第5話 シンジは頑張ってクリアを目指すことにしちゃいました!?(2)
一つ一つの物語という名の線が、一つに交差する。交差した点が、終局を奏で始める。
これはその一つの線である。
シンジ編-始まり-(2)
俺は、自室から見える、違和感のある風景に目を通す。
「他の仲間を探そう。。。」
独り言のように呟いて、俺はベッドに座っているアイナを見やる。アイナは黙って頷くと、スッとベッドから立つ。
俺たちは階段を降り、リビングを通ってから台所に向かった。冷蔵庫にあった食料を試しに食べてみたが問題なく食べられそうだった。とは言っても沢山携帯するわけにはいかない。こんなこともあろうかと(思っていたわけではないが)買い置きしていたキロリーメイトをいくつかと、水を携帯することにした。合わせて、身を守るために俺とアイナはお互いに包丁を一丁ずつ携帯することにした。狐たちは物騒な連中だ。こんなものが役に立つとは到底思えないが、無いよりはマシだと思いたい。飛び道具である拳銃などあればより良いかもしれないが、いかんせんエアガンしか経験のない俺には猫に小判だろう。。。
何か【超能力】でもあれば話しは変わってくるんだけどな。この時、バインダー(視界に映る数字やカウンター)辺りが少し光ったような気がしたが、見間違いだろう。
皆が持っているカードも気になるし、まずは他の友達に会わなくては。幸いにも、元々住んでいた街だ。地の利はある。それに、俺の家に来るまで、数件他の家の中を覗いてみたが、全く人気はなかった。それに引き換え、外には割と人が歩いている。つまり、外を歩いてる連中こそが、狐たちの言っていたCPUというやつらなのだろう。ならば話しは早い。彼らには悪いが、俺の対象カードを減らすお手伝いをしてもらおうじゃないか。
準備を整えた俺とアイナはリビングでカーテンレースを引いてから、向かい合う。
「これからの作戦を考えてみる。俺のカードとアイナのカードはお互いには対象が残り【3枚】。現在、アイナは、次が【引く】待ちで、おれは【引かれる】待ちだ。CPUが引いてくれればいいが、あの狐面は、CPUから引くことが出来るとは言っていたが、引いてくれるとは言ってなかったからな。。。。CPUから攻めてくるとは思えない。となれば、一緒に来た友達と手持ちを確認しながらカードのやりとりをするのが1番ではあるが。。。。ババ抜きの意味ないけど、ゲームオーバーよりはマシだろう。ゲームオーバーの先はおそらく。。。。
ぶるっ。。。俺は少しだけ身震いをするが、すぐに気を取り直す。
「そこでだ。今、外を歩いてる連中はこっちに無関心である。しかも、あいつらはカードを、持っていると狐面たちは言っていた。さらに、俺たちは対象カードの枚数は減らしたい。となると。。。」
「"しーぴーゆー"から、1枚取ってみて、対象カードをゲット出来るか確かめる!だねっ!」
「おまっ。。。カッコいいところ持ってくなよな。。。」
「えへへーっ。でも、大丈夫?結構な人数がいるよ?」
「そこは大丈夫だ。近付いたら、センサーみたいなのが反応して警告音が鳴るらしいから。」
俺がそう言うと、アイナはこまった顔で小首をかしげる。
「いや、だから、警告音が鳴っても、"しーぴーゆー"はそのへんにたくさんいるんだよ?どの人が警告音出してるのかわかるの?」
「。。。。」
俺は沈黙するしかなかった。全く持って、至極最もな意見であった。
「た。。。たしかに。。。」
「もうっ!そこまで考えてあるのかと思った!」
「すまん、そこまでは考えてなかった。。。」
俺は別にアイナをバカとかアホとは思ったことはない(アホ毛はあるけど)。というか、こう見えて(失礼)地頭はとても良い。見た目で苦労した分、昔から勤勉なところがあるからだ。だが、しかしだ、アイナにすごく基本的なことをツッコまれたのが、何だかとっても虚しい。。。わりとおとぼけなところがあるし。。。そこが、かわいいところの1つではあるのだけれど。ん?。。。オホン!
けれど、たしかにそのとおりだ。あの狐たちめ。。。一体どうやって見分けろと。。。警告音が鳴りだしたら、一体ずつ触っていくか?すごく時間はかかるが、相手はこちらに興味がない様子だった。時間はかかるが、確実な方法ではある。ひとまず、その作戦で行くか。
「よし、アイナ。。。」
「きゃーーーっかっ!!だめでーーすっ。」
食い気味にアイナが俺の作戦を却下した。いや、そもそもまだ、俺は作戦すら言っていなかったのだった。
「いや、まだ作戦すら言ってなかったのだが。。。」
「だから、却下だよ。駄目ですっ。だって、シンジ、警告音が鳴ったらその近辺の"しーぴーゆー"を手当たり次第に触りまくるんでしょう?」
俺は脳天から雷が落ちるほどの衝撃を受けた。
「なっ、何故わかったぁぁぁ!!」
アイナは人差し指で抑えているこめかみを、ぎゅむぎゅむしている。
「流石に、何年も一緒にいるとね。。。久々に会ったとはいえ、考えることは何となく分かるよ。。。」
「そうか。。。」
俺はもう認めるしかなかった。アイナはもう、おとほけキャラではないことを。
そんなことを考えているうちに、アイナが少しモジモジしながら、こちらを見て小さく口を開ける。
「それに。。。」
「それに?」
「"しーぴーゆー"とは言え、色々な女性の手とか身体とか触るんでしょ。。。」
なるほど、俺は数多のCPU女性の手を取り身体を触り、そしてむむむむむ胸を。。。。
「あ。。。」
そこで、俺の思考が爆発した。
「ブハーーーー!」
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
俺の盛大な鼻血と共にアイナが目玉を飛び出して驚く声がけたたましく響いた。
俺はポケットティッシュを取り出して両鼻に突っ込んでから、アイナを見やる。
「まったく、なんてこと言うんだ、アイナは。」
とても遺憾の意を示したアイナ総理は、そんな俺の言葉は聞いちゃいない。
「なんで、そこまで色々考えてるのよ、このエッチ!私が言いたかったことはそんなことじゃないもんっ!
っ」
「違うんかい。じゃあ、なんて言いたかったんだ。」
「シンジが。。。ほ。。。の。。。。る。。。。の。。。」
アイナがとてもボソボソ言うので良く聞こえない。
「だからっ!シンジが、他の。。。。手。。。。。。が。。。。なのっ。」
先程よりは聞こえるが、やはりアイナはとてもボソボソ言うので良く聞こえない。
「すまん、やはり何と言ってるのかよく聞こえんな。」
「だーかーらー!。。。っ!」
ここで、アイナは、何故か右の拳を構える。
「ん?アイナさん?なんで拳を構えてるのかな?」
そしてアイナの右拳が俺のボディに決まると同時に、アイナは先程の言葉も綺麗に言う。」
「シンジが、他の女の子と、手を繋いだり、身体を触るのが私は嫌なのーーーっ!!」
ドフゥっとおれの腹と肝臓に見事なダメージを与える。
「俺のボディが甘えぜ。。。」
俺はそのまま意識が遠のくのを感じた。
「シンジーーっ!おきてーーっ!」
気が付くと俺の胸のあたりにポカポカ何か当たっている。ゆっくりと目を開けると、どうやらアイナが俺の胸をポカポカ叩いているようだ。
「なんだ、アイナ。。。痛いじゃねえか。。。」
気が付くとソファーの上に寝転がっている俺がいた。そうか、アイナに渾身の荒咬み。。。もといボディを食らったんだった。
「こんな状況なのに、女の子一人置いて気絶するなんて、信じられないなー!」
アイナはプリプリ怒っている。だが、この状況を作ったのは、アイナさん、あなた自身なんですけどね。。。
俺はソファからすくっと起き上がる。
「経緯はともかく、すまん。話しを戻すが、アイナは俺の意見は却下と言ったな?と言うことは、アイナは、もっと有用な対策をすでに多く持っていると思っていいのか?」
するとアイナは、まるでちゃきのように、両腕を組み、鼻を高くしてこう言っている。
「ふふーん、まあ、アイナお姉さんに任せときなさいって!」