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親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


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白月の母に事情を説明

 ◇ ◇ ◇



 白月の対応力のお陰か、警察に勘違いされて俺が疑惑の目で見られるようなこともなく、この場で直接的な――正当防衛と見做される以外の――暴力があったわけでもなく、その場での事情聴取だけで、俺たちは解放されることになった。

 もちろん、白月の継父は、逮捕だか、拘束だか、されて連れていかれたけど。

 白月の保護者ってことに関してでも、継父以外に母親も一緒には暮らしているわけで、特別に問題視されるようなこともなかった。

 そもそも、危険ってことはあるかもしれないけど、未成年だからって、一人暮らしが法律で縛られることもないしな。


「いろいろとご面倒をおかけしてしまったのに、すみません」


 白月が言っているのは、うちで寝泊まりできる準備を整えていたことだろうが。


「べつに、白月が謝ることじゃない。それに、自分の家で過ごせるなら、それに越したことはないだろ」


 他人の家よりも安心できるだろうし。

 そう思っていたけど、白月の反応が悪い、気がする。


「おい、白月。大丈夫か?」


 脅威? がなくなって気が抜けるのは、仕方ないといえば仕方ないのか。あるいは、ついさっきまでは(今でも、戸籍上は)家族だった相手に襲われて、逮捕されたからか。

 とはいえ、直前までは、普通に会話していたわけだしな。

 試しに、顔の前で手を振ってみる。猫だましまではしない。


「はい。ご心配をおかけしてすみません。すこし、気が抜けてしまっていたようです」


 座り込んだりしなかっただけ、しっかり気は保っていたのかと思ったけど、そうでもなかったのか。

 簡単だったとはいえ、事情聴取も、時間はそれなりにかかったからな。

 

「話っていうか、確認しておきたいんだけど、今後のことについて」


 うちでは母さんも夕食の準備なんかをしているだろうと思う。白月の分まで。

 とはいえ、その理由だった白月の叔父がこうしていなくなったため、うちに泊まりに来る理由ももはやないと言っていい。

 

「正直、あれで白月の叔父がどの程度拘束されるのかとか、そういう事情はわからない。確かめることができないわけじゃないだろうけど、そんなこと、白月もしないだろ?」


「はい」


 この場からはいなくなっているわけだし、帰ってきたとしても、態度は控えられることになるんじゃないか……まあ、希望が多分に含まれてはいるけどな。

 もちろん、それと、白月の気持ちっていうのは別物だから、白月の気が休まらないってことなら、それ以上の措置を取る必要が出てくるかもしれないけど。

 

「とりあえず――」


「ただいまー」


 その話をしようとしたところで、玄関のほうから(だろう)声が聞こえてきて。


「あら、茉莉ちゃん。お友達?」


 多分、この女性が白月の母親なんだろう。

 いかにも、仕事のできそうな女性って雰囲気だが、近寄りがたいとか、そんなこともない。


「お邪魔させていただいています。茉莉さんのクラスメイトの真田朔仁です」


 直前に継父を見ているからだろうが、まったく、警戒しなかったと言えば嘘になるけど、あの継父がいながら白月が普通に暮らせていたのには、多分、この女性――母親の存在もあるだろうから。

 まあ、男を見る目は――それこそ、俺の言えたことじゃないか。いや、爽司なら言えるのかってことでもないけど。というか、高校生には無理だ。

 

「あら、まあ。茉莉の母の縫子です。茉莉がお友達を連れてくるのなんて初めてだから、ゆっくりしていってね」


 もちろん、すぐに帰るつもりなんてなく、むしろ、待っていたわけだから。


「すみません。お戻りになられた直後で申し訳ないのですが、少し、お時間をいただけるでしょうか」


 もちろん、白月――茉莉から話してもらうのでかまわないわけだけど、せっかく、丁度居合わせたわけだし。

 縫子さんは、俺と茉莉とを見比べてから。


「すこし、待っていてくれるかしら」


 立ち話することでもない。

 むしろ、事の重大さで考えたなら、しっかり、腰を据える必要があるだろう。茉莉にとってはともかく、この人にとっては、心を通わせた相手だったわけだろうから。

 茉莉に誘導されて、リビングのような場所で待つこと数分、縫子さんが仕事着のままに姿を見せる。

 真面目な雰囲気だったから、そのままの格好のほうが良いと思われたのかもしれない。俺はべつに、待つつもりだったけど。

 

「それで、お話しというのはなにかしら。まさか、茉莉をください、なんてことじゃないのよね?」


 縫子さんは、多分、冗談だったんだろうけど、もちろん、俺もこの状況で悪ノリしたりはしない。

 いや、この状況じゃなければ悪ノリしたのかってことじゃないけど。茉莉が相手だったら、適当にあしらっていたかもしれないけどな。 

 とはいえ、そんな軽い話じゃなく、むしろ、気が重い話だ。


「はい。まずは、謝罪しなければなりません。先ほど、茉莉の継父、縫子さんにとっては、再婚相手である夫と呼ぶべきなのでしょうが、その方を投げ飛ばしました」


 結局、白月の継父の名前は知らない。聞けるような状況でもなかったからな。この程度、明日のニュースにもならないだろうし。

 まあ、特別知りたいわけでもないし、どうでもいいか。

 

「投げ飛ばした……?」


 縫子さんの顔には疑問が広がっていて。

 それはそうだろう。いきなり、クラスメイトと対面したこと自体は、それほど珍しいことでもないと言えるかもしれないけど、そのクラスメイトが級友の継父を投げ飛ばすことになるという状況をすぐに呑み込めるはずがない。

 

「はい」


 どう言葉を選ぼうかと思ったけど、どうしたって、事実をそのまま告げるべきなのは、そのとおりだろう。

 気を遣って、うまい言い方ができるわけでもない。語彙が足りないとか、そういうことじゃなく。

 だから、俺は今日、走り込みの鍛練の最中、白月に遭遇したところからを、俺にわかる範囲で、一から、全部話して聞かせることにした。

 脚色も、私見もなく、ただ、事実だけをありのまま。

 話し終えると、しばらく沈黙が続き、それから、ようやく縫子さんが口を開く。


「……帰ってくる途中、パトカーとすれ違ったのだけれど、もしかして」


 縫子さんの想像どおりなのかはわからない。ただ、可能性は高いと思うけど、パトカー自体は、ありふれてるって言うほどでもないけど、その辺りを一、二台走っていても、不思議でもなんでもない。ちょっと、近くでなにかあったのか、とは頭をよぎるかもしれないけど。

 なんというか、マジで、俺からは、なにしてくれてんだよ、としか言えない。


「でも、茉莉を助けようとしてくれたのよね。ありがとうございます、真田さん」


 夫を投げ飛ばしたのに、その奥方に感謝されたときって、どう反応したらいいんだろうな。しかも、その人は直接関わっていないところで。

 どういたしましてとか、こちらこそすみませんとか、どう答えても失礼だろう。

 そもそも、基本的に、感謝されるようなことか? 一応、人助けとは言えなくもないわけだけど。

 

「それに、どんな相手だろうと、悪いことは悪いことなんだから、それに対してはっきり言うべきよね。大人になると眩しくなったりしてくるものだけど、真田さんの行動に恥じるべきところはなにもないわ。むしろ、あの人にこそ、足りないものがあったということよね」


 それから、縫子さんは茉莉へと向き直り。


「ごめんなさい、茉莉。私がしっかりしていなかったのが原因よね」


「いえ、お母さんが悪いわけでは。私も、もう少し早く、はっきり話しておくべきでした」


 俺に言わせてもらえば、二人に非はないだろう。最も身近にいたってことなら、そのとおりかもしれないけど、とはいえ、それだけのことだし。

 

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