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親友が好きだと言っていた女子に告白された  作者: 白髪銀髪


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ずぶ濡れの白月

 武術はべつに、陸上競技じゃない。むしろ、柔道なんかを想像するなら、屋内競技だと考える人が大半だろう。

 とはいえ、まあ、これは俺の場合ってことかもしれないけど、雨の日だろうと、鍛練が休みになることはない。遠くからとか、通ってきているやつらは、休むこともあるけど、うちは道場とは敷地内の距離だからな。

 もちろん、俺は屋内での鍛練だけじゃなく、ロードワークもこなす。

 サッカーとか、野球とか(いや、野球は雨天順延になることも多いのか?)、雨の日でも屋外での試合があるようなスポーツ人は、雨の日でのグラウンドにも慣れておく、みたいな感じで練習することがあるのかもしれない。もちろん、グラウンドへの影響を考えて休みにするって考え方もあるだろう。

 俺は大会なんかには出ないけど、武術は天候によって試合のあるなしが変わるわけじゃない。さすがに、台風で他の相手が外出すらままならないみたいな状況なら、話は変わってくるだろうけど。

 なにが言いたいのかって言えば、多少の雨程度なら、ウィンドブレイカー的なものに身を包んで外に走りに行くくらいはするってことだな。

 たしかに、そろそろ夏も近付いていて、全身長袖のジャージ姿だと暑いってことはあるけど、雨が降っていれば、気温とかはあんまり気にならない(暑いってほうに関しては)からな。

 そんな理由で、小雨の中、ロードワークに出かけたところ、帰りかけたところで雨が本格的に降り始めてきた。

 

「天気予報的には、長くはかからないはずだったと思ったけどな……」


 とはいえ、まだ、家までには距離があり、このまま帰ると確実にずぶ濡れ以上になるだろうし、俺は少し、コンビニの軒下で雨宿りをさせてもらうことにした。

 さすがに、ロードワークに出るのに、財布を持ってきてはいない(もちろん、靴底に千円札を忍ばせていたりもしない)から、コンビニで傘を買ったりすることはできない。

 スマホでも持っていれば、これが通り雨なのかどうかが確認できたし、そもそも、家にでも連絡が入れられたけど、それもない。一応、小降りになってくれれば、ジャージがある程度は弾いてくれるだろうからその隙に、とは考えてるけど。 

 なんて考えているうちに、雨はその激しさを増した。

 遠くの空を見るに晴れているから、多分、通り雨だろうと思うけど、通り雨っていうのは、えてして激しいものだからな。

 さすがに、いつまでもこうしているわけにはいかないし、そもそも、雨の中、走りにくい道でも走るっていうのも鍛錬の一環だし、と心を決めて走り出そうとしたところ、さっきよりは少しだけとはいえ、見通しのよくなってきた前方に、見覚えのある人影が確認できた。

 弱まってきているとはいえ、雨の中だし、そもそも、今ここにいるってことは激しい雨の中を外に出ていたってこともあるわけで、ずぶ濡れになっているそいつを見なかったことにはできなかった。


「……こんな雨の中で傘も持たずになにやってんだ、白月」


「……それは、今の真田くんに言われたくはありませんが」


 それはそのとおりかもしれないけど。

 けど、うちのほうが、白月の家よりここからの距離を考えれば近いだろ。ここから白月の家までのことを考えたなら、一キロじゃきかないはずだしな。そういう問題じゃないってことなら、まあ、お互い様だとしか。 


「俺は走り込みの途中だったんだよ。買い物だとかなんだとかってことで出かけるならともかく、ロードワークに傘を持って出かけるやつはいないだろ」


「それを言うなら――」


 このままだと、また言い負かされそうになるだろうことはわかったから、俺は白月の言葉を遮り。


「とにかく、少なくとも、知り合いって以上のクラスメイトをそんな格好で見かけた以上、放ってはおけないだろ」


 なんで白月が傘を持っていないのかはわからない。

 復習も、予習もきちんとこなすやつだから、天気予報くらい、あるいは、空模様をしっかり把握するくらい、俺よりもしっかり調べてから出かけそうなものだけど。そもそも、俺は、多少の雨程度なら気にしないでいるつもりだったから、比べるようなことでもないとは思うけど。

 傘が壊れて買いに来たとか? いや、家に一本の傘がないなんて状況があると思えない。

 

「濡れてて悪いけど、これ羽織っておけ」


 俺は着ていたジャージを脱いで渡す。

 もちろん、それも濡れていることには変わりないけど、さすがに、半袖にカーディガンだったか? そんな格好よりはいくらかましだろう。

 それに、白月は女子だし。


「それで、とりあえず、家に帰るつもりがないなら、うちに寄ってけ」


 白月が家に帰るつもりがないだろうことは見て取れる。

 普通、雨が降り始めて、傘もなかったら、走って、どこか屋根あるところに向かうとか、近ければ家に引き返そうとかするだろうからな。

 それをせず、方向だけを考えれば、むしろ、家から遠ざかろうとしていた白月に、家に帰るつもりがないことは明白に思えた。

 

「ずぶ濡れの女子を連れ込んで丸め込もうとかって考えてるわけじゃないからな。ただ、こうして顔を合わせた以上、そのまま風邪でもひかれたら夢見が悪いってだけだ」


「……私はまだなにも言っていませんけど」


 とにかく、雨のせいってことだけじゃなく、なにやら足取りの重そうな白月の手を引いて歩く。

 俺には、女子の心の機微なんてものはわからない。けど、そのときの白月は、なんというか、雨でびしょ濡れである以上に濡れているような気がして、放っておけなかった。

 まあ、そんなことは関係なく、知り合いが雨の中でびしょ濡れでいたら、声をかけないはずはないけど。知り合いじゃなかったら……状況とかによるかな。

 とにかく、今は白月が相手なんだから、他のことを考える必要はない。


「うるせえ。黙ってついてこい」


 そうして、俺は白月の手を引いて、さすがに走ったりはできなかったし、抱えたりしても、余計に遅くなることはわかりきっていたから、家まで歩いた。

 白月は、言葉とは裏腹に俺のジャージを払いのけもしなかったし、手を振りほどいたりもせず、大人しく、手を引かれるままにうちまでついてきて。


「ただいま」


「お帰りなさい、朔仁くん。雨は……その子はどうかしたの?」


 玄関で待ち構えていた母さんは、ロードワークに出ていた俺が、一人じゃなく、しかも、女子を連れて帰ってきたことにたいそう驚いていて。

 それはそうだろうな。

 

「こいつは、まあ、こんな格好だからわからないかもしれないけど、同じクラスの白月。この前、連れてきただろう」


 家で勉強会を開いたとき、母さんと白月は顔を合わせて挨拶くらいはしていた。本当に、その程度だけど。

 

「まあ」


 母さんは目をほんのわずかに見開いて。


「お風呂は、一応沸かしてあるけど、白月さん、だったかしら。良ければ温まっていってね」


「いえ。お心遣いには感謝いたしますが、そこまでご迷惑をおかけするわけには」


 白月がそう遠慮するだろうことは、さすがに俺でもわかったから。


「いや。ここまで連れてきておいて、そのままってこともねえだろ。風邪とか引かれても困るしな」


 白月を風呂場まで案内して。


「見ればわかるかもしれないけど、これが洗濯機。乾燥機まで一緒になってるから、スイッチ入れて放っておけば、そのまま乾かしておいてくれるから、着られるようになると思う。そこの棚にはタオル類が入ってるから、使ってくれ。ドライヤーも、俺のじゃないけど。いいか? 後につかえてる俺に遠慮して、下手に温まらないで出てきたりするなよ? 俺は庭のホースでもなんとかなる」


「一緒に入りますか? 真田くんのお家ですし」


 冗談を言うだけの元気は取り戻したみたいだな。

 俺は白月に任せて、さっさと浴室から出た。まあ、一応、タオルだけは一枚、回収しておいたけど。



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