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こんな風に試験前以外に勉強会を開くっていうのは、新しいことだ

 同じバスケ部員である透花が観戦、あるいは応援に行くのは当然のこととしても、部員じゃなく、透花が試合に出るわけでもない(もしくは、他にもそこまで親しい相手がいるわけじゃない)俺たちが試合を見に行く理由もとくにない。学校全体で盛り上がって、全校生徒で応援に行こう、なんて話もないしな。

 中学くらいだと、たとえば、会場となるのが自校の場合、近いし、休みで暇なら、くらいのノリで行くことも考えられるけど、電車とか、バスとかまで利用して行くほどに遠いと、さすがにな。

 それでも一応、日程は知っているわけで、当日の朝に頑張れよって応援のメッセージだけは送っておく。本人が試合に出るわけじゃないらしいから、その応援は微妙かもしれないけど。

 予想どおりっつうか、丁寧なことに、私が出るわけではありませんがありがとうございます、って返事はあった。

 もちろん、終わってから誘うってこともありかもしれないけど。試合に出ないってことなら、疲れているとかっていっても、移動と応援の分だけだろうし。 

 なんにしても、今はまだ、気の早い話だろうけど。

 それに、試合時間だとか、試合数がどうなのかとか、トーナメント、グループリーグ、そんなことも情報も一切なしに、ただ誘うっていうのもあれだしな。もし、勝てば一日に二試合くらいする、みたいな日程のときに、終わったら来いよ、なんて誘うのは、早期の負けを想定しているみたいで、誘うほうもそうだけど、返事をするほうが気を遣うだろう。一応、練習試合とかじゃなく、公式戦ではあるみたいだし、春で引退する部員にとっては、最後の大会みたいな思いもあるかもしれないし。

 だから、透花へのメッセージはそのくらいにしておく。

 

「よし」


 気を取り直して、勉強する準備を整えて、意識を切り替える。

 俺にできるのは、見に行ってもいない、顔見知りが出ているわけでもない、バスケ部の応援じゃなく、目の前の教科書とノート、参考書に集中することだ。

 白月のことを考えると、あながち、的外れとも言い難いってところはあるんだけど、こんな時間から不審者に狙われるなんてこともないだろう。それに、このあたりじゃあ、それなりにうちの道場は有名だし、帰りならともかく、こっちに向かっている方向だってわかれば、相手も敬遠するとかってことも考えられなくもないしな。

 

「おはようございます、真田くん」


 そうして、問題集と格闘してしばらく、白月がやってきた。

 ちなみに、予定では、爽司ともども、午後から来ることになっていたはずだ。そのために、今日の稽古は午前中にしたわけだし。

 それにしても、だいぶ早くはある。まだ、昼飯の時間なんかを考えると、午後に入ったばっかりとも言えるし。


「おはよう、白月。大分早いな」


 もちろん、迷惑なんてことじゃない。俺だって、飯は済ませているし、午前の鍛練が終わってからは、当然、シャワーで汗も流し終えている。

 

「飯は済ませてきたのか?」


「はい。お邪魔します」


 白月はそのまま、この間と同じように、机の角を挟んで、俺の隣に座る。

 

「宿題をしていたんですか?」


 白月は俺の開いている教科書のページを見て、それから、ノートへと視線をちらりと向ける。

 

「ああ。まあ、な」


 鳳凛高校じゃあ、宿題、課題自体は少ない。まあ、ほかの高校のことを知っているわけじゃないから、相対的なものじゃなく、俺自身で多くはないと感じてるって意味にはなるけど。

 ただし、授業はハイペースだし、自然と、予習復習をしないとついていけなくなる程度のことにはなる。

 教科書だって、たとえば、現代文や古文に関しては、教科書に載っていない文章を扱ったりもするからな。ただ教科書を読んでいればいいってことにもならない。

 

「しかし、中学に上がったときに思ったのとは、比べ物にもならないな」


 そもそも、教科数自体が違うし。

 たとえば、国語が現代文と古文に分かれていることから、数学、理科、英語に関しても、それぞれ、より専門性の高いと言ったらいいのか、内容によって、教科が分けられている。

 試験科目自体が細分化されているって言ったらいいのか? 

 今のところ、社会科相当の科目だけは一科目だっていうのは、ありがたいけどな。

 中学生になったときにも、そもそも、定期試験という存在自体に、知ってはいても驚いていたわけだけど。

 しかし、高校になって勉強しなくちゃならないことは、その比ではなく、内容自体も段違いと言えるほどに難しくなっている。

 

「初めての定期試験ということになりますからね。出題の傾向を知ることができれば、いくらかましにはなると思いますが。暗記を主体とするのか、それとも、授業に即した内容なのか、あるいは、受験での試験を意識したような問題になるのか。とりあえず、今回は授業の内容をそのとおりに復習しておくのが丸いとは思いますが」


 白月の言っていることは、わからないこともない。

 授業の内容っていうことは、つまり、学習指導要領に即しているってことで、受験を意識していると言えなくもないはずだからな。

 

「白月はノートの取り方も綺麗だな。いや、文字が綺麗ってことじゃなくて。もちろん、それもあるけど」


 なんていうか、板書そのまま、みたいな感じじゃなく、教師が話したことを自分なりにまとめている感じがすごいというか。

 多分、白月にとっては今の授業内容自体に苦がなく、余裕があるってことなんだろう。

 俺なんて、ノートの取り方を気にするとか以前に、話を聞いて、手を動かすのに精一杯だからな。当然、ノートも板書そのままで、自分で考えてまとめる、なんて余裕はない。


「それは、日々の復習を心掛けるしかありませんね。毎日、帰宅してから復習の時間を設けて、ノートをまとめ直すなどといったことです」


「それができればいいんだろうってことはわかってるんだけどな」


 まあ、家が近いっていうのは、アドバンテージだろうけど。

 それでも、学校の授業自体が俺にとってハイレベルで、せいぜい、ついて行くだけで頭がパンクしそうになるだろ?

 それで、頭を完全に使い切って帰ってきてから、今度は鍛錬のほうで、体力のほうを酷使するだろ?

 そうなってくると、終わって、飯と風呂を済ませたころには、気力やらなにやらが、尽きかけているんだよ。それで、せいぜい、寝る前ストレッチだけを済ませてベッドに入るとすぐに瞼が落ちてくるって寸法だ。

 

「それも、慣れだとしか言えません。真田くんが日々こなしている武術の稽古も、その大変さを私がはっきりとうかがい知ることはできませんが、始めたてのころは大変だったはずですよね? 勉強、つまり、頭を使うのもそれと同じですよ」


「わかってるよ。さすがに、体力任せだけでどうにかできるようなことじゃないっていうのは、なんとなく、察してきてたところだったしな」

 

 やっぱり、中学とは違う。 

 

「まあ、今すぐに慣れる必要もありません。受験ももう二年後とは言いますが、まだ二年あるとも言えるわけですから」


「そうだな。白月さえよければ――」


 提案しようとしたところで、爽司が到着したらしい。何回も同じ提案をするのも面倒だし、爽司が合流してからにするか。

 

「少し遅れたか?」


「いや、今始めたところだ」


 爽司は俺の正面に腰を下ろす。


「マジで勉強してるじゃん」


「あたりまえだろ。なんのために来てもらってると思ってるんだよ」


 本来なら、教わる側の俺たちが白月のところを訪ねるべきなのを、女子のところに邪魔するよりはってことで、わざわざ、来てもらってるんだからな。

 白月は気にしていないと言ってくれてはいるけど。

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