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白月茉莉について知っていること

 仮に、白月を狙おうってやつが、他の鳳凛高校生と見間違えるようなことはないだろう。 

 学外とまでになると言い切れないけど、すくなくとも、学生で、こんなに目立つ外見をしているやつはうちの高校にはいないからな。

 俺の身長と比べて、百六十後半くらいはありそうな身長もそうだけど、それよりも、真っ白な髪と真っ赤な瞳だ。

 染めているわけでもなく、ハーフとかってことでもなく、もちろん、若白髪みたいな話でもない……らしい。いや、俺だって、詳しい話は知らないからな。

 ともかく、白月のことを見定めようとすれば、真っ先に入ってくるだろうその情報を考えないようなやつは、いるはずがない。

 つまり、隠れたりする意味がないってことで、俺たちも、こそこそと立ちまわって下校する、みたいな真似はしない。

 それでも、面倒なやつらが絡んできたりはするんだが。


「はあ。おまえらも懲りないな」


 俺はわざとらしくため息をついてみせる。

 この前は二、三人程度しかいなかったけど、どうやら、今日はお仲間を連れてきたらしい。

 ナンパのためにここまでするのか……ってことじゃなく、当然、俺に対するお礼参りのためだろう。そもそも、向こうから絡んできたってのに。

 

「年下相手に恥ずかしくないのか? プライドとか欠片もないだろ」


「大した減らず口だな」


 減らず口なのはおまえらだよ、なんて、余計に煽るような真似はしない。

 見たところ、手に凶器を持っていそうなやつはいないが、ポケットとかには入っているかもしれない。

 とりあえず、白月を車道から離れた壁際に立たせて、俺がその前に立ち塞がる。

 壁、あるいは、塀は高く、上に登ってそこから、みたいな奇襲を警戒する必要はないだろう。


「まあ――がはっ」


 この状況で、後出しも先出しもないだろう。

 なにやら御託を並べていたやつの懐に一歩で潜り込むと、そいつの顎を下から掌底で打ち抜いた。


「あーあー、喋ってるから舌噛んじゃったじゃねえか」


 もちろん、下顎を打ち抜いた直後には、残りのやつらが茫然としている間に、俺は白月を庇うことのできる立ち位置まで下がる。

 

「てめえ――」


「こんな絡み方してきておきながら、なにすんだ、なんて言わねえよな?」


 正当防衛に関する正確な条文なんてものはわからないけど、どう考えても、身の危険を感じるしな。

 他のやつらは……多分、後ろ手になんか持ってるな。ナイフか、あるいは、日常で手に入るもので、暴行に使えそうなものだと、スプレー缶の類か? それとも、石ころでも拾ってあるのか。

 なんでもいい。使われる前に潰すだけだ。


「調――」


「言っとくけど、おまえがそれを引き抜いて俺の前に掲げるより早く、俺はおめえのその腕ごとへし折るからな」


 後ろ手に回し、なにかを引き抜こうとしていたやつの動きが止まる。

 この程度でびびるんなら、最初から使おうとしてんなよ。

 そして、止まったのをいいことに、そいつの急所を蹴り上げれば、予想どおり、他の男どもの動きも一瞬止まる。

 それだけあれば、隣のやつを一人沈めつつ、白月の前に戻ることだってできる。

 周囲を囲み、俺たち――より正確には俺――を見るやつらの顔色が変わる。まあ、躊躇なく、そんなことをするのを目の当たりにすればな。

 一歩、わざとらしく足音を立てつつ踏み出してみせれば、取り囲んでいたやつらが、警戒するようにって言えば聞こえはいいけど、ようは、びびって俺から距離をとる。

 周囲を見回し、相手の位置取りを確認しつつ。


「もう終いか? なら、大人しくしとけ。白月、さっさと通報しろ」


 今回は、逃げる者は追わない、とは言わない。これからも何度も襲われることになったら、敵わないからな。

 まあ、白月に絡もうとするとこういう目に合う、みたいな噂を流布して、絡んでこようとするやつらを牽制してくれるんなら、見逃してやってもいいけど。

 

「……てめえ、人の心とかないのか?」


 ようやく口を開いたかと思ったら、そんなことかよ。

 

「それはこっちの台詞だろ。白月をナンパする目的なのか、俺に対する復讐とかってつもりなのかは知らないけど、かかってくるってんなら、てめえ一人でぶつかってこいよ。そもそも、普通に考えれば、そんな、暴力で脅しつけて告白で良い返事をもらえるわけねえだろ。そうじゃなく、強姦なんてことが目的だったとしたら、返り討ちにあってどんな目に遭おうと、文句垂れる筋合いじゃねえっていうのは、わかるだろ?」


 リベンジしたいってことなら、いつでも、道場に来てくれてかまわねえから。 

 どうせ、俺の家のことはもう、わかってんだろ?


「それで、てめえらの今のその様で、白月に告白なりなんなりして、受けてもらえると思ってるようなら、ここでしてみろよ。心が決まってるなら、なんてことはねえだろ」


 もちろん、それで実際に告白するようなやつはいなかった。フるとか、フられるとか、それ以前の問題だな。

 

「もしかして、白月的には、さっきもらってたラブレターを送ってくるようなやつらよりは、こいつらのほうが好感触ってことになるのか?」


 さっき聞いた話を考えると、そう言えるんじゃないかとは思うけど。


「本気で言っているんですか? 真田くん。だとしたら、常識と正気を疑いますね」


 白月はにべもなく。


「真田くんのおかげで助かりましたが、彼らがしようとしていたのは、暴行傷害、もしくは、強制猥褻などと呼ばれるような、立派な犯罪ですよ。直接顔を見て告白してこないなどという程度とは、次元が違います」


 聞くまでもなく、あたりまえとも表現するまでもないことだった。

 やがて来た警察への説明も、前回から日がそれほど空いていないこともあって、多少の時間を取られはしたけど、相手が凶器を所持していたこともあり、咎められることはなかった。

 

「帽子やサングラスでもかけて登校したほうがいいのでしょうか?」


 警察署――交番からの帰り道、白月がそんなことをぼやく。

 

「それって、校則に違反するんじゃないのか?」


 帽子とサングラスをかけてる高校生なんて、逆に目立つだろ。まあ、白月の場合、なにもしていなくて目立つから、どうとも言い難いけどな。

 元が白だから、過度な染髪が禁止されている校則のうちじゃあ、むしろ、違反になりかねないし。

 

「ですが、染髪は嫌ですし、もちろん、坊主頭にするつもりもありません……なにを笑っているんですか?」


「いや、白月が坊主にしたところを想像したら、つい」


 正直に言えば睨まれたから、咳ばらいをして誤魔化した。 


「そうだな。白月の髪色は綺麗だから、染めたりなんなりをするっていうのは、残念だな」


 こんなにきれいで、長い白髪を維持できているのは、年齢を重ねた結果の白髪ってことじゃあ、不可能だろう。

 

「また無意識なんですか?」


「なんの話だ?」


 白月は、なにか言いたげな顔でため息をつくから。


「いや、白月の髪が綺麗なのは、べつにお世辞でもなんでもないし、事実を言っただけだ」


 いや、まあ、髪がっていうのもそうだけど、白月茉莉っていうやつがちょっと目を奪われるくらいには綺麗なやつだっていうのも本当のことだしな。

 もちろん、客観的な事実ってことじゃなく――それもあるだろうけど――俺個人の感想として。


「……そうですか。ありがとうございます」


 白月はいつものようにお礼を口にしつつ、俺の一歩前に進み出る。

 俺が白月茉莉について知っていることなんて、まだそれほど多いわけじゃないけど。

 

「あ、いや、髪がってだけじゃなくて、顔とか、身体とか、喋り方も丁寧だし、授業のわからないところは教えてくれるし、こうして喋ってても退屈しないやつだし、それと――」


「もういいですから、すこし黙っていてください」


 白月に赤い顔で睨まれた。

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