第4話 シンジは頑張ってクリアを目指すことにしちゃいました!?(1)
一つ一つの物語という名の線が、一つに交差する。交差した点が、終局を奏で始める。
これはその一つの線である。
シンジ編-始まり-(1)
ケイジュの質問が終わり、仮面少女の一言。
「それでは、ゲームを開始します。皆さん、がんばってくださいね!」
その瞬間、仮面少女本人がやっているのか、彼女を中心に閃光が走る。あまりの眩しさに耐えきれず、俺は手で顔を塞ぎ、そして目を塞いでしまった。
「シンジ。。。何処。。。」
けれど、俺が目を塞いですぐ、アイナの声が聞こえることに気付いた。俺は塞いでいた目をなんとかこじ開け、アイナを確認する。
「アイナ。。。俺の腕に掴まれるか?」
「うん。。。大丈夫。。。今度は何が起こるんだろう。。。」
「分からんが。。。しっかり掴まってろ!」
「うん。。。!シンジ!絶対離さないでね!シンジ!」
「そんなに呼ばなくても、とにかくしっかり掴まってろ!」
不安そうなアイナの震えているか細い手を、俺はしっかりと掴み返す。そして、その震えが、俺の震えをなんとか抑えてくれる。俺は、アイナを守らなくちゃいけないんだ。
俺は心の中で自分自身に大きく叫ぶ。
(ケンゴの代わりにアイナを、守る!。。。だから。。。度胸の必要なことを、やったことがないけれど。。。人より気も大きい方ではないけれど。。。震えるのはこれが最後だ。。。シンジ!)
閃光が走った後、再び目の前が真っ暗になった。そしてまた明るさを一気に取り戻したと思えば、目の前には見知った街並みが広がっていた。
先程までの、何も無い広い部屋も、仮面少女も、もういない。
見知った街並み。。。いや、違和感がある。違うのだ。故郷なのに、知ってる顔ぶれがいない。そして、俺たちに無関心な人混み。空は明るいのに、車が一台も走っていない車道、何より、信号機に灯りが付いていない。
辺りを見回し、他の仲間を探してみるが、俺とアイナ以外には見知った顔が見当たらない。俺たちを分散させるのもあいつらの作戦のうちか。
「シ。。。シンジ。。。?。。。生きてる。。。?」
どうやら、アイナも気がついたようだ。
俺はしっかり手を握り返すとアイナの方を向く。
「大丈夫、俺は生きてる。。。そして。。。ケンゴもきっとどこかで生きてる。。。」
アイナは「そうだよね。。。」とか細い声で返事をして頷く。けれど、アイナも、俺も、やはり心の奥底ではこう思っている。。。
ケンゴ(アイナのお兄ちゃん)はもう生きていないかもしれない。。。
そう、確信させるほどに強力で、残酷な一瞬だった。
夢でも見ているなら覚めてほしい。。。ケンゴが。。。足首だけ残して。。。
「うっ。。。」軽く嗚咽が交じる呼吸を飲み下してから、先程見渡した時に見つけた、俺の家を思い出す。俺たちはひとまず、そこまで移動することにした。
「街の様子が何かおかしい。。。だが、俺たちの街であることには変わりないようだ。人目につくのはマズイ気がするし、一旦、うちまで移動しよう。出来るか?」
アイナは軽くコクンと頷いた。俺はアイナの手を引き、自分の家に向かった。
家の前までつき、玄関の扉を引いて開けて見る。やはり見知った玄関内だ。靴は脱がず、リビングまで行ってみるが、けれど、見知った母の姿は無い。
ひとまず、俺の部屋に行き、少し胸を撫で下ろす。
俺にしがみついたままのアイナを、優しく、離れるように促す。
俺は、「ふぅ」と一息ついてからカードやらバインダーやらを確認する。
仮面少女(面倒くさいので狐とでも呼ぼう)の言っていたバインダーが何処でどうなっているのか、視界や掌などを見てみる。すると、視界の右隅に見慣れないものがある。これは、掌ではなく、視界そのもののようだ。
「ふむ。」と一言俺は頷いた。なるほど、バインダーとは言っても、テレビゲームのように常に視界の右端に半透明の緑色で表示されているようだ。
俺のカードは。。。
『1、Q、10、8、6』
の5枚か。カードゲームか。。。ふとケンゴを思い出す。あいつは、ケイジュと違って、あまりカードゲームが好きじゃなかったな。。。。あいつ。。。先にこのゲームからトンズラしやがって。。。次に会ったらぶん殴ってやるからな。。。
「。。。ぶん殴ってやるから、ちゃんと生きてろよ。。。」
「。。。シンジ?」
つい、言葉に出てしまい、アイナが不思議そうにこちらを見やる。「なんでもないよ」と愉し、ガラにもなくイケメンがよくやる「頭なでなで」をしてみると、アイナは寂しそうに、けれど嬉しそうにしていた。
(撫でてやるのが、いつもやってるお前の兄貴じゃなくて、すまん。)
まずは状況確認だな。俺たち2人だけの持ち札でクリア出来るほど甘くはないはずたが、お互いの手札を確認しよう。
「アイナ、ちょっといいか?」
「何、シンジ?」
俺はアイナにバインダーに入ってるカードがどのように確認出来るかを伝えた。
「ホントだ、こんなところにあったんだ。クスッ。ついさっきなんだろうけど、全然気付かなったっ!やるね、シンジっ!」
アイナは、今できる精一杯の笑顔でニカっとしてくれた。
「見えてるものを教えただけだよ、まったく。。。」
そのあと俺たちは改めて持っているカードをお互いに確認した。
アイナが「オホン」と何やらそれっぽく咳払いをする。
「えーっと、シンジが
『1、Q、10、8、6』で、
私が
『3、4、Q、10、A』
だよ。だから、シンジのと私のでどちらかの対象が消せるね。」
「ああ。『Q、10』があるから、この時点で2つ対象が消せるな。」
「なら、1枚ずつ対象を消すほうがいいよね!?1枚ずつお互いにあげたほうがいいよね!?私だけ先にクリアなんてイヤだよ!?」
アイナが少し焦ったように、近づいてくる。そして、袖どころか身体ごと腕に絡みついてきたため、再びスライムの危機がやってくる。
こんな状況で何考えているんだ俺のバカ。。。そうだ。。。素数を数えれば良いんだ。。。
「1、3、5、7。。。」
「ちょっと、シンジ?真面目にやってよ!5も7も出てこないよ?」
しまった、つい声に出しまっていた。ふとアイナを見るとなんだかムッとしてプリプリ怒っている。なんだ、この可愛い物体は。
「す、すまん、俺にも俺の事情があるんだ、察してくれ。」
「?」
アイナは頭にハテナを浮かべているが、気にせず話しを戻す。
「まずは、アイナの『Q、10』どちらかを消そう。出来そうか?狐の話しでは揃っていることを視認すれば消えるとかなんとか言っていたような気がするが。」
「狐って何?あの仮面の人たちのこと?なんだか可愛い言い方するね!」
「可愛いわけあるか。。。俺たちをこんな目に合わせてる張本人だぞ。。。」
「そうだよね。。。ごめん。。。あと、私は怖くてあんまり聞けてなかったよ。。。とにかく、見れば良いのかな。。。それとも、消えろーとか思えば良いのかな。。。」
話し合った結果、どちらがどちらを引いてもさして問題は無いのだがアイナが『Q』をおれから引く。
その後、数秒も経たない内にアイナが「ワッ」と小刻みに驚いた。
「アイナどうした?消えたのか?」
俺はアイナを見ていたが、まるで壊れたロボットが、キリキリと音を出すようにぎこちなくこちらをゆっくりと向くと、3回ほど頷いた。
「うん、うん、うん!消えたっ!消えたよ!」
そう言うと今度はうさぎのようにぴょんぴょん飛ぶ。まだ一つなのだが。。。まぁ水を差すのは止めておこう。。。
アイナがうさぎをやめると、こちらをキリッと見てきた。
「消えろ!って念じれば良いみたい!」
「そうかい、サンキュー。」
「なんだよーもっと嬉しそうにしろよおー。」
「俺はまだ1つも消えてないっつーの。」
俺の胸をポカポカ叩いてくるアイナの頭を片手て押さえて追いやり、自分のカードを確認する。
「でも、そうだな。。。。ひとまず、おれも『10』をいただこうか。」
「分かった。いいよ!」
そう言うと、アイナは何か設定しているのか、左上(アイナ視点からすればおそらく右上のバインダーであろう)を操作する。
そこから、もう少し、うだうだとやったあとに一度後ろを向く。そして何かゴソゴソしたあとに、もう一度こちらを向く。何やら先程より、というかいつもより肌の露出が多くなっているところで、両手を広げて、ニヤリとする。
「さっ、シンジ!何処でも、ド・ウ・ゾ・♡」
「ブハーーーー!」
「あっははははははは!!」
俺の盛大な鼻血と共にアイナの大笑いがけたたましく響いた。
「遊んでる場合かぁぁぁ!!」
「あっははははははは!!」
「笑いすぎだ!!」
俺はポケットティッシュを取り出して両鼻に突っ込んでから「まったく、やれやれだぜ」と一人愚痴る。
そして、あまりにもアイナが笑うものだから、こちらも笑いが移ってしまい、「ふふっ」と俺も笑ってしまった。
結局、アイナの右手にタッチしてから、『10』をもらった。これで俺は
『1、8、6』
の残り対象3枚。
アイナが
『3、4、A』
の残り対象3枚。
アイナも少しは気持ちが落ち着いて来ているのだろう(少し落ち着きすぎな気もするが)。
でも、このままじゃ、クリアは出来ない。
他の仲間と。。。ユキトたちと合流しなくちゃ。