連休? について思うところ
「どうせなら中日も休みにしてくれればいいのにな」
爽司がそんな、高校生だけに留まらず、おそらくは、全国の学生が思っているような感想をぼやいたのは、当然、五月の頭の話だ。
日曜日の振り替え休日で、月曜日が祝日にはなっていたものの、火曜日、そして水曜日に学校があり、そこからまた、日曜日まで休みというとびとびの休みになっていることに対す不満だ。
「そんなことしてたら、一週間まるまる休みってことになるだろ」
俺だって、祝日が嫌いなわけはなく、学校が休みになるってことなら、むしろ歓迎したいところだけど、そういう場合って、大抵、夏休み期間に割り込んでまで振替で授業が行われるとか、そんな事態になりかねないから。
「それとも、なにかやろうとしてることでもあるのか?」
ちなみに、うちじゃあ、そういった長期休暇が話題に上がることは少ない。
両親の実家ってことでも、せいぜい、車で一、二時間ってところだし、休みになると、短期ってことでも、道場に通いたいって希望が出されるようなこともあって、あまり暇がないってこともある。
その代わり、たまに、山籠もりとかって、ふらっといなくなったりすることはあるけど。
「いや、途中で学校に行かなくちゃならない、授業があるとかって考えると、なんか、合間に遊びに行こうって気にならなくないか?」
そういうもんか? そもそも、俺は積極的に遊びに誘ったり、まあ、誘われるタイプでもないし、その辺りの事情はよくわからない。
そもそも。
「遊び行くって話はともかく、俺にわかるのは、連休が終わって間も置かずに中間試験があるってことだよ。赤点とか、追試が嫌なら、勉強したほうがいいんじゃねえのか?」
まあ、期末試験と違って、中間試験前は部活が休みにならないらしいし、もちろん、道場も休みにはならないけど。
もっとも、道場は部活と違って、ある程度、自分で日程も調整できるから、そこまで困りはしないだろう。実際、中学のときもそうだったし、他校のやつらもそうしている。
「せっかく、白月と透花に教えてもらってるのに、赤点なんて取れないだろ」
「それはそうだけど。試験なんて思い出させるなよな」
爽司はうんざりって顔をするけど、むしろ、ずっと意識していられるんだから、感謝してほしいところだ。
「今回は長期とは言いませんが、中長期休暇というのは、勉強するのには丁度いい期間だと思いますよ」
白月はなんでもない、普段と変わらない口調だが、そこからすでに俺たちとは違っているよな。
「茉莉ちゃんはいつもそう思ってそうですね」
「透花さんも、試験ということ自体を気にしているようには見えませんが」
女子二人のほうは、そこまで、試験を苦と思うような性格でもないようで、学力とか、成績自体は、個人の努力の結晶だから、羨ましいとか、そういう気持ちは少ししかない。
「はあー。そもそも、休みに対する発想で最初に浮かぶのが勉強ってことがすでにすごいよな」
爽司がわりと本気で感心している風に褒める。
俺だって、休みっていうことで思い浮かべることといえば、集中して鍛練する時間が取れるとか、学校に行かなくても済むとか、そっち側の思考が大きいからな。
それとも、勉強が面白いとか、楽しいとか、そういう風に思えるようになれば、変わっていくってことなのか? まあ、白月自身は、勉強自体が好きなわけじゃないとかって言ってたけど。
「あ、でも、もしかして、一日、試験勉強で一緒にいられる時間が作れるってことなのか?」
そういう感じで、すぐに切り替えられるのは、爽司の――あんまり表立って褒めたくはないけど――いいところなんだろうな。
「一日は無理だろ。透花は連休だって言っても、バスケ部の活動はあるんだろ?」
俺たち四人のうち、部活に所属している(あるいは、したことがあると言ってもいいかもしれないけど)のは透花だけだから、詳しいところはわからないけど、たしか、中学のときには部活だって言ってた気がする。
「はい。ちょうど、中間試験と被るような感じで大会がありますから。いえ、正確には、一週間ずれてはいるんですけど」
それは、大変だろうな。
当事者じゃないから、他人事みたいな感想になるのは勘弁してほしいところだけど、とくに、高校生ともなると、三年生は春で部活を引退する人も多いみたいだし。
まあ、一年生である透花に出番のある大会じゃないとは思うけど、部活があるなら参加しなくちゃならないはずだしな。
「それって、学校のほうで試験の日程とかをずらしてくれないのか? いや、全部の部活に丁度よく試験日程を決めるっていうのが無理な以上、どこかは被ることになっても、仕方ないことなのか」
「ただ、三年生が主体の大会ですから、一年生の私の出番はありませんけれど。ユニフォームももらっていませんから」
基本的には三年生が、あったとしても、二年生までなんだろう。あるいは、すでに、ベンチ入りまでのメンバーってことなら、通達されているのかもしれない。
透花は真面目な性格で、もちろん、部活も真剣に取り組んでいるから、中学のときには、同学年内ではレギュラーを取っていた。
ただし、もちろんそれは上級生が引退してからの話で、一年、それも、春からベンチ入りできるとか、そこまでのものではないようだ。
まあ、バスケの大会に登録できる人数が何人なのかなんてことはわからないけど、試合に出られるのが――一度にコートに立つことができるのが五人までだってことくらいは知っている。
そう考えると、一年生である透花が出るには、相当の実力が必要になりそうだが。
俺は、部活をやっているわけじゃないからはっきりとは理解できないけど、多分、中学とか、高校とか、学校自体が変わるタイミングでの上級生って、段違いみたいな印象だからな。
もちろん、小学生からの上がりたてだろうと、中学生からの上がりたてだろうと、うまいやつはうまいっていうのは、どんなスポーツ(に限らないかもしれないけど)に対しても言えることなんだろうけど。
「それでも応援には行くんですね。それは大変ですね」
白月も感心してる様子だった。
俺――あるいは、うちの道場に通っているよなやつは、個人はどうか知らないけど、少なくとも道場としてどこかの大会に申し込んで、なんてことはしない。
もちろん、個人で出たときに、どこそこの道場ですっていうことを公表することを止めたりもしていないけどな。
そもそも、俺は大会みたいなものに出たことはないし、修行の時間だって、試験前とか、個人で調整できたりもする。実家であることもそうだけど、個人的な習い事っていう話だから、時間の調整は部活とは比べ物にならないくらいに楽だ。
まあ、それでも、透花に定期試験の成績で勝った試しはなく、逆にいつも教えられる側だっていうんだから、情けないというか。透花が優秀だっていうのは、それはそのとおりなんだけど。
「試験前に焦っても仕方ないですし、先輩の、上手な人のプレーを見るのは参考になるので」
それも、普段一緒に練習していない、他校の選手ってことになると、さらにってことか。
あるいは、自分たちの立場だったとき(つまり、中学三年とかでレギュラーだった際のことだけど)に、応援で力がもらえたとか、そういう話なのかもしれないか。
もちろん、自身の練習の成果ってことは間違いないんだろうけど、次の選手はサポーターみたいな話だったり、ホームアンドアウェーっていう方式が採用されてるスポーツのことからもわかるとおり、応援の力っていうのは、確かにあるのかもしれない。