えを常備するほどじゃないだろう。

 爽司や透花だって、そんなことはしていない……まあ、家が近いからわざわざ、置いておく必要もないってことはあるだろうけど。そもそも、うちに泊まりに来るってこと自体、中学に入って以降、少なくなってきたしな。


「真田くんがどう思われていようと、今回のことで借りができました。私はそう思っています」


 そんなことを考えているわけはなかったけど、白月がそっちのほうが気が治まるっていうなら、そう思っていてくれてもかまわない。もちろん、返してもらおうなんてつもりはまったくないしな。 

 むしろ、勉強を見て、教えてもらっている俺のほうが……それを言い出すと、また水掛け論になるから、言わないけど。

 

「そうか。風呂場に侵入してくるとか、こっちの理性を試そうとか、よっぽど危険じゃないことなら、好きにしてくれ」


 白月が満足するまでやらせたほうが、結果的に、丸く収まるだろう。

 

「え? なにを言っているんですか、真田くん。そんなことをするはずがないじゃないですか。私のことをどれだけ貞操観念のない人間だと思っているんですか? 訴えますよ?」


「おまえがやろうとしたことなんだよ」


 俺のほうが名誉棄損を受けてるんじゃないのか?

 いや、理性どうこうっていうのは、たしかに、俺の問題かもしれないけど、白月だって、自分の行動を振り返れば、思い当たるだろう。俺は、思い当たるもなにも、わざとやっているんだろうと、ほとんど確信してるけど。


「とにかく、そういうことで、やるべきことは終わったし、俺は帰るぞ」


 長く滞在しすぎた。白月の安全も確認できたし、他に俺のできることはない。 

 

「真田さん」


 帰ろうとしたところで、呼び止められて、振り返ると、縫子さんと茉莉が土下座していた。

 

「このたびは、私の迂闊から危険に陥った娘を助けていただき、感謝のしようもございません」


「感謝されるようなことじゃないです。白月が相手だからとか、そういうことじゃなく、たまたま、俺の目の届くところに入ってきたっていう、ただそれだけのことですから」


 本当に、白月を助けようとか、そう思ってのことじゃない。たまたま、目に入ってきたってだけだ。

 そして、やったことといえば、白月を助けたと言えば聞こえはいいけど、大人一人、ぶん投げただけだし。あの対処に間違いはなかったと思ってるけど。

 

「先程も言いましたが、茉莉にはいつも世話になっています。借りだ、貸しだということでしたら、そもそも、クラスメイト――友人相手にそんな損得勘定を乗せて動いたりはしません」


 いちいち、理由とか、後の立ち回りとか、礼だとか、そんなこと考えて人助けをしたりしないだろ。

 今回のことだって、白月に助けを望まれたってことじゃなくて、俺が勝手に首を突っ込んだだけだしな。

 むしろ、暴行傷害で、こっちが訴えられていてもおかしくはなかった。もちろん、やりすぎないよう、加減はしたし、直接――。


「そういえば、茉莉。警察に連れていかれる前に、あいつに一発食らわせとかなくて、よかったのか?」


 実際に、組み合った感じ、俺が傍で見ていれば、白月が平手の一発入れる程度の時間なら、あの叔父のことは牽制できたと思う。

 年齢相応の腕力だとか、握力だとかは備わっていたみたいだけど、言ってみれば、所詮はその程度で、俺にとっては、素人ってことに変わりはない。

 

「はい。あれ以上、関わらないことが最善だと思いました。代わりに真田くんがやってくれましたから」


「べつに、茉莉の代わりってことじゃなくて、俺がむかついたってだけだったけど」


 

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