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むしろ、こっちのほうが気になってくる

 幸い、周囲に他の気配はないし、仲間が出てくるようなこともない。

 まあ、仲間――かどうかは知らないけど――見捨てるようなやつらなんて、たかが知れてるっていったらそのとおりで、気にする必要もなさそうだけど。

 

「なあ、おっさん、聞いてんだから答えてくれよ」


「いや、朔仁。おまえが腹蹴ったから答えられないんだよ。素人なのに、気ぃ失わないだけ立派だよ」


 爽司は俺に責任があるみたいに言うけど、ちゃんと加減したからな?

 結果的に、聞き出し方が乱暴になってるって言われると、反論できないけど。

 

「じゃあ、そのへんは警察に任せるか」


 あらためて、爽司に確認したけど、ストーカーの証拠も、今、俺たちに掴みかかろうと突進してきたところの動画も残っている。

 

「スマホの中身も残しとくしかないんだよな?」


 白月には――他にも被害者がいるのかどうか知らないけど――悪いけど、しばらくデータは消去できない。

 警察が来るまで、こいつにはスマホなんかには触れさせねえし、なにかできるとも思えねえけど。

 ちなみに、この男がポケットに入れていたスマホは、取り出して、適当に蹴り飛ばしておいた。壊れたかどうかとかは知らないけど、証拠の消去とかされると困るし。

 

「まあ、データの確認くらいはしたいところだけどな」


 爽司は、俺が蹴り飛ばしていたスマホを拾ってくると、指紋認証でスマホのロックを外し、データを確認する。

 

「おーおー。余罪がいっぱいだな」


 すぐに確認できたのか、爽司はそれだけで済ませると、男のポケットにスマホを戻した。

 もちろん、すこしでもそこに手を伸ばそうなんて素振りを見せたら、即座に押さえつけるくらいはできる。

 

「余罪って、白月以外の相手もストーカーしてたってことか?」


「おう。つうか、白月のストーカーしてんのは最近、つまり、高校入学してからくらいだな」


 じゃあ、こいつは常習犯ってことか。

 警察にもあらためて説明するまでもなく、マークされてたんじゃないか?


「おい、さっさと放せ。こんなことをして許されると思っているのか」


 ようやく、喋るくらいには回復したのか、押さえつけているストーカー男が喚く。

 

「いや、放したらあんた逃げるだろ。とりあえず、通報はしてあるから、警察が来るまで大人しくしててくれよ」


 言い訳とかはそのときにしてくれればいいからよ。

 

「ふざけるな。私は野鳥の観察のために――」


「いやいや。朔仁と白月のことつけ回してたじゃん。今さらそれは通らねえよ。それとも、たまたま、その散歩コースと俺たちの通ったルートが同じだったとでも言うつもりか?」


 加えて、盗撮までしてるんだから、その言い逃れは苦しいだろ。風景っていっても、その全部に白月が映りこんでるとか、狙わなきゃできるものじゃねえよ。

 

「それに、さっき、あんた俺にタックルかましてきたよな? それって、野鳥の観察とやらに必要なことなのか?」


 見たところ、双眼鏡とかも持ってないみたいだし。それとも、最近のスマホは高性能で、そんなもの必要ないくらい多機能ってことなのか?

 なんにせよ、白月の写真を収めてる時点で黒だけどな。


「白月、なにか言っておきたいことでもあるか?」


 実際、心的負担はあっただろうからな。本人は、慣れてるみたいな感じだったけど。

 それは、男子全体と大きくは言えないが、少なくとも、俺や爽司には縁のない話だから、どのくらいのことなのかって推し量ったりはできないけどな。

 

「いえ、ありません」


 白月は短くそれだけ答えた。一瞥もせず。

 まあ、ストーカーに進んで関わりたいとも思わないよな。

 

「爽司、警察は?」


「もう通報済み」


 いつの間にかけてたんだか。手の速いやつだな。いや、助かるんだけど。

 爽司の言っていたとおり、程なく、警察も到着して、男を引っ張っていった。一応、俺たちも少し話を聞かれたりもしたけど、大抵は爽司が動画に残してたことで説明がついたし、時間をとられたり、交番までとか、署まで連れて行かれたりなんてこともなかった。

 一応、後日、巡回って形で白月の家を訪ねるみたいなことを言ってはいたけど。


「真田くん、七原くん、今日はありがとうございました」


 パトカーが見えなくなってから、白月は俺たちに頭を下げる。


「礼を言われるようなことじゃねえよ」


「そうそう。同級生の、それも、かわいい子が困ってたら、助けるのはあたりまえじゃん」


 爽司は相変わらず、調子のいいことを口にして。

 ストーカーの被害者である相手にそれはどうなんだ?


「おい、爽司」


「慣れていますし、気にしていませんよ」


 爽司を咎めようとしたところで、白月のほうからかまわないと言われる。

 

「いや、慣れてるって……」


 まあ、噂が轟いているくらいだからな。

 ストーカーほど露骨じゃないにしろ、視線を向けられたり、囁かれたりするのは見慣れてるとでもいうつもりなのか。

 慣れてて良かったなと声をかけるべきなのか、それとも、慣れてんじゃなくてちゃんと意思表示しろよと言ってやるべきなのか。

 むしろ、こっちのほうが気になってくるんだが。

 

「ただ、直接的な被害を受けることはあまりないので、助かったというのは本当です」


 まあ、ストーカーとか、盗撮までするようなやつが、そうそう、いて堪るかとは思う。

 それも、学生なら、多くは学校でのことになるんだろうし、まさか、そこで犯罪に巻き込まれるなんてことも、あんまり考えられないしな。

 白月は俺たちと同学年、つまり、この春前までは中学生だったわけで、このあたりの中学はスマホ類の持ち込みは禁止だから。 

 いや、盗撮だけに困ってたってことじゃないんだろうけど。

 

「それって、べつべつの人からべつべつに被害にあってたってこと? そうやって聞くと、俺たちこそ、白月にとっては信じられない相手だったんじゃないのか?」


 爽司の言うとおりだと思う。

 所詮、席が前後してるってだけの、クラスメイトの一人ってだけだからな。

 当然、為人なんて全然わかってないだろうし、信じられないというよりは、避けたい相手だったってところか。


「はい。ですが、真田くんとは少しお話しもさせてもらっていましたし、助けていただいたこともありましたから、多少は、信じることのできる人だとは感じていましたよ? それから、真田くんのお家はわりと有名ですから」


 その俺の信じている風な相手だから、爽司の事もって話になったのかどうか。

 まあ、普通に考えれば、いきなり、クラスメイトが自分を害するためにまずお近づきになろうと話しかけてくる、なんて考えたりはしないだろうな。どんだけ捻くれてんだよって話だ。

 

「それは光栄だって言っておけばいいのか? つうか、うちが有名ってどういうことだ?」


 そりゃあ、このあたりで武術の道場なんてやっているのはうちくらいだけど。

 それでも、おそらくは、白月の通っていた小学校だか、中学校だかなんだろうけど、そこまで名前が聞こえるほどか?


「真田くんのご実家は武術の道場を営まれているのですよね。たしか、子供一一〇番の家としても、登録されていたと思いましたが」


「そういや、たしかに、うちの門のところに丸いシールが貼ってあったな」


 けど、白月の学区域からは離れてるうちのことまで把握してるのか。

 危機意識が高いっていうべきか、勤勉だって言うべきなのか。


「そうは言っても、白月の通学路からだと、わざわざ、うちまで来るの大変じゃねえか?」

 

 仮に、体力に自信があるとしても、近くにも他にあるんじゃないのか?

 いや、うちを頼ってくれるっていうなら、頼られるけど。


「そうですね。ですから、いままではお世話にならずに済んでいてよかったです。これからは気軽に寄らせていただきますね」


「できれば、そういう事態にならないよう、気をつけたいところだけどな」


 それこそ、警察とか、教師に今日のこととかを報告して。


「まあまあ、朔仁。女の子が家に来てくれるのを無下にするものでもないだろ」


 爽司が肩を組んでくる。

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