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親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


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「たかがクラスメイト」で悪いのか

 それでも、誤魔化したり、取り繕ったりする必要性は感じなかった。

 

「なにか誤解があるようだが、私は――」


「それ以上近付かないでいただきたい」


 手を伸ばし、一歩こちらに踏み出してきた白月の継父に対して、警告するつもり睨みつける。

 

「俺の聞いている話や、見てきた状況のどこが誤解なのかということはともかく、まさに今、茉莉さんがあなたに対して恐怖や嫌悪を抱いていることは事実のようですから、それ以上、茉莉さんの精神を害する可能性のある行動は控えていただきたい」


 白月の気持ちの部分は推測だけど、そう言っておいたほうが遠ざけやすいだろうし、すぐ後ろで白月が聞いている状況なら、口裏を合わせるなんてことも必要ない。 

 それに、できれば、同じ空間に長いこと居させたくはないし、最短で切り上げたいからな。

 

「なにを言っているんだ、馬鹿馬鹿しい。茉莉が私を嫌悪するなど、ありえないだろう。そうだよな?」


「そうやって、圧をかけるのも控えてください。あなたにそのつもりがあるのかどうかということではなく、茉莉さん本人が脅しをかけられていると感じるような行動に出ないでくださいということです」


 一応、保護者ということでもある相手に、高校生という立場である白月は、最終的には強く出られないだろう。

 加えて、母親の再婚相手でもあるわけで、ついさっきまでは、家族としての情も多少はあったということだから、こうして直接顔を合わせても、躊躇することもあるのかもしれない。

 

「おまえはいったい、何様のつもりだ! 私たち家族のことに余所者が首を突っ込んでくるんじゃない!」


「この距離ですから、そのように怒鳴らなくても聞こえます。そして、先程も申し上げたとおり、俺は真田朔仁。茉莉さんのクラスメイトです」


 いくら凄まれようと、大した脅威には感じられない。

 口にすることがいちいち小物っぽくて、逆にこっちのほうが冷静になれたくらいだ。最初は、出合頭に一発ぶち込んでやろうと思っていたくらいだったのに。

 

「たかがクラスメイトが」


「たかがクラスメイト? それでも、知り合いが雨に濡れて泣いているような様子だったら、気にならないほうが不自然ではありませんか? それとも、あなたは一人で雨に打たれながら泣いている様子の世話になったクラスメイトを放っておく感じの人ですか?」


 俺は、べつに、白月の叔父を煽るつもりで、つまり、向こうから手を出させて決定的な証拠を手に入れてやろうなんて考えて話しているわけじゃない。

 そもそも、黙って殴られるつもりもないし。


「子供が口出しするんじゃない。こちらの家族のことはこちらの家族に任せて放っておいてもらおう」


「他人を心配するのに、関係性の強弱とか、年齢が関係あると? そもそも、茉莉さんが雨の中ということにもかかわらず家を飛び出したのは、家族であるあなたに自分のことを任せてはおけないと判断したからなのでは?」


 いつ、襲われるともわからない相手に、身の危険を感じながら一緒に暮らすことはできないと判断したからこそ、飛び出してきたんだろう。

 まあ、実際には、衝動的な行動で、その瞬間にはそこまではっきりと考えていなかったとしても、言語化するならそんな感じだろう。

 

「貴様……」


「はっきり申し上げて、俺の聞いた限り、そして、こうして面と向かい合った限りでは、あなたのことが信用に値するとは思えません。雨の中へ飛び出していった茉莉さんに対して心配するそぶりも見せず、高圧的で、他人の話を聞く気がない。茉莉さんのようなあなたとの付き合いがあるわけではありませんから客観的な事実からの判断にしかなりませんが、俺のあなたに対する印象というのはそんなところです。そんな相手を信じることなど、どうしてできるでしょうか」


 血が繋がっていないから信用できないとか、そんなことじゃない。

 

「ほかにも、茉莉さんからは、以前から愉快ではない視線を受けていたという話も聞いています。あなたにそのつもりがあったのかどうかはともかく――今回のことを考えるに、間違いなく疚しい気持ちがあったのでしょうが――茉莉さんはそう感じていた、ということです」


 それが誤解なのかどうかは関係ない。

 そして、今回、実際に手を出されかけたということは、間違ってもいなかった、ということだろう。

 まあ、俺も男だから、白月につい視線が寄せられるのはわからないでもないわけだけど、それを言うと面倒になるし、この場で言う必要もないことだから、黙っておく。


「たしかに、茉莉さんの話だけで判断するのは早計なのかもしれません。なにか、記憶装置による記録――物的証拠が残っているわけでもありませんし、他に目撃者がいるわけでもなく、当事者の狂言という可能性を、専門家でもなんでもない俺には排除することはできませんから」

 

 白月のほうを振り返ったりはしない。

 白月のことを見放すような発言だけど、そういうつもりで言っているわけじゃないということは、わかるはず。いや、わかってほしいってくらいの願望かもしれない。

 

「それがわかっているなら――」


「ただ、それでも、俺は茉莉さんを信じると決めています。正直、今日の茉莉さんの様子は、いままで俺が接してきた茉莉さんとは大分違っていたので、戸惑うところもありましたが。それでも、こんな風に他人を貶めてやろうなどと考えるようなやつじゃないとはわかります。まあ、それも騙されているのだとしたら、仕方ないかもしれませんが」


 そんなことを言い出したらきりがないからな。

 ただ、この件で俺を――他人を騙しても、白月になにか得があるとは思えない。

 雨の中で濡れるのは風邪をひいたりするリスクが増えるだけだし、保護者ということになっている家族の庇護を抜けるのは、言うまでもないだろう。

 これも、今は偏見だとかって言われるのかもしれないけど、そもそも、思春期の女子がクラスメイトの男子相手に、身内から性的暴行を受けかけました、なんてことを、たとえ狂言でも、言えるものなのか? むしろ、狂言では言えないだろう。

 俺に話してくれただけでも、奇跡だと思う。


「ただ、茉莉さんがそうまでして俺を騙そうとする理由はわかりませんが」


 本当に想像もできない。なにか得が……そういう風に人を騙すのを娯楽として行っている? まあ、ありえないだろう。

 俺を味方につけておくとなにか良いことが? 自慢にもならないけど、そんなもの、まったく思いつかない。

 俺だってまだ高校生になったばかりの子供にすぎないけど、その程度の人を見る目はあるつもりだ。

 

「そもそも、信用という意味なら、今初めて会ったあなたのことを信用する理由のほうがありません」


 短いとはいえ、それでも、一か月程度の付き合いはある。今、初めて顔を見た相手とは比べる必要もない。

 

「あなたが茉莉さんを襲っていないということなら、その証拠を提示してください」


 やっていないことを証明しろなんて、悪魔の証明だが。

 だけど、そんなことにも白月の叔父は頭が回っていなかったようで。

 

「おまえのほうこそ――」


「こちらには、茉莉さんがいますからね。衣服だろうと、触れば指紋は残るんですよ」


 まとめると痴漢冤罪の話に似ているとは思うけど、実際には、雨にも濡れたし、洗濯乾燥したし、指紋どころか、垢一つ、残ってるはずはないけどな。

 とはいえ、濡れたままの衣服を洗濯しないで放っておく選択肢はなかったわけで。そもそも、雨に濡れている時点で、どうしようと大した差はないはず。 


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