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親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


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もはや、取り繕う必要を感じなくなった

 そもそも、俺には警察の捜査とかのことはわからないから、たかだか、指紋がいくつか残っていたからなんだって話なんだけどな。

 そんな、よくわかっていない俺だって、指紋がどうのってことくらいは耳にしたことがある。

 それなら、この頭に血が上ってるような男には効果もあるんじゃないかと思ったんだけど。


「はっはっは。私が茉莉に手を出した証拠なんて残っているはずないだろう。茉莉はこの雨の中を傘もささずにずぶ濡れになっていたとおまえも言っていただろうが。それが今、そうして乾いている服を着ているということは、一度、洗濯と乾燥をしたということ。ならば、きれいさっぱり落ちているはずだ」


「ええ、そうでしょうね」


 俺があっさり認めると、白月の叔父は呆気に取られているような表情を浮かべた。

 

「今、口にされましたよね、きれいさっぱり落ちているはずだ、と。そもそも、触れていないのなら、もともと残っているはずなどない、そう言うとは思いませんか?」


 落ちているということは、その前に残っていたということ。

 つまり、残すようなことをした、触れたと認識しているということだ。

 

「ところで、あなたもなにも持たずに雨の中に飛び出していった茉莉さんのことは見ていますよね? それなのに、今、こうして乾燥している服を着ているということは、どういうことだかわかりますか? つまり、一度、全部洗ったということです。では、それはどこで? なぜ、ただのクラスメイトにすぎない俺がここにいると思いますか?」


「なにを言い出すんだ?」


 しかし、一瞬後には、まさかって顔を晒した白月の叔父に。


「そうです。さすがにびしょ濡れのまま放っておくことはできませんでしたから、うちについて来てもらって、風呂に放り込みましたよ。もちろん、そのときに衣服も」


 実際には、すぐに洗濯したし、指紋なんか採取している暇はなかったし、そんな技術もないけど。


「うちは、武術の道場もしていまして。警察の術科師範という仕事も請け負っているんです。それで、先程、たまたま、非番ではありましたが、そのタイミングで警官の方がおられましてね。その方は非常に優秀な方で、びしょ濡れだったそこからも、指紋をきっちり採取してくれたんですよ。じゃあ、なぜ一緒に来なかったのかって? もちろん、白月たっての願いです。強姦されかけたとはいえ、親類にあたり、恩義もあるあなたのことを見捨てられはしなかったんでしょうね。俺はさっさと逮捕してもらえばいいと言ったのですが」


 もちろん、それも嘘だ。警察官を詐称すると、確かな名称はわからないけど、犯罪法に抵触するはずだからな。とはいえ、全部が全部嘘ってわけじゃない。父さんが、警察の術科師範を請け負っているのは事実だ。

 だから、はっきりとは言わない。

 

「それに、実際に事に及ぼうとしたのかどうかは、あなたが、そして茉莉さんのほうがよくご存じのはずですよね。俺としては、今、ここに警察の方を呼んで、そこで釈明していただいてもかまいませんが」


 詳しい法律だとかの話は、正直、俺にはわからない。専門家に任せるべきだろう。

 白月の叔父は、今にも殴り掛かりそうな顔で俺を睨みつけてきていたが、一度息を吐き。


「なあ、茉莉。茉莉にはわかるだろう? 私にはおまえを害そうとする――なにをしている」


 気味の悪さを感じるような、俗に猫なで声とでも言われるような声で白月に話しかけたところで、俺は白月の耳を塞いだ。


「茉莉に話しかけるな。耳が腐ったらどうする」


 もはや、敬語なんてものは放り投げた。

 元より、敬うつもりなんてわずかたりともなかったけど、取り繕う必要すら感じなくなっていた。

 下手に出ていたところで、この相手の態度は変わらないし、認めることもないと判断した。


「さっきも言ったよな? 俺がどっちを信じるのかなんてことは、最初から決まってるって。本当はな、てめえの面拝んだ瞬間、二度と茉莉に手を出そうなんて気も起こらないくらいに、ぼっこぼこにしてやろうと思ってたんだよ。それをしないでやったのは、てめえが誠心誠意、茉莉に謝罪するかもしれないって可能性がまったくないわけじゃなかったからだ。それが、なんだ? さっきから聞いていれば、謝罪どころか、茉莉に圧までかける始末。そんな相手には、もはや、まともな謝罪なんて期待しねえ。無理やり、心の底から謝罪させて、茉莉に手を出そうなんて気が、金輪際、起こらない、起こせないようにしてやるよ」


 まあ、でも、一応、最後通告くらいはしてやるか。


「てめえが茉莉に誠心誠意謝罪して、己の所業を悔い改めるために、自首するってんなら、勘弁しておいてやるよ。言っておくが、これが最後の警告だ。それでも、まだ、しらを切るつもりなら、遠慮容赦なく、ぶん殴る。急所は潰すし、もしかしたら、しばらく、病院の天井しか見えない――いや、病院の天井を見るしかできない生活になるかもな」


 俺は白月を振り返り。


「おい、茉莉。今から、こいつが自分の行状を認めて反省するっていうから、聞いてやれ」


 それでそのときに、と俺はそれ以降の話を白月の叔父に聞かせないよう、小さく耳打ちする。


「はっ。漫画じゃあるまいし、おまえにそんなこと――がっ」


「あーあー。殴られてるのに喋ろうとするから、舌まで噛んでるだろうが」


 口を開いた白月の叔父の顎の下から、加減はしたけど、拳を撃ち込んでやったら、白月の叔父は、一瞬だけわずかに浮かび上がり、それから、顎の下と口元を抑えて蹲った。

 ぶん殴ったところだけじゃなく、舌でも噛んだか、歯がどうにかなったか……まあ、俺の知ったことじゃないけど。


「言ったよな? 最後通告で、ふざけたことを抜かすようならぶん殴るって。次は急所を潰す」


 そうすれば、まあ、しばらくは、白月の貞操も守られるだろう。

 

「おまえたちこそふざけるなよ。ここまで育ってやったのは誰だと思っている! その成果を確かめるくらい、当然の権利だろうがっ」


 白月の叔父は、部屋の隅の棚の上に置かれている物入れの中から鋏を取り出し。


「真田くん」


「あんなちんけな鋏程度、俺には関係ねえ。そこでどっしり構えてろ」


 所詮は素人。ただ、ほんの少し、リーチが伸びたってだけの話だ。

 

「茉莉は私のものだ、そこをどけ、小僧」


「茉莉は茉莉自身のものだろうが。あんたにあるのは、ただの親権だろ。本来、それは茉莉自身を守るためのものであるべきだ。縛り付けるための理由に使ってんじゃねえよ」


 実際、その親権関係のことも、どうなってるのか、俺は知らないけど。

 

「邪魔をするなあぁっ!」


 滅茶苦茶に振り回すのでもなく、ただ、振り上げた腕を軌道に沿って振り下ろすだけ。それを受けるのは容易い。

 

「な」


 手首を受け止めたのち、驚く暇も与えず、手首を返して相手の腕を、もう片方の手で肩口の服を掴み、一本背負いで床に落とす。

 うちの道場ほど天井が高くないから、途中、足の先、あるいは、踵なんかが天井に擦ったかもしれないけど。


「おい、茉莉」


 呼びかけても、なにやら、茫然として、動く様子がない。


「おい、茉莉!」


「は、はい」


 今度は、少し語気を強めてみると、びっくりしたような反応が返ってきた。


「とりあえず、警察に連絡だ。刃物持った男に襲われそうになっているところを目撃しましたってな。まあ、文言は任せる」


 現実には、その刃物を持った相手――今は取り落としているから、持っていた相手だけど――は、俺が投げ落としているから、どっちがどっちなのか、ちょっと見ただけだとわからないかもしれないけど。

 

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