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親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


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傷心につけこんだりはしない

 健康のためってことはあるにしても、そもそも、長距離走ってこと自体が敬遠されがちなイメージだし。たとえば、中学の体育祭の種目決めで、最後まで残ったりな。点数は高いんだけど。

 それはともかく。

 

「誘っておいてあれだけど、マジで大丈夫か? 早朝、学校で授業がある前だぞ? 授業中とかに眠くなる、戻ってきて倒れ込んでそのまま遅刻しそうになる、そもそも、早起きが大変とか、いろいろ、問題はあるぞ」


 慣れないうちは、俺に合わせるんじゃなく、近くの、せいぜい一キロ程度くらいのところを一周するとか、往復するとか、そんな程度にしておいたほうが良いんじゃないのか?

 途中とか、学校とかで倒れてたら、本末転倒だろ。

 

「いえ。これも自分のためですから」


 白月が決めたことなら、俺が反対する必要はないだろうけど……心配にはなる。


「しばらくは一緒に走るか」


 俺が普段走っているのを終えてから、白月と合流しにいって、それから、みたいな流れだ。

 多少、俺の走る距離が伸びたところで、そんなの、いままでも段階的にやってきてることだしな。具体的には、学年が切り替わったタイミングとかで。

 

「それは、私は詳しくありませんが、私に合わせてくれるということでは、真田くんのトレーニングにはならないのではありませんか? 私のためにと考えてくれているのは嬉しいですが、真田くんの邪魔をしたくはありません」


「いや、まあ、トレーニングの負荷のかけ方は、なにも、早く走るってだけじゃないから、それは気にしなくていいんだけど」

 

 それが一番わかりやすいことは間違いないとはいえ。

 たとえば、リュックに荷物を詰めて背負いながらとか、脚とか手首とかに重りをつけて走るとか、やりようはいくらもある。

 まあ、少し間違えると身体を壊す要因にもなりかねないから、難しいところなんだけどな。

 

「俺のことはともかく、白月は、自分より少し速いやつと一緒に走ったほうが、トレーニングになりやすいんじゃないか?」


 ペースメーカーじゃなく、追いかける目標として。

 

「なぜ、私のほうが遅いという前提で話が進んでいるのでしょうか」


「いや、持久走って、もろに日頃の成果が反映されるからな」


 短距離走なら、瞬発力ってことで、そもそも、距離的にも、数秒程度の差がせいぜいだろ?

 でも、長距離走は、日頃から鍛えてるとか、慣れてるとかってことになると、分単位の差になってくるからな。俺に一日の長があるだろう。


「それに、実際、白月はあんまり、持久走得意じゃないだろ」


 体力テストでも、持久走の項目の上位勢に白月の名前はなかった。

 白月は、本当にうんざりしている、みたいな顔で。


「真田くんはご存知ではないかもしれませんが、運動部などでもなく、日頃運動に親しんでいない人にとっては、長距離走というのは本当にやりたくないことの一つなんですよ」


「それは俺でも同じだよ」


 自己鍛錬のために走るのと、授業で強制されて走るのとじゃあ、やっぱり、気の持ちようが違うからな。 

 まあ、普段運動してないやつが、長距離を走らなくちゃならない、時間がかかる、疲れる、そんな運動を回避したいっていうのはわかるけど。

 もっとも、たとえば、体育の授業にある科目ってことだと、バスケでも、サッカーでも、長距離は知らなくちゃいけないのは変わらないんだけおd、そこは、まあ、授業内の短い時間だし、ただ走るだけじゃなくて、ボールを手で扱ったり、蹴ったりするっていう別の行動が挟まることで、ただ、同じことをずっと続けるっていうよりは、気持ち的に楽なのかもしれないとは思うけど。

 それに、これは、あんまり指摘することじゃないかもしれないけど、とくに、サッカーなんかの人数の多くなる競技になると、適度に手を抜く――さぼっているやつも出てくるしな。

 そして、それは、長距離走が苦手だろうって問いかけに対する否定にはなっていない。

 

「誰にだって、始まりはあるんだから、これから慣れ親しめるようにしていけばいいだろ。一人で始めるのは大変かもしれないけど、俺でも、あとは、爽司とか、透花でも、声をかければ、喜びこそすれ、嫌な顔されるようなことはないと思うぞ」


 思うとは言ったけど、まず、断られることはない。それこそ、試合や試験の前後、あるいは、当日なんてことでもない限りはな。

 新年度の初頭って言うには少し時間が経ってるけど、べつに、自己鍛練なんて、始める時間に決まりはないからな。もちろん、新しい部活を始めるとかってことなら、早いほうが良いんだろうけど、そんなことは気にするようなことじゃない――そもそも、走り込みってことだけなら、陸上部ってものもある――し。

 べつに、部活に所属してチームメイトとも連携を、みたいなことじゃなくて、あくまで、自分の体力作りのためのものだからな。

 

「護身術教えるときにも言ったよな? 本当に護身するなら、逃げ出すのが一番だって。常に周囲に気を配ってろとは言わないけど」


 相手をいち早く発見して、距離の開いているうちに走って逃げだす。

 そのときに、足の速さと、持久力が物を言うわけだな。

 白月は、自身の見た目のこともあって、視線にはある意味鈍感である意味鋭敏(つまり、気づいてはいるけど、悪意と善意に振り分けたりすることには気にしてないってことで)だから、心配なんだよな。

 

「デートに誘いたいのでしたら、最初からそう声をかけてくれればいいのに」


 白月は、少し悪戯めかせた調子で人差し指を立ててみせる。

 

「はっ。べつに、デートに誘いたいわけじゃないから安心しろ」

 

 ナンパじゃないと言っているのに、白月はわずかにふくれっ面を晒す。

 ナンパされないとわかったら、安心するもんなんじゃないのか? いや、女子の心理状態なんてわかるはずもないんだけど。誘われなかったら誘われなかったで、自尊心とか、そういうものが傷つくとか? まったく知り合いじゃないやつからのナンパと、クラスメイト相手とじゃあ、心情も違うだろうし。

 組手で向かい合ってる相手がどんなことをしたいのかを判断しようっていうことじゃないんだろうからな。 

 それも経験に基づく予測とかが根底にあるわけで、つまり、女子に付き合った経験のない俺には、サンプルが少なすぎて判断できない。

 昔の透花とか……透花もなあ、あんまり怒らせたこともないんだよなあ。


「……ていうか、デートに誘いたいって声をかけたら、誘われてくれるのか?」


 あくまでも、興味本位で聞いてみた。

 

「まったく知らない相手からのナンパということと、ただのクラスメイトという以上には親しい相手からとでは、対応は違うに決まっています」


「それは、了承してるってことでいいのか?」


 白月は瞬きを繰り返して。


「気になりますか?」


「……いや、べつに」


 女子とデートとか、なにしたらいいのかもわからないしな。さすがに、道場で乱取りじゃあまずいだろうってことはわかるけど。

 それに、今の流れだと白月を誘うことになってたし。いくら、女心とかに詳しくない俺でも、そんな命知らずじゃあないつもりだ。


「それに、男から逃げ出してきた相手をデートに誘うとか、そんな傷心につけこむような真似はできないだろ」


 ましてや、襲われかけたとかって直後だぞ。

 こうして、近くにいるだけでもかなり気を晴らせているだろうに。白月が口ではなんと言おうと、若干、視線がずれていたり、身体が硬くなり気味だったり、距離を置こうとしている(もちろん、露骨に見せるようなはしてないけど)ってことは、これだけ近くで接していれば、察する。

 武術だって、相手との間合いを測り合うからな。

 


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