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全員本命とかふざけてる(わけじゃないらしい)

 彼女なんていらないと思ってるわけでもない。ただ、優先度の問題で、どうしても、今一番にやりたいことが、彼女を作ることじゃないってだけで。

 

「そんなこと言ってるうちに、時期を逃すんだよなあ」


「うるせえよ。爽司がなにを知ってんだ」


 爽司だって、経験こそ多いかもしれないけど、長続きしたことないくせに。

 むしろ、そっちのほうがたちが悪いだろ。結婚しても、すぐに離婚するってことだぞ。そりゃあ、結婚と恋人(あるいは恋愛)は別物っていうなら、それはそうかもしれないけど。

 けど、どっちにしても、相手を大切にしろってことは変わらないだろ?

 もちろん、爽司的には、付き合った相手を一応(最初)は全員大切にするつもりなんだろうけど。つうか、そうじゃないなら、付き合うなって話だし。

 これは、俺が真面目すぎるって話じゃなく、それが、一般的な意見だとは思う。

 それはともかく。

 とりあえず、稽古の間は稽古に集中する。今さら、こんな話をしているくらいで、集中力が散漫になるわけじゃないけど、まあ、稽古中にするような話かって言われるとな。

 もっとも、普段、ふざけた調子ばっかりの爽司にとっては、じっくり話そうと、雑談気味に話そうと、大した差がないかもしれないけど。

 とりあえず、ひと休みまで待って。

 

「爽司こそ、いい加減、本命ってやつを決めたほうがいいんじゃないのか?」


「全員本命だよ。生物の生存戦略的に、多数の相手を持つのは普通のことなんだって」


 さらっと言いやがって。

 それを、不誠実とかって言うんだと思うけどな。というか、言い訳がむかつく。ふざけているようにしか聞こえない。

 まあ、爽司がそれで良くて、相手も同じように納得している、歓迎しているんなら、かまわないのかもしれないけど。 

 それに、多数といっても、同時に複数人とみたいなことはしてないらしいし。すくなくとも、俺が話を聞いている限りでは。

 なんて、ずっとそう思ってきているから、こんな風になってるのかもしれないけど、それは、俺にどうこう言えたことじゃないからな。一応、幼馴染としてとか、友人としてとか、忠告っつうか、提言はできるけど、爽司のことは、爽司が決めるしかないわけだし。

 それはそれとして。

 

「でも、爽司は透花には声をかけたことはないよな?」


 一番身近なんだから、真っ先に候補に挙がりそうなものだけど。

 爽司の態度はあっけらかんとしていて。


「いや、だって、透花はそういうのとは違うからな」


 そういうのとは違うって、じゃあ、どういうことなんだよ。

 少なくとも、悪感情ではなさそう……なんてことは、わざわざ確かめなくても、普段の二人の様子を見ていればわかることだけど。

 まあ、近すぎて、恋愛対象に考えたりしたこともない、って話ならわからないでもない。俺だって、爽司のことを抜きにしても、友達以上――恋人として見られるかと聞かれたら、透花は透花だから、としか答えられない。ようするに、幼馴染の女の子ってやつだ。

 もちろん、それは、俺とか、爽司から見てそういうことだろうっていう、憶測の話だけどな。透花のほうは、俺からは、いまさら、確かめるまでもない。

 もっとも、俺にだってこれだけわかるくらいなんだから、爽司が気づいていないはずはない、とも思っているけど。そこに、どんな意図があるのかってことは、うかがい知れない。

 もちろん、世の中には、幼馴染から恋人、そして夫婦になるなんて話は、創作の中だけじゃなく、実際にありえることだろうけど。

 

「違うって……いや、なんでもない」


 詳しく聞いてやろうと思ったけど、やめた。

 多分、爽司なりに気をかけているってことではあるんだろう。

 俺だって、二人の仲をかき回したいわけでも、積極的にくっつけようとかってことでもない。できれば、少しはそっちを向けばいい、納まるところに納まるならなお良い、とは思っているけど。

 人の気持ちなんて、他人に言われてどうこう動くようなものじゃないしな。結局、最終的には自分で決めるものだし。

 そもそも、十数年来の幼馴染の気持ちが、少し押されたからって変わるとも思えない。それともきっかけなんて、些細なものが必要なのか? それは俺にはわからないことだけど。

 まあ、この二人の様子をどっちも知っている身としては、透花のほうに肩入れしたくはなるわけだが。


「なんだ? また爽司に説教してるのか?」


「まあ、朔仁は一番身近で見てるって言っても過言じゃないからな。つっこみたくなるのはわかる」


「俺も、爽司がもてるのは納得いかないし」


 ほかの門下生たち(主に男子)が、いつの間にやら近くに来ていて、頷いたりしている。


「いや、私たちは爽司と付き合おうとか、思ったことないよ」


「爽司に限らず、ここに来ているあんたたちとはってことだけど」


「勘違いしないでね。べつに、格闘技者全般を避けてるとか、そういうことじゃないからね」


 その男たちの視線を受けて、数少ない女子たちが容赦なく切り捨てる。

 

「まあ、爽司が一応はもてる理由は、わからないではないけどね。私は御免だけど」


「一時の恋人としてはね。結婚するとかってことにまでなると、遠慮したいけど。それか、態度をあらためてっていうか、そもそも、そういう対象には見たことないっていうか」


「ねえ。だって、爽司はあれだからねぇ」


 まあ、透花のことは道場のやつらなら誰でも知っているからな。もちろん、それをわざわざ突っつくこともあれば、ため息ついたり、肩を竦めてみせたり、あるいは、放置することだって、どれもある。

 とはいえ、遠回しだろうとなんだろうと、二人に早くくっつけと思っているだろうことは事実だろう。

 俺は知らないけど多分、女子たちは透花とも親交があるみたいだし。

 稽古中は、学年、年齢、性別、家柄、なんかにはまったくこだわらない。一応、こだわるとしたら、多少、経験をもとにする程度か? 

 だから、男子と女子が組むなんてことも普通にある。


「なんで、いまさら爽司の話になってるわけ?」


 それで、一対一で稽古が始まってからも、誰からも、聞かれるわけだが。

 俺としては、稽古が始まったならそっちに集中しろと思わないでもないけど、顔つきとか、動きとかは真剣そのもので、キレもあるから、指摘はしない。

 真面目な試合中なら、雑談を仕掛けるみたいなのは注意されるかもしれないけど、話していたほうが集中できるってことなら、それでかまわないわけだし。なにも、うちの道場では門下生全員が同じ大会に出るとか、そんなことはない。そもそも、大会に出ようとするやつが稀だし。


「いまさらっていうか、まあ、いつものことだ」


 そう言えば、ああ、と皆納得した顔で引き下がった。

 いつものこと(つまり、爽司に好きな人ができたとかそういう話)って言うだけで、さらっと理解されるのもどうかと思うけど。

 

「ふーん。それで、今度はどのくらい続きそうなの? 一週間くらいは大丈夫そう?」


 もはや、気にもされずに、最初からそんな感じで別れることを前提みたいに言われることに多少、同情することも……ないな。全部、爽司が悪い。


「え? まだ、告白もしてないの? 爽司のくせに?」


「本気ってこと? へー、そうなんだー、頑張ってねー」


 細かい反応は違うかもしれないけど、誰も、実に投げやりな態度だってところは変わりない。もちろん、同情する気はないし、俺だって、ほとんど同じ気持ちだが。

 そもそも、女子なら誰しも恋バナに興味があるなんていうこともないだろう。

 


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