第3話 ケイジュはカードゲームで悪気を抱いちゃいました!?(1)
一つ一つの物語という名の線が、一つに交差する。交差した点が、終局を奏で始める。
これはその一つの線である。
ケイジュ編(1)
『な。。。何が起こった。。。?』
心の中で叫んだ。このケイジュ様が。。。ケンゴが突然消えて、ケンゴの妹が叫んで、それでもシンジは冷静でいやがる。
デスゲームだと。。。子供が遊ぶテレビゲームじゃあるまいし、冗談じゃない。。。
何か帰る方法があるはずだ。。。入ってきたんだ、出ることだって可能なはずだ。
オレが、このオレが、このオレケイジュ様が一番に抜け出してやる。。。そして、アイナも救い出して、アイナをオレ様のモノにしてやる。。。
そうさ、ここに来るまでも、シンジをずっと羨ましくて睨んでいた。あいつは、いつもアイナとイチャイチャしやがる。。。このケイジュ様を差し置いて。本当はオレ様の横にこそ来るべきなんだ、アイナは。
あのサラサラの流れる天の川を思わせる銀髪、何者も寄せ付けない凛とした瞳、透き通る肌、いつも物事をハッキリと言うシャキッとした性格、その上で人を不快にさせない器量。何より、たわわなメロン2つ。。。んーーっゴホン!
とにかく、アイナはおれにこそ相応しい。なのにいつも、アイナは。。。シンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジ。
馬鹿みたぁい。
いや、アイナは馬鹿ではない。シンジが馬鹿なのだ。
だからこそ、許せん!ここで、オレ様が実にカッコいい人間であるかを証明し、シンジがいかにオレより優れていないかを証明してやる。
ケイジュより優れたシンジはいらぬ!!
(兄弟ではない)
凍てついた空気の中、仮面少女は語った。
「説明は以上ですが、質問がある方はいらっしゃいませんか?」
ここだ!ここでバシッと役立つことを聞いて、アイナの役に立つ!おれはスッと手を挙げつつ口を開く。
「質問いいか?」
「はい、どうぞ。」
「まず、全部で10人。。。今は9人だが、結局は仲間割れしろってことか?仲間を犠牲にせずにクリアする方法はないのか?」
くっくっくっ。あるわけないだろうけどな。好感度アップってやつだ。
「ふふっ。ありますよ。」
「な。。。なに!?」
心を見透かされたように、穏やかな声色で仮面少女は言った。口元しか目えないが、あの仮面の下では絶対に笑ってやがる。。。
「CPUにも皆さんと同じようにカードをお配りしています。更に、CPUはカードを全て使い切った場合、CPUから引くことの出来るカードは、皆さまのバインダーからランダムで選定されます。CPUを利用すれば、仮に皆さま方のカードが行き詰まったとしても、カードの枚数を減らすことが出来ますし、2枚以上消滅していた方がそのランダム対象者に選ばれた場合は、クリアⅡ一歩近付けるようになっています。。。。さらに。。。」
仮面少女は妖艶な声色で続けた。
「さらに、私たちも参加します。私たちは、基本クリアとは無縁の存在。取っても誰も損をしないので、オススメです。ただし、一応女性ですので、お胸を触るときはデリケートにお願いしますね。」
「笑えない冗談だ。。。それに、その胸じゃ、どこから胴体か分かんないぜ。。。おれはデカいほうが好みなんでな。」
「。。。。。。。。。」
俺は仮面少女の冗談(かどうかも分からない返答)に素直に返したが、仮面少女も、胸の大きさを指摘されたのが癇に障ったらしく、笑みを止めた。
仮に仲間内で争わない可能性があったとしても、同じ数字が揃わなければ意味がない。全員がどの数字を持っているか分かれば簡単だが、命が掛かっている以上、もう誰も手札を見せ合おうなんてことにはならないはずだ。。。
ケンゴめ、随分と余計なことをしてくれたぜ。これで、俺たちは死ぬかもしれない。。。少なくとも足首持っていかれて生きてますとは到底思えない状態を見せつけてくれたおかげで、かなり疑心暗鬼になっちまったぜ。
手元のカードは数字がまだ見えない。おそらくゲームスタートと同時に見えるようになるのだろう。仕方ない、あまり全員に与えたくない情報だが、聞いておいてやるか。。。
「質問も一ついいか?」
「はい、どうぞ。」
2回目だろうと仮面少女に苛立ちの色は感じない。
「ある程度の人数で協力プレイは出来るのかい?2人で一緒にカードを集めたりとかさ。」
仮面少女は明るい声色で快活に、両手を合わせて答える。
「それは勿論でございます。皆様が全員で無事にクリア出来る事を私達はお祈りしております。」
「そうかい、ありがとよ。」
俺はそう返して、アイナを見る。ゲームスタートと同時にアイナとシンジに相談してやるか。なあに、頃合いを見てシンジのカードは全て奪ってリタイアさせちまえば、残ったアイナはおれと行動せざるを得ない。
またコホンと仮面少女が咳払いをする。
「それでは、ゲームを開始します。皆さん、がんばってくださいね!」
そう言った瞬間、今度は閃光が走ったあと、また目の前が真っ暗になる。気がつけば空の明かりが目に入ってくる。
ここはどうやら森のようだ。背中にも風景は続いているが、見えない壁があるらしく、これ以上先へは行けない。てっきり、さっきの大部屋でやるものだと思ったが、冷静に考えればそんなはずがないか。。。CPUがどーとか言ってたくらいだしな。。。街に降りればかなりの人間やらCPUやらがいるはずだ。そう考えると、オレたちは、かなり広いフィールドで俺やりとりする必要があるようだ。
辺りを見渡すと、ウヅキ、コウヤ(その他3人の1人)とおれの3人しか近くにいなかった。
くそっ!!アイナとはぐれた!あの時近くにいた者同士がグループ分けされたのか。
仕方がない、バインダーとやらを確認するか。。。なるほど、なんてことはない、右上に表示されているではないか。五体に適当にセットして、準備完了。。。か。時計もあるな。。。2つ?まあいい。
それにしても、アイナとはぐれた。。。か。。。くっくっくっ。。。
「。。。だが。」
俺はそう声を漏らしたあと、おそらくとてつもなく冷徹にニヤけてた。。。それはそれで都合がいいなあ。カードをある程度消滅させたあとに2人と合流、色々あったと思わせてシンジを、リタイヤさせてしまえば。。。あとは。。。「思い通り!」
ふと我に返る。
「はっ!」
そんなことを考えている内に、ウヅキはやれやれと言った表情でこちらを見ながら、腕組みをして首を振っている。コウヤは、少し困った表情で、両手を胸の近くに構えておどおどしていた。
コホンと咳払いをして、俺は二人に口を開いた。
「なあ、どうだろう。ひとまずこの3人で組まないか?手札を見せ合って消せるものは消してさ。協力して皆でクリア目指そうぜ!」
とても快活に、これまで(この状況になって)で一番のスマイル(のつもり)をした。
「ま。。。まぁ、いいんじゃないかな。。。」
コウヤが小さく答えた。
よしっ。あと一人だ。ウヅキは。。。
「おれは断る。お前とは組まない。」
腕を組んだまま、ウヅキは一言そういった。
「な。。。なんでだよ。」
この俺の誘いを断るとは、思っていなかった。理由だ。理由を聞かなければ。
「それはな。。。」
「次にお前は、その理由は?と聞くだろう。」
間髪入れずにウヅキは話した。
「な。。。なに!?」
だってその通りであろう。。。この状況で、一人ほど不利なものはない。
先程までの話しを聞いていなかったのか?どう考えても3人で行動するほうが有利だ。(おれは2人を利用してアイナとさえクリアできればいいが)それでも、ウヅキにとってもそれなりに有利なところはあるはず。現にコウヤは一緒に来ることを提案している。
考えている内に、またウヅキはやれやれと言った表情でこちらを見ながら、腕組みをして首を振りながらゆっくりと口を開いた。
「お前の考えている事などだいたい想像が付く。正直一人の方がマシだ。コウヤも一人の方がかえって安全かもしれんぞ?」
そう言ってウヅキはコウヤを見た。
「いや。。。僕はケイジュくんと行くよ。」
コウヤはそう言って首を振った。
ウヅキは残念そうに返答する。
「そうか、残念だ。まあ好きにしろ。じゃあ、二人ともおれは行くよ。」
ウヅキは踵を返すと街の方に歩みを進める。
「そうかよ、勝手にしろ。」
俺はウヅキにそう言うと、コウヤの方を改めて向く。その時、「あっ」と何かを言い忘れたように言ったウヅキが少しだけ振り向く。おれも「まだ何かあんのか」と返す。
「お前が妄想でニヤニヤしている間に、お前の右腕に触れておいた。じゃあな。」
そう言って再び踵を返すと、ウヅキは森の中に消えて行った。
「あのやろおおおお!いつのまにいいい!」
ただ叫ぶ俺を、まぁあぁと落ち着かせるコウヤが、妙に腹立たしかった。