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親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


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そんなに紛らわしいか?

 本当はこのまま謝罪までさせたいところだけど、心の籠っていない言葉に意味はない。

 そもそも、なにについて謝罪させられるのかすら、こいつにはわかっていなさそうだからな。なにせ、セクハラの正当化に権利なんて言葉を持ち出すようなやつだし。

 

「白月。荷物の準備は終わりそうか?」


 今、俺の膝の下で暴れようとしているこいつのお陰で、中断されていたけど。

 

「というより、白月的には、こいつがいなくなるならここに残りたいとか、そういうことになるのか」


 そもそも、叔父の元から逃げ出すために、うちに一時的に身を寄せるという話だったわけで。

 その叔父が、こうして犯罪者として捕まるなら、この家を離れる理由もなくなるんじゃないのか?

 

「私がいなくなり、この人が逮捕されるとなると、叔母様が一人になってしまうんですよね。しっかりと事情を説明すればわかってはくださると思いますが」


 むしろ、そんなやつの影がいたるところに残っているように感じられるこの家にはいないほうが良いと考えるかもしれない。

 そこは、どちらもありそうだから、実際に聞いてみるまでわからないんだけど。

 いや。


「わかってくださるっていうのは、白月としては、うちにいたいとか、そういうことなのか?」


 さすがに、ホテルだとか、学校に寝泊まりするだとかっていうのは、現実的じゃない。そもそも、学校に寝泊まりって、できるものなのか? いや、施設的にってことじゃなく、許してくれるのかって意味だけど。 

 

「え? いえ、それはそれで楽しそうだとは思いますが、さすがにご迷惑はかけられません」


 うちでは迷惑なんて思ってないけど、これも、白月がどう思うのかって話だからな。

 白月が、俺たちに対して、お邪魔している、迷惑になっている、なんて感じながら過ごさせるくらいなら、そして、叔母への説明なんかをしっかりとできて、ここで暮らしていくことに問題を感じないってことなら、そのままここに居続けるほうが良いような気はする。

 

「そうだよな。ああ、迷惑だからとかってことじゃないからな。勘違いするなよ」


 仲の良いクラスメイトが泊まりにくるなんて状況は、誰だって、楽しみなものだ。俺の一存で勝手に決められるものじゃないけど。

 それに、爽司や透花ほどじゃないにしろ、ここも大分近いってことは変わりないし、普段、放課後だとか、休みの日だとかに会おうって程度なら、不便でもなんでもない。

 母親にも――。


「そういえば、白月の家族――とくに、母親への説明は大丈夫なのか?」


 白月の説明能力を疑っているとかってことじゃない。 

 なにせ、再婚相手だろ? 再婚する前に付き合っていた段階ではこんな相手だと知っていたわけじゃないだろうが、夫とも死別して、再婚した相手が犯罪者として逮捕だろ? いや、それ自体は、俺たちにどうこうできたことじゃない(まさか、白月に我慢しろとは言わないだろう)から、気にしても意味がないのはわかってるんだけど。

 

「はい。大丈夫……だと思います」


 白月は頷くけど。


「その間が不安すぎるんだが」


 とはいえ、家族の間のことだ。俺なんかよりずっとわかっているだろう白月に任せるより他に、できることがあるわけでもないからな。 

 

「まあ、白月がそれでかまわないってことなら――なんだよ」


 なにか言いたげに見ているくらいなら、はっきり言えよ。叔父に聞かれて困る話ってことでもないなら、だけど。

 

「真田くん。この場に白月は二人いるのですが」


「そうだな」


 その一人は、今まさに、俺の膝の下で、無駄に手抗しているところだ。俺も白月も意図して無視してるけど。

 

「紛らわしいと思うのですが」


「そうか?」


 いや、俺が呼ぶ側に立っているからな。呼ばれる白月からすれば、どっちのことを言っているのか、混乱するのかもしれない。

 白月が、話の流れからわからないとも思えないけど、ここにさらに、白月の叔母が帰ってくれば、白月がさらに一人増えるわけで。


「じゃあ、茉莉。俺の母さんとか父さんに説明するのは俺からでもかまわないけど、茉莉の母さんへの説明は自分でしろよ」


 そうすれば、うちに同居なんて話もなくなるだろう。

 白月と同居するのが嫌だとかそういうことじゃなく、まあ、困りはするかもしれないけど、家族が白月のことを心配するだろうからな。

 しかも実情はどうあれ、よく知らない同級生男子の家に泊めるとか、そもそも、話を聞いた限り、母親とか、叔父以外の家族との関係は良好みたいだし、普通に、一緒に暮らしたいだろう。

 

「もちろん、うちにはいつ来てくれても、基本的には歓迎だけどな」


 弟子入りするとか、そういうことじゃなくても。


「それとも、俺も一緒にいて説明したほうが良いのか?」


 考えてみれば、白月の口から、母親の再婚相手に襲われました、なんて言わせるのは、かなり気まずいどころの話じゃないだろう。 

 

「いえ、大丈夫です。あっ、一つだけ、洗濯物だけは取りに行かせていただきたいのですが」


 白月の着ていた、ずぶ濡れだった服類は、今もうちの洗濯乾燥機の中に放り込まれているだろう。

 もともと、一時避難するつもりで、荷物を取りに来ようとしていたわけで、うちに戻ってくるなら、そのときに回収できると考えていたからな。

 まさか、俺に、同級生女子の服だの、下着だのを回収しろとは言わないよな? いや、一応、母さんに頼むこともできることはできるけど。

 それでも、とりあえずは、こういう決着がつきましたって話は、白月の口から直接、母さんにも話してくれると、俺としても助かる。本人だと、説得力とかが違うからな。

 

「それはもちろん。むしろ、助かるまである」


 膝下のやつが痙攣したように思えたけど、気にはしない。

 この状態でできることもないだろうし、喋るにしても、どうせ、碌なことじゃないに決まってるからな。

 もっとも、大方の予想はできるけど、俺に言わせてもらえば、この状況でよくもまあって感じだ。本当、いい加減にしろよ?


「真田くん?」


「いや、なんでもない」


 わざわざ、白月に教えるまでもないことだ。

 そうこうしている間に結構時間は経っていたようで、インターホンが響く。


「警察か?」


「みたいですね」


 窓の外には赤い光が点灯していて、部屋の中にまで届いてきている。

 まさか、これで違う相手――たとえば、赤色灯とサイレンの音だけ模倣した、この叔父の仲間(なんてものがいるのかどうかはわからないけど)で、白月をどうこうするつもり、なんてことだと厄介だけど、まあ、ありえないだろう。

 白月が窓から外の様子を確認しているわけだし。

 

「さすがに、俺が出ていくわけにいかないだろ。茉莉、ここはいいから、行ってきてくれ」


 とはいっても、俺にできることなんて、この期に及んで逃げるつもりなのか、いっそう抵抗の激しくなったこいつを押さえておくことくらいだ。そして、この場ではそれは重要なことの一つでもある。まあ、すでに警察が到着してるってことなら、白月の周囲をカバーしているだけでも良さそうだけどな。 

 

「はい。すぐに戻ってきますね」


 白月からの説明がないと、俺も不法侵入者に変わりはないからな。

 むしろ、白月の叔父より、俺のここにいる理由のほうがないわけで。加えて、一応は家の主ってことになっている相手を押さえつけているとか、俺のほうが悪人に見えないこともない。

 案の定、白月と一緒だったにもかかわらず、踏み込んできた警官は、俺と白月の叔父とを見比べ、どっちがどっちなんかわからないような雰囲気をしていた。

 一応、俺のほうが高校生で、白月の叔父と同じくらいの年齢に見えるなんてことはないと思うんだけどな。

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