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第8話 ユキトは一人でバトル開始しちゃいました!?(1)

一つ一つの物語という名の線が、一つに交差する。交差した点が、終局を奏で始める。


これはその一つの線である。

ユキト編(1)


 ユキトは激怒した。必ず、かの 邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく) の狐面を倒さねばならぬと決意した。

「って、ナレーションが入ってもおかしくないよ、この状況。。。っ!」

 独り言を言っても、誰も助けてくれないのは分かっていた。おれは、ユキトは、今すごい走っていた。

 始まりはカードゲーム屋からだ。皆で入ったと思ったら、狐面から、突然のババ抜き宣言。そこから、流れるようにしょぐちがあんなことに。。。カタキは取ってやる。。。オレに出来るかどうかはさておき。。。そして、ケイジュがいくつか質問した。珍しいと思った。あいつはアイナのことが好きだから(バレてないと思っているだろうけれど)、シンジが一緒にいるあの場所で質問しないと思っていた(後で聞くことが出来るのか、甚だ怪しいので、聞くしかなかったのかもしれないが)。珍しいかどうかはさておき、質問が終わったと思ったら、もうゲームスタートだ。(まばゆ)い光と共に、おれは森の中に突っ立っていた。

 まずやることは決まっていた。バインダーの確認だった。森の中で、おれは視界の隅に見慣れないものがあることを見逃さなかった。バインダーと言う名前ではあるが、いつもやっているゲームみたいな感覚だったので、オタクにはとても分かりやすかった。そして、カードとは別にある、もう一つ表示されたものがあった。おそらく、皆にも備わったはずの【能力】だった。ハッキリ言って嬉しかったし、一通り目を通した時だった。

 もう、おれの理想が『通じた』と。。。。今。。。【能力】を理解出来たと体で感じ。。。。【動けるポッチャリ系】になっていると。。。

 そんな感じで使う前から使いこなせると自覚出来た。


 そこまでは良い!問題はここからだ。おれは、ひとまず希望の第一歩を踏み出そうと思ったら、風を切る音がした。大きめの虫かと思ってサッと避けたら、目の前の大木が切れて倒れたのだ。

「え、斬りつけられたのか!?」

 おれはつい、また独り言を言いつつ、避ける時に当たり前のように【能力】を使用していたことに安堵した。

 「当たってたら絶対死んでいた」と心の中で思い、安堵したのも束の間、また風を切る音が先程より一層増して聞こえてきた。もう走り出すしかなかった。森の中をとにかく走って、走って、走れユキトになった。


 バインダーにあった【能力】は、【増加(インクリース)】である。思ったままに何でも増加する。つまり、今は、視覚・体力・脚力あたりを【増加】して、【増加】して、そして【増加】と3回くらい使用してやっと逃げながら得ている。増加(イコール)強化となってくれて良かった。そもそも、おれの元の運動神経が良ければ。。。と思ってしまうが、嘆いてもしょうがない。

 けれど、いつまで経っても斬りつけ続けられているのは、流石に疲れてくる。もちろん、このままでいるつもりは毛頭ない。。。

 少なくとも、一緒に来た友達たちではないことは理解出来る。

 つまり、狐面の1人であるはずだ。

「一番やりたくない方法だけど、1人で闘うしかない。。。」

 誰とも合流することが出来ず、かつ戦闘に入ることは一番避けたかった。。。というか、ババ抜きだよね、これ。何でおれはいきなり切りつけられてるのか分からない。けれど、そんなことを言っても相手は攻撃を止めてくれない。狐面。。。つまりこの相手は、おれのカードを全部奪って、必要なカードだけ消滅させるという、もはやババ抜きではない手段に出てきている。。。

 けれど、だとすれば、もうおれも同じ手段に出るしかない。

「相手を行動不能にして、必要なカードを、おれが貰うっ!」

 おれは、言葉にして、決意する。


【能力】強化はそのままに、腕力も強化に追加する。おれは逃げるのを止めて、足を止める。そして、より一層、足に力を込めたら、今度は相手に向って飛び出す。

 おれは【能力】により、集中力も研ぎ澄まされている状態のため、迫りくる斬撃を紙一重で避ける。相手が一瞬驚いた隙を逃さず、懐に飛び込む。おれはそのまま、相手の影を捉え、掌の一番固い部分を使って張り手(いわゆる掌底打ち)を放つ。しかし、相手はそれを鳥のように軽やかに後方へ移動し、姿を消す。

「【能力】で強化しているとは言え、初心者の掌底打ちなんてこんなもんか。。。」

 1人愚痴りながら、相手からの襲撃に備え、一度距離を取るために再び走る。

 おれは、走りながら相手がいるであろう後方へ視線を飛ばす。先程、懐に飛び込んだときに、一瞬ではあるが狐面が見えた。少なくとも友達ではないことを確認完了。(友達だったら逆にショックだったけれど)

 相手が魔犬慟哭破で退散してくれるなら、こんなに嬉しいことはないが、まず無理だろう。(再アニメ化おめでとう、らんま)

 相手が攻撃を再開してきたため、おれは懲りずに相手に向って飛び出す。先程と変わらぬ、相手の斬撃をくぐり抜け、おれは先程より早く、一段階【能力】を追加して、懐に飛び込む。

「次はどうだっ!」

 少し軋む足を堪えて、おれは二度目の掌底打ちを放つ。すると、今度は、おれの掌底打ちが相手の(ボディ)にヒットする。

「【掌底破】っ!」

 思わず、おれは口にする。【能力】の技について、バインダーの説明を読んでいて良かった。【能力】強化による掌底打ちだったが、手応えはあまり無いように感じる。

「。。。。」

 相手は、無言で痛みを堪らえるように腹部を左腕でで押さえる。【能力】で強化していたはずだが、ちょっと手でさする程度なのは少しショックである。

 けれど、ダメージがないのはマズい。多少はよろけてくれるのを期待していたが、一度距離を取る。

 相手もまた、上空へ飛んでいくと、長距離から斬撃を飛ばしてくる。一体どんな剣ならあんなに長くなるんだ。。。もしくは、ゲームによくある斬撃を飛ばすでも使っているのか。(【能力】とかある時点で、このゲーム?では、長い剣より可能性あるかな。。。)

 おれは上手を睨みつける。沢山の枝や葉で分かりづらいが、相手が足場にしているのは太めの枝である。次に飛ぶであろう枝に、逆におれが飛んていけば、奇襲になるはず。

 おれは、敵の斬撃を避けながら、目線は相手の方を睨みつけたそのまま、先程考えた枝へ駆ける。

 おれはなんとか枝に足をつくと、ずっと下の方で枝や木の葉が斬られているの音を確認する。そして、予想通り、相手が目の前に来る。今度は相手の頭に向かって、手のひらを刀のように(いわゆる手刀)を左手で右から左へ薙ぎ払う。

 相手は、直前で気付き後方へ飛ぶが、おれの手刀が相手の狐面の鼻先をかする。

 おれは勢いのまま、右手、左手と手刀の乱れ打ちをお見舞いする。

「うおぉぉぉっ!【徒手空乱撃】っ!!」

 おれは叫んだ。

 相手は攻撃をやめて、おれの攻撃を軽々と避けていく。当たらない。しばらく攻撃を続けたところで、相手の足場が無くなる。

 「ここだぁ!」

 勝機と感じそのままの勢いで突っ込む。しかし、相手は地上に飛び降りる。おれは、見事に攻撃を外し、一段下がった枝に着地する。そこから、相手を再度確認する。上空にいたときは、木漏れ日でよく見えなかったが、森が深いところまで移動してしまったのか、地上にいるのに、相手の姿は相変わらずよく見えない。

 ここで、相手が何を思ったのか、動きを止めているようなので、おれも下に降りる。下に降りてみても、やはり相手はよく見えないが手に鋭く光る刃のようなものを持っている。

 互いにそろそろ、一撃決めたいところかな。。。

 けれど、ここまでスピードに差がないと、相手の不意をつくしかない。出来ればこれ以上足の酷使はやめておきたい。となれば、【能力】で強化した腕で受け止めるか。。。受け止めきれば、おそらく大きな隙が出来る。そうなれば、渾身の【掌底破】が撃てるはず。。。

 相手はまた後方へ飛び、先程より力を溜めているかのように、すぐに襲ってくない。そこから、一気に木の葉が揺れる音が凄いスピードで近付いてくる。遠くで、相手が木を蹴る音が聞こえると同時に、すぐ目の前まで影が迫ってくる。

「くそ、これ以上考えている余裕がない!」と心の中で叫びつつ、【能力増加】をかけられるだけかける。もう面倒くさいっ!

「【増加で最大強化】だっ!」

 そう叫んでから、敵の刃が来るであろう方向に左腕をガードするように構える。

 おれの左腕に相手の刃が叩き込まれる。相手は、その強靭な刃で、おれの腕ごと身体を斬るつもりだったであろう。けれど、おれの左腕の真ん中で見事に拮抗している。ありがとう、【能力】。。。

「なっ。。。なんじゃとっ!?」

 初めて、相手が喋ったのが聞こえてくる。ツンデレっぽそうな可愛い声ではあるが、やけに年寄り臭さのある言葉である。

 また、相手は言葉通り、刃を抑えられたことで動揺したのか、少しだけ動きが止まる。おれはこの隙を見逃さず、刃を左腕を使って力ずくて弾く。相手は大きくよろけたところに、今度こそ右手で【掌底破】を決める。

「しょうていっ。。。。」

 おれは、相手の(ボディ)へ【掌底破】を華麗に打ち抜いたつもりだっだ。けれど、腕で刃を弾いた勢いで、バランスが崩れて右上にズレている。そこにはメロンとは言えない、発展途上な、そう、強いて言うなら肉まんのようなものに綺麗に手が覆いかぶさる形で、【掌底破】が決まっていた。

「あれっ。。。。」

 左腕に全神経を注いでいたおれは、右手の【掌底破】にほとんどの力を回せていなかった。そのため、右手に綺麗に掴んだ肉まんのような感触に、一瞬、戦闘中であることを忘れる。

「これは。。。もしや。。。」

「ぎゃあぁぁぁ!いやじゃあぁぁぁっ!」

 相手がそう叫ぶやいなや、おれの左腕で弾いた刃だったものが、急に腕になり手になると、おれの左頬を打ち抜いた。

 頭部に衝撃が走り、思わず【能力】を解除したことに、一瞬血の気が引くのを感じる。けれど、相手は攻撃する素振りはなく、胸を両腕で隠しながら、(おそらく)睨んでいるであろうと予想出来る口元でこちらを見ている。

「き。。。きさまっ、最後のは故意に握ったのか!?」

 刃ではなく、言葉が飛んできた。

「えっと、まさか胸だったとは。。。はい。。。ご、ごめんなさい。。。。」

 何故か謝っている、おれがいた。

 というか、仮にも戦闘中だったし。。。しかも、相手はかなりの勢いで殺すレベルでしたけど。。。

 そんなことはお構いなく、相手は更に口元を歪ませている。胸を隠したままではあるが、殺気を感じる。

 その瞬間、相手の右足が伸びるように鋭く襲ってくる。

「殺してやるっ!」

「それは、最初からだろうがっ!」

 おれは、謝っている前から【能力】を全開にしていたため、なんなく避ける。避けた先を見てみると、相手の右足が()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その勢いのまま、相手は片足で立ち上がると、伸びた右足を連続で薙ぎ払ってくる。一番最初の見えない位置からの斬撃とは違い、正面から見える太刀筋のため、視力・脚力の強化で十分(じゅうぶん)対応出来る。その動きを見て、相手にようやく焦りの色が見え始める。

「このっ!このっ!このっ!このおぉぉぉ!」

「見えない時から、避けることは出来たんだ。距離が近いとはいえ、見える斬撃なら避けるのは容易いよ。」

「うるさいっ!うるさいっ!私はっ!勝たないとっ!駄目なんだっ!」

 そう言いながら、右足と左足を交互に刃に変化させながら、百烈もあろうかと思う蹴撃で攻めてくる。辺りの草木を巻き込みながら、華麗な蹴撃が続く。けれど、おれは、そのことごとくを避けてみせる。相手は、まだ胸を隠すように、腕で(おお)っている。

 ここで両腕の連撃が入るのは、いくら見えていてもまずいかもしれない。。。そう思い、おれは相手の胸にある腕を、より一層、じっと見つめる。

 けれど、それを見て相手は口元を歪ませたまま、蹴撃の勢いを増してくる。

「きさまっ!この期に及んでっ!まだっ!」

 足による攻撃と、相手のこのセリフ。どうやら、おれはまだ胸をさわる変態野郎と思われているらしい。

 おれは、見慣れたきた蹴撃を少しずつ捌きながら、押し返していく。

「違っ!違うからなっ!。。。くっ!」

 喋りながらの戦闘は難しい。相手のほうがやはり、一枚上手だ(これだけの攻撃をしながら、余裕で話しかけて来ている)。

「なら、何故っ、キサマは先程からワシの胸ばかり見ておるのじゃっ!この、ヘンタイめっ!」

 殺人というヘンタイを目の前に、これは言い返さないわけにはいかない。おれは、先程より更に相手の攻撃を捌きながら、少しずつ懐に近付いていく。

「ヘンタイは、そっちだろうが、おれたちを殺そうとしている、殺人鬼がっ!」

 その瞬間、蹴撃による刃が急に音も無く止まる。舞い散った木の葉は風がなくなり、音も無くゆっくりと落ちていく。

「ワシは。。。。殺人鬼。。。。なのか。。。。やはり。。。。」

 蹴撃の終劇と共に、いきなりしおらしい声になる狐面。もう何が何だか分からなくなってきた。もしくは、何かの作戦か。。。?

「狐面。。。?」

「う。。。がぁぁぁ。。。私は。。。殺さないとっ!」

 そう言って、蹴撃の終劇は終劇を迎え、再び襲撃が始まる。

 そんなことを思ってるおれは、結構余裕出てきたな。。。ひとまず。

「うわっ。」

 避ける。また攻撃が激しくなり、押し返される。懐までもう少しだったところが、また距離を離されてしまう。

 ひとまず、あの仮面を取ってみるか。脚力・集中力に【能力】の全てを集中すれば。。。防御なくなるから、出来れば仮面取ったら攻撃をやめてほしいところ。

 脚力にものを言わせるならと、いっそ相手の射程外ギリギリまで距離を取る。

「今から、お前を解放してやる。」

「えっ。。。」

 狐面が、言葉に反応し、一瞬だが動きが止まる。

 持ってくれ、おれの両足。。。【能力脚力】でスピードを、【能力集中力】で標的(仮面)を。【掌底破】ではない、仮面を奪うだけの力を。。。

 疾風(ハヤテ)の如く、雷のように一点を貫くっ!

「【疾風迅雷(しっぷうじんらい)】っ!」

 おれは、先程とは比べ物にならないスピードで狐面に近付き、攻撃を再開しようとする相手を駆け抜ける。そのスピードと、標的を確実に掴む集中力で、仮面を奪い去る。まさに、疾風。

 これまでの比にならないスピードで、足がふらつき、おれは片膝をつく。振り返って狐面(もう取ったけど)を見てみる。

 攻撃もせず、振り向きもせず、ただ、呆然と立っていた。


 仮面を取ったら分かったことだが、黒い髪の毛は仮面にくっ付いてるカツラのようだ。

 ヅラじゃなくカツラだから。。。いや問題ないのか。

 カツラではなく、気にするのは仮面の方。仮面を内側を見てみるが、これといって不思議な点はない。機械とかで操られているとか、脳波コントロールされているとか、そういった(たぐい)のものを連想していたのだけれど、無さそうである。では、何故彼女はあんなに豹変してしまうのか。。。本人に直接聞いてみるしかない。


 改めて少女を見やる。暖かな光で照らされて、初めてこの目で見る少女の、仮面が取れた勢いで魅せる髪。それは、柔らかな(すみれ)の花のように美しい長髪で、透き通るように輝きながら、朝焼け空のように溶け込んでゆくように舞う。

 先程までの殺気は消え、ゆっくりとこちらを振り向く少女。その瞳は美しいガラス細工のような碧眼で、(まばゆ)く光る涙が流れている。

 先程まで、人生で初めて死闘と呼ばれるものを繰り広げた相手だと言うのに。。。

 木漏れ日の中、こちらを見ながら呆然と立ち尽くす彼女を見て、綺麗という言葉は、きっとこの()のためにあるのだろうと、おれは一人で思ってしまった。

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