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教えるのがうまいやつは頭もいいんだろう

 勉強会は真田家でやることになった。

 もちろん、道場のほうじゃなく、居住スペースのあるほうだ。

 それでも、それなりには広い。そもそも、道場やらを建てるため、敷地がそれなりに広く、まあ、高級感なんてものからかけ離れた存在だとは思ってるけど、門下生数十人が合宿で寝泊まりをしても、十分、雑魚寝できるだけのスペースはある。もっとも、今までに合宿なんてしたことはないけどな。そんなことをするより、家まで帰ったほうが手っ取り早い。大抵、皆、近所だから。 

 爽司と透花は何度も来てるし、心配といえば、白月のことだったけど。


「真田くんのお宅はすぐにわかりましたよ。探すまでもありませんでした」


 ということらしい。

 

「もっとも、ここまで大きいとは思っていませんでしたが」


 門をくぐって、実際に敷地に足を踏み入れて、白月は驚いた様子で周囲に視線を彷徨わせる。

 

「こっちは道場のほうのスペースだからな。奥にあるのが、居住スペースだ」


 門を入ってすぐには道場があり、そちらが俺たちの稽古場になっている。一応、プライベートなスペースには踏み込むことのないようって配慮がされているらしい。

 居住スペースのほうは、普通の造りで二階建て家屋だ。当然だけど、道場に比べれば、慎ましい。

 一応、道場のほうにも、客人をもてなすだけのスペースはあるけど、それは、学校の友人みたいな相手を招くための場所じゃなく、公人としての道場主である師匠に用事がある場合に客が通される場所だ。

 

「武術に興味があるなら、いつでも案内するぞ」


「せっかくのお誘いですが」


 実際に道場を見てみれば気も変わるかと、ほんの少しだけ期待して誘ってはみたけど、白月の返事は変わらず。

 そんなに態度に出したわけでも、表情を変えたわけでもなかったはずだけど、あるいは、まさに、道場を開いているところのやつにかける言葉じゃないとでも思ったのか。

 

「いえ、その、興味がまったくそそられないということはありませんよ? 個人宅、といって良いのでしょうか、実際に置かれているところを初めてみるものもありますし」


 なにやら、フォローらしき言葉を口にする。

 まあ、鉄棒とか、巻き藁とか、サンドバッグとか、普通は個人宅に置いてあるようなものじゃないからな。道場のスペースがまるっきり個人宅と言っていいのかって言われると、多少は首を捻るところかもしれないけど。

 

「フォローしてくれなくても、べつにかまわねえよ。多分、男子にとっては好奇心を刺激されるところのあるものだろうと思ってるけど、大多数の女子にとって興味のないものだろうってことはわかってるから」


 それは、門下生の男女比にも如実に表れているからな。

 どちらかっていうと、トレーニング器具にっていうより、そもそも、武術に対して興味が薄いっていうことはあるんだろうな。

 もちろん、格闘技者に女性がいて、それをどうこう言うなんてつもりはないし、たとえば、オリンピックに出るような、柔道とか、レスリングだとかの選手に対する敬意もある。

 まあ、万が一、仮に白月が武術に興味を持って通い始めるようなことがあったとして、そんなものを使うのはしばらくしてからのことになるだろうけど。いきなりなんてやらせたら、絶対、怪我するから。

 

「狭い部屋だけど、勘弁してくれ」


 俺の部屋に透花以外の女子を招いたのは初めてだ。

 スポーツとか、それこそ、武術をやっていないような女子には、敬遠されるような部屋かもしれないけど。鉄アレイとか、ぶら下がり健康器とか、ハンドグリップとか置いてあるし。

 鉄アレイとか、ハンドグリップなんて、どこの男子の部屋にもあるだろうと思っていたんだが、爽司には、呆れ気味にそんなわけないだろって言われたしな。

 普段は置いてないけど、今日は、白月たちが来ること、勉強することがわかっていたから、少し大きめのちゃぶ台と座布団を持ち込んでいる。座椅子なんてものはうちにはない。

 

「狭くはありませんよ。私の部屋も同じようなものですから」


 そんな話をしつつ、さっそく、ノートと教科書を広げた。

 もともと、遊びに来たわけじゃなく、勉強をしにきた(教えてもらうために来てもらった)わけだしな。

 それに、道場以外だと、うちには、トランプくらいしか遊ぶものもないし。まあ、読書用の本はそれなりにあるけど。

 それはともかく。


「――ということです」


「なるほど。つうか、白月、教えるのうまいな」


 もちろん、まだ、入学したてで、範囲も少ないからっていうことはあるんだろうけど、教師の話よりはずっとわかりやすい。

 同じ生徒だってことも関係してるんだろうな。目線が同じだから。

 武術なんかだと、しっかりした師匠に教わるほうが絶対に良いし、教師だって、それこそ、教えるのがうまい人はいるんだろうけど。

 

「評価していただいていることは光栄ですが、まだ、簡単な範囲だからですよ……鳳凛高校の先生方の教え方があまり上手ではないということでしたら、私もそう思いますが」


「白月でもそう思うんだな。でも、今、こうして俺に教えてくれてるってことは、白月自身は理解できてるってことだろ?」


 鳳林高校の授業のスピード自体は、大分速いと思う。

 他の高校のこととか、学習指導要領なんかを熟知しているわけじゃないけど、教科書――一年生の分の教科書っていうのは、一年かけてそれを学ぶってことだろ? そのペースから逆算すると、倍とまでは言わずとも、どの教科も、冬休みあたりで一年生の分の内容はほぼすべて終わるようなペースだ。

 まあ、スピード云々より、教え方そのものに問題があると思うけど。それとも、あの高校に入るような生徒にはそのくらいで丁度いいとでも思ってんのかな。

 

「まあ、授業を聞いて、教科書を読んでいれば、わからないことはないと思いますが」


 白月の努力を知らないで、ひと言で言いたくはないけど、頭の良い人のそれなんだろうなとは思う。


「多分、武術でも同じだとは思いますが、結局、地道にこつこつ、繰り返すしかありませんから。たくさん問題を解いて、解説を読み込むことです。そして、また、問題を解く。それしかありません」


「わかってるよ」


 教えてくれる――わかりやすく教えてくれる同級生って以上に助かる存在もいないだろう。それにつけては、白月は最高の教師と言えた。この短い時間でもそれは十分に理解できたんだから、相当のものだろう。透花も教え方はうまいけど。

 インターホンの音が響いたので、立ち上がり、断りを入れる。


「多分、爽司か透花か、あるいは、両方だろう」


 爽司は、門下生として来るときには、わざわざインターホンなんて鳴らさないし、そもそも、修行の邪魔にならないようにってことで、道場のほうにはインターホンの音が響かないようになっている。

 その代わりと言ったらなんだけど、道場のほうは、門についている鉄の輪を打ち付ける仕組みになっている。

 

「よう、朔仁」


「おはようございます、朔仁くん。お邪魔します」


 思ったとおり、来たのは爽司と透花だった。

 距離的に同じくらいってこともでもないけど、近所には違いないから、途中で一緒になってもなにも不思議なことはない。まさか、待ち合わせしてくるなんてこともないだろうし。いや、待ち合わせするなら、それはそれで良かったなってところなんだけど。

 

「ああ。白月も今来たところだ」


 本当は、白月がうちに来るのは初めてだし、三人で待ち合わせでもしてくるかとは思っていたけどな。

 もっとも、白月自身、うちのことは知っていたらしいから、道案内の必要はなかったみたいだが。

 


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