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家での自習にやる気が出る方策

「勉強って、こんなにさくさく進むものだったっけ?」


 爽司が首を捻る。

 すでに、揃って机に向かい始めてから二時間以上は経過しているけど、まったく疲れるとか、飽きるとかなんてことはない。

 普段は、課題なんてものはさっさと終わらせて早いところ横になりたいとかって考えるものだけど、今日に限っては時間を忘れるくらいに集中できている。いや、集中できているってことすら認識していなくて、気がついたら時間が経っていたって感じだった。

 武術の稽古のときにも時間を忘れることはよくあるけど、あっちは、気にしてる余裕もないって感じだから、少し違うだろう。

 

「教師が優秀だからだろ」


 白月も、透花も、二人とも。

 優秀な生徒が優秀な教師になれるわけではなく、その逆もまた然り、なんてよく言われるけど、この二人には当てはまらないみたいだな。もっとも、透花のほうは知ってたけど。

 決して、学校の教師が優秀じゃないと言っているわけじゃなく、そっちに関しては、この短期間で犯dなんで着るほどのものじゃなく、こうして、個人指導してもらっているわけではないから判断できないだけだろう。

 それにつけても、二人が優秀なのは間違いないわけだけど。

 

「少し休憩にしましょうか。適度に頭を休めることも必要ですし。もちろん、休んでばかりだとか、休みすぎていても問題ですが」


 白月がペンを置いたので、俺たちも習い、俺と爽司はそのまま仰向けに倒れ込んだ。

 頭が熱を持っているように感じられるとか、視界がくらくらするとか、まあ、勘違いとか、錯覚の類なのかもしれないけど。

 体力的、肉体的には全然疲れてないけど、頭のほうはな。人間、一番弱いところ、普段使っていないところにくるっていうのは、本当らしい。

 道場で武術の鍛練をしているときには、この程度の時間続けていても、なんでもないと思っているんだけど。

 もちろん、武術の修行中に頭を使ってないとか、そういうつもりでのことでもない。

 冗談はともかく。

 

「そういう白月はあんまり疲れてなさそうだな」


 もちろん、透花も。

 

「慣れだと思います。真田くんも、七原さんも、普段からもう少し勉強をする、机に向かうようにする習慣をつけたほうが良いのではありませんか? 少なくとも、学生の間は必要になることだと思いますから」


「朔仁くんも、爽司くんも、体力はありますよね。ですから、えっと、頭を働かせる体力をつけるのが良いのではないかと。受験前の勉強ほど、毎日続けるのは大変だと思いますから、少しづつからということでも」


 たしかに、高校受験の前は、透花に世話になるのと同時に、体力にあかせて長時間机に向かっていたけど。所詮それまでで、慣れる、まではいかなかったな。

 

「慣れ、ねえ。勉強に慣れるって、どういう感覚なんだろうな」


 爽司が起き上がり、首と肩、腰を回したりとストレッチをするので、俺もそれに倣う。

 

「ようするに、習慣をつけるということです。感覚としては、実際に体感するより他にないとは思いますが、とはいえ、おふたりの都合もあるでしょうし、毎日、こうして勉強会を開くというわけにもいきませんから大変でしょうが、そこは、頑張っていただくよりほかにありません」


 今日は、たまたま、こうして都合を合わせられたけど、普段はそれぞれ、予定があるはずだからな。

 透花には部活があるし、俺と爽司も道場での修行があるわけで、それが終わってからの時間まで、白月を待たせるとか、そんな時間から家を訪ねるとか、そんなことはできないしな。

 答えを自動で筆記するコンピューターを内蔵したペンのような便利なものは存在しない以上、自力で時間をかけるしかない。わかってはいても、億劫なものは億劫であり、それができているなら、今、こうして苦労をしてはいないわけで。

 白月は少しだけ考え込むようなそぶりを見せ。

 

「うーん。毎日来るということも、やぶさかではありませんが、それより、簡単に済ませるには、わからない問題などにぶつかったとき、気軽に連絡をくれるというほうが良さそうですね。ビデオ通話にして、問題を映してもらえれば、それについてアドバイスができますから。ついでに、真田くんと七原さんがしっかり机に向かわれているかの確認にもなります」


 それを聞いた爽司が喜びを滲ませて白月のほうを向き。


「マジで? 毎日、白月と電話していいってことか? すげえやる気出てきた」


 単純だな。

 もちろん、やる気に繋がるなら、多少、動機が不純に見えてもかまわないかもしれない。言っても、所詮、テレビ電話ってだけだし。

 爽司が浮かれていて、こっちに注意していない様子なところを見計らい、透花にもアイコンタクトを取ってみる。

 

「それなら、私もできる限り、力になりますよ、爽司くん、朔仁くんも」


「透花もサンキュー。代わりにできることがあったらなんでも……俺にできることならできる限り手伝うからな」


 この前の白月とのやりとりに若干、被るところがあった気もするけど、幼馴染だし、そのあたりの思考回路が似るのかもしれない。

 

「実際、中学のころはスマホを持ってなかったから、家で勉強するのって大変だと思うところもあったんだよな」


 爽司がぼやく。

 まあ、通話料とかのことを考え出すと、気軽に電話するよりは、メッセージのほうがいいのかもしれないけど、勉強を見てもらうってことなら、いちいち打ち込むよりも、早さも、伝わりやすさも、段違いだからな。

 とはいえ、まあ、基本的には、解答解説があるから、それでもわからないときに、どうしてもって場合みたいに区切れば、そんなに気にしなくてもいい程度には収まるかもしれない。

 実際には、通話料、通信料がどうなっているのかわからないから、結果から確かめるしかないわけだし。

 

「持ってたら勉強してたのか?」


「ははっ。朔仁。自分に置き換えればわかるだろ?」


 そうだな。多分、スマホなんて持ってても変わらなかっただろうな。

 まあ、ようは、わからない問題で躓かない、立ち止まらなければ良いわけで、多少の気持ちの悪さがあっても翌日まで待って学校で白月に聞くとか、解答解説に頼るとか、手段はどうとでもなるんだけど。

 ただ、中学のころと比べれば、どう見ても、勉強内容は難しくなっているし、日々の勉強ってことじゃあ、多少、集中しきれていないとか、さぼり気味だなんてことだと、うちの学校のことを考えると、試験前の一夜漬けみたいなことじゃあ間に合わなくなるだろうっていうのは、明らかで。

 

「それで、確認したいんだけど、白月も、透花も、夜とかに電話しても良いのか? それも、テレビ通話とか」


「私はかまいませんよ。そもそも、提案したのは私のほうからですし」


 白月はすぐに頷く。


「私も、爽司くんとか、朔仁くんからなら、困らないから」


 透花も同じように了承してくれて。

 あとは、俺たちのやる気次第ってことか。


「しばらくは、私のほうから、机に向かっているのかどうか、確認の電話をしましょうか?」


 白月が冗談めかせて提案してくる。

 

「冗談。そこまで、手間をかけさせられないし、俺のほうから連絡したいな」


 爽司が笑顔で否定する。若干、軽さを感じるのは、多分、俺だけだろう。

 

「気にしないでください。一度引き受けた以上、最後まで責任は持ちますから」


 もちろん、勉強の話だろう。

 白月が、爽司の女性遍歴的なものを知っているのかどうかは知らないが、それを揶揄してのことではないと思う。そんなことをするくらいなら、直接言うだろうからな。

 

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