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プロローグ

 白月茉莉は俺の住んでいる町ではちょっとした有名人だった。

 もちろん、芸能人だとか、モデルだとか、そういうことじゃなく、いや、美人であったことは間違いないんだが、それとは別に、この国の少女ではほとんど見ることのない、真っ白な髪と真っ赤な瞳をしていて、それが、染髪だとか、カラコンだとかってことじゃないんだから、耳目を集めないほうが不思議だろう。

 なにせ、顔も合わせたことのなかった俺ですら、名前を知っていたくらいだ。

 だから、性格が、よく言えば気さくで、話し方や態度にも余裕があり、中学時代から両手で足りないくらいの相手と付き合っている幼馴染の一人、七原爽司がこんなことを言い出したのにも、べつに不思議はなかった。


「朔仁! 俺、好きな人ができた」


 いったい、爽司の口からこの台詞を聞くのは何度目だっただろうか。多分、小学生くらいのころは数えていたし、仲間内でも話題にしていたりはしたけど、中学に上がったくらいになると、軽く流すようになっていたと思う。

 そのときは、爽司も通ってきている俺の実家の道場で柔軟をしていたから、俺は適当に返事をした。


「そうか」


 そう答えながら、もう一人の幼馴染の顔を思い浮かべるが、もし、あいつと付き合っていたなら、あいつからもなにか言ってくるだろうし、なにより、こんなテンションで言うようなことでもないだろう。

 なにせ、俺たちの幼馴染歴は保育園のころから、十年以上になる。いわゆる、腐れ縁ってやつにもなるかもしれない。


「おいおい。幼馴染に好きな相手ができたって言ってるんだぜ。そこは、応援するとか、成功を祈ってくれるとか、定番のやり取りがあるだろ」


 なにが定番なのかは知らないが、爽司が言ってほしそうだったから。


「そうか。じゃあ、応援してるし、成功を祈ってるから、さっさと告白でもなんでもしてくればいいだろ」


 要望どおりに口にしてやれば、そうじゃないんだよなあ、と残念がられた。

 いったい、どうしろっていうんだ。いまさら、幼馴染の親友に彼女の一人や二人――いや、二人できていたら、問題にするかもしれないけど――できたくらい、大して驚くようなことでもない。


「だいたい、爽司が誰かと付き合うのはこれが初めてでもないだろ。そんな、何人も付き合ってるような達人に、俺から言えることなんてねえよ」


 女子と話したことがないとか、やり取りもしないなんてことはないけど、俺は今までに彼女だとか、友人以上に親しいと言えるような異性がいたことはないからな。

 まあ、俺だけじゃなくて、爽司にとってもそうだけど、幼馴染である透花は別だけど。

 だけど、すくなくとも、俺は透花を恋愛対象として考えたことはないし、それは、透花のほうも同じだろうと断言できる。

 だからこそ、不憫に思えるわけだが。


「いや、今度はマジなんだって。噂は聞いてたけど、実際に見ると、マジでやばかった!」


 つまり、いままでは本気じゃなかったってことか、なんてやり取りも、毎回のように繰り返してきていたから、あえて聞き返したりはしない。

 

「つまり、噂を聞いて見に行って、まんまと好きになって帰ってきたってことか」


 それは、相手の苦労がしのばれる話だ。 

 ここで話を切り上げても全然、俺としては支障はなかったんだが、これ以上、この件で延々絡まれても面倒だから――爽司がそんなことをしないのはわかっていたが――早々に切り上げるため、話に乗ることにした。


「で? 今度はどこの誰に惚れたんだよ」


 七原爽司という幼馴染は、顔だちも爽やかなやつだから、誰と付き合っても、それなりにはうまくいく。が、今の発言からもわかるように、それは長く続かないことの裏返しでもある。多分、中学時代っていうだけでも、長くて、半年続いたやつはいなかったんじゃないか?

 まあ、そんな関係が好きでやっているなら、爽司の勝手にすればいいとは思っているが。相手も相手で、付き合っているときは好きなんだろうから、こっちから言えることもないし。


「朔仁も知ってるだろ。同じクラスの白月茉莉」


「まあ、そりゃあな」


 俺とか、クラスメイトってことじゃなく、多分、学校中でも知らないやつはほとんどいないだろう。地元が近くじゃなく、電車とか自転車で通ってきているようなやつも含めて。

 むしろ、いままで爽司が声をかけに行っていなかったことのほうが驚きだった。 

 

「それで? もう告白してきたのか?」


「いや、それはまだ。つうか、今すぐに告白したって、受けてもらえる可能性は低いだろ。やっぱ、友達とか、クラスメイトとして、何度か一緒に遊びに行ったりしてからだな」

 

 意外と、そのへんの常識はあるらしい。常識っていうのも、変な話だが。

 むしろ、たくさん付き合った経験があるからこそ、そういったことも手馴れているのかもしれない。

 

「けど、俺一人だとがっつきすぎているようにも見えるしな。だから、朔仁、出かけるときは付き合ってくれよ」


「……なんで俺が爽司のナンパに付き合ったり、片棒を担がされたりしなくちゃならないんだ」


 普通に遊びに行こうって話ならまだしも、ナンパだろ?

 そんなことをして浮ついている暇があったら、投げ型の百回でもやらんか、なんて、親父――道場では師匠にどやされることは間違いない。

 俺だって、親友とか、女子と一緒に遊びに行くのが嫌いなわけじゃないけど。


「つうか、女子と一緒に遊びに行きたいなら、透花に声をかければいいだろ」


 絶対、いや、部活と被ってなければ、断られることはないと思うぞ。

 

「そうするつもりだったよ。いきなり、男一人に誘われるより、女子も一緒にいたほうが安心されるだろ」


 爽司はあっさりとそんなことを言ってのけた。

 マジで、信じられねえ。なんで、こいつがモテるんだ。世の中間違ってないか?


「なんだよ。俺の顔になにかついてるのか? 男に見つめられても嬉しくねえぞ」


「奇遇だな。俺も男をまじまじと見つめるような趣味はねえよ」


 とはいえ、爽司が、透花の想いに気がついていて無視しているのか、それとも、本当に気がついていないのかは知らねえけど、いままで、そういった話にまで発展していないことは事実。

 まあ、透花のほうは自分からぐいぐい行くようなタイプでもないからな。そんなタイプなら、とっくの昔にどうにかなっているだろうし。

 爽司に悪気はないからな。あったら、とても、こんなこと素面で言えないだろ。

 傍から見ていれば、丸わかりでも、それは、長い付き合いの俺だからで。女子の間のことは俺にもわからねえし。

 

「……とりあえず、透花には俺から声をかけておくから」


 まさか、爽司から透花にこんな話をさせるのは、さすがに気が引けるというか。

 まあ、透花のほうも慣れている可能性はあるけど、積極的に聞きたい話でもないはずだからな。


「おっ、サンキュー。朔仁に好きなやつができたときには、俺も絶対協力するから」


 それは、もうずっと聞いていることだ。今まで、俺に好きな――恋愛って話で――相手だとか、ましてや、恋人なんてできたことはなかったから、その約束が履行されたことはなかったが。

 

「それにしても、さっさと、透花の背中でも押してやったほうがいいのかもな」


 爽司も親友には違いないから、もし、件の白月茉莉も同じ気持ちなら、それを応援したい気持ちはあるけど。

 そのときの俺は、まだ、いつもの第三者、友人という立ち位置にいただけだった。


「私を幸せにできるのはあなたしかいませんから、私を幸せにしてくれる気概はありますか?」


 だから、まさか、知り合ってから数か月足らずで、そんな上から目線の告白をされることになるとは、まったく思っていなかった。

 それも、親友から想い人だと言われていた彼女から。



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