第2話 友達とカードゲームに参加しちゃいました!?(2)
一つ一つの物語という名の線が、一つに交差する。交差した点が、終局を奏で始める。
これは、その線の始まりである。
シンジ編(2)
俺が入口の扉を開け、カードゲーム尾形に足を踏み入れた刹那だったと思う。突然、目の前が真っ暗になる。俺は一瞬、地に足がついているのさえ分からない感覚に襲われる。互いの顔も声も聞こえない状態になる。他の友達たちも同じ状況なのか、そして無事なのかも分からない。
真っ暗な視界の中、俺は遠くに光が見えてくる。光が、だんだんと近付いてくるのか、俺が光に近づいているのかは分からないけれど、視界も感覚もはっきりしてくる。地に足が付いた感覚が蘇る。
部屋の明かりが付いたように視界が広がる。先程の暗闇が嘘のように、けれど、およそカードゲームを行うようには思えない、何も無い広い空間に全員足を踏み入れている。
俺たちは、何も無い広い部屋の入口にいつの間にか立たされている。もちろん、カードゲーム尾形の扉は、入口のドアしか開けた記憶はない。しかも、俺が見た店先よりも、明らかにこの部屋は広い。
俺が全員の確認をするために、キョロキョロとあたりを見回すと、皆同じような動作をしている。どうやら、同じような感覚に襲われ、そして互いの無事を確認しているようである。
ここはどこなのか、どうやってこんなところに来たのか、言いたいことは山程あるが、声が出てこない。けれど、どうやら、いなくなった人はいないようである。
「ふーっ」と俺は少し落ち着いて深呼吸をする。入った覚えのない入口が後ろにある。そして、部屋の正面にも入口らしきものがあり、その前には3人の仮面を被った人物が不気味に立っていた。背格好を見る限り女の子のように見えるが、詳細は分からない。
ゆっくりとこちらへ近づき、おれたちから2メートル付近のところで立ち止まる。
「ようこそ、カードゲームの館王牙へ。」
仮面のをした3人が、口を揃えてゆっくりと話す。
声を聞く限り少女のようだが、それ以前に聞き間違いが、尾形ではなく、王牙と言った用に聞こえる。
「王牙?尾形ではないのか。。。?」
隣のユキトにコソッと訪ねてみる。
ユキトは少し考えるように親指と人差指を顎にやり、ぽそっと口を開く。
「さっき少し話した本当の名前じゃないって噂は本当だったのかもね。。。王牙って名前にも意味があるかも。。。とにかく、相手の出方を待とう。」
「そうだな。。。」
俺も、ユキトも、お互いにうんと頷いて相手を改めて見る。
しかし、ユキトよ。。。こんな状況でもテンパってないなあ。。。。流石目指すは動けるポッチャリ系(関係ない)、おれはもう鼻血が出そうなくらい、テンパってるって言うのに。。。
けれど。。。おれの袖を掴んで震えているアイナがいるから。。。おれはテンパるわけにはいかない。。。
たまにスライムがむぎゅってなるからそっちの意味でも鼻血がピンチです。。。あふっ。
ユキトが「シンジ、お前、なんだかんだ余裕あるよな。。。」って言ってくるが、気にしない。
なんとか、鼻血を我慢して、相手を改めてちゃんと見てみる。和風な出で立ち、少女の声ではあるが、何処か不気味さを感じる声色である。
仮面はよく見ると狐面に近い物である。口元だけは見えるが、笑っているのか、哀しんでいるのか、怒っているのか、表情が分からない。
俺が3人の彼女らを見ていると、真ん中の仮面少女が、右手を正面に差し出す。仮面少女の口元が一瞬緩んだように見えると、右手の指を鳴らす。鳴らした音に合わせるように、俺たちの目の前に一瞬雷のような音と共に光が走ると、身体の前に5枚のカードを渡されいた。電子的なイメージで、他のメンバーにも同様に渡されたようである。
俺は「一体、どんなカードゲームをするつもりなんだ。。。。」と、思っていると、右手側の仮面少女が一歩前に出る。
「まずは手元のカードをご覧ください。単純に数字が書いているはずです。数字は全部で1〜Kまであります。トランプと同じです。2つ揃えば消滅します。。。。全部で52枚、これらを揃えるゲームです。」
仮面少女は、最後の一言だけ、一層ドス黒い声色で語る。仮面越しでも、不敵な笑みを浮かべていることが、口元だけではっきりと分かる。
右の仮面少女が一歩引くと、次は左の仮面少女が一歩前に出る。
「お渡しした5枚のカードは、これからお配りする専用のカードホルダーに吸い込まれます。
カードホルダーには、今お配りした5枚のカードが浮き上がります。ルールは簡単です。【ババ抜き】です。神経衰弱と考えても要領は一緒です。同じ数字を揃えて行き、無くなった方はその時点でこの空間から離脱、クリアでございます。
カードを持っている人は、参加者である貴方達10人の他にもNPCと呼ばれる疑似プレイヤーが参加します。疑似プレイヤーといっても皆様と同様、人間と変わりません。また、いくつかカードを所持しています。決して、乱暴しないでくださいね。
なお、バインダーを持ってる方が近くにいたら、持ってる本人にだけ警告音が流れます。皆さま方お友達同時で争うとは思いませんが、音が鳴ったときは注意くださいまし。」
左の仮面少女が一歩戻ると、コホン、と真ん中の少女が咳払いの後に語りだす。
「人には見えないバインダーに入っておりますので、皆さんには対象者のある位置に触れることで、相手のカードを獲ることが出来ます。
右腕。
左腕。
胴体。
右足。
左足。
ゲーム対象者の皆さんは、この5箇所に、予めカードを設定してください。設定された状態で何処か一箇所、相手に触れれば自動的にバインダーに収納されます。これを相手からカードを引くと考えてください。カードは、揃っていることを本人が確認すれば、その場で自動的にバインダーから消滅します。逆に相手に触れられれば設定されたカードを奪われます。
また、ゲームスタートから、1時間以内に必ず必要数設定してください。設定しない場合はペナルティがありますのでご注意ください。時間についてはバインダーに時計機能も付いていますのでご活用ください。
なお、バインダーの容量は全部で8枚です。それ以上は持てません。捨てることもできません。
また、相手から1枚カードを引いたあとは、他の誰かに自分のカードを引いてもらわなければ、次のカードを引くことは出来ません。なお、所持していたカードが無くなった場合、消滅した枚数が5枚未満であってもクリアとなります。但し、少なくとも3枚以上消滅させることなく持ち手が0枚になった場合は、ゲームオーバーです。手持ちが8枚の状態で相手からカードを引き、消滅させることなく9枚目となった場合もゲームオーバーです。
他にも、いくつかルールはございますが、残りは各自バインダーから確認してください。
一旦、以上となりますが、質問はありますか?」
ここで、ケンゴがちゃんと手を挙げつつ、正面から口火を切る。
「あるに決まってるだろ!なんだ、そのなんとか?ってルールは!おふざけでも大概だぜ!コリコリに凝り固まったルール作ってからに。今の状況、他の誰かを蹴落としてクリアしろって言ってるようなもんばい、クリアできるわけなかろーもん!!せからしかっ!おれは降りるばい!」
真ん中の仮面少女は、赤子を愛でるような、優しい声色で、微笑むように答える。
「カードはトランプ同様に52枚あります。少なくとも同じ数字が同じだけ存在しているのですから、クリアされた方が増えれば、自ずと分母も減っていきます。そこまで重く考えなくても良いのでは?」
真ん中の仮面少女は言い終えると、優しかった空気が急激に冷たくなるのを感じる。
「ところで。。。。」
仮面の下は凍てついた瞳で見ているのがわかる程、冷たい静かな声色に変わる。
「降りる。。。とは。。。?」
凍てついた声色に少し驚きながらもケンゴは続ける。
「お。。。降りるは、降りるだ!ゲームを、スタートする前なら、おれのカードは他のメンバーに分配されるっちゃろ。どげんか!これでおれは残り0枚ばい。お前たちの言う負けになるばい。どうなるんか。」
「はい。負けでございますね。では、いただきます。」
「ぐら。。。 」
。。。その一言だけケンゴは残し、その場から消滅した。いや、正確には靴とその中身と僅かな血を残して。。。
「き。。。きゃああああ!!」
アイナが叫んだ。
「お、お兄ちゃん!お兄ちゃぁぁぁあん!」
「落ち着けアイナ!。。。おい、ケンゴを何処へやった!?」
真ん中の仮面少女の空気はもう戻り、ゆっくりと語りだした。
「何処へ?。。。負けた方はもちろん、現実世界に戻れませんよ?負けた。。。ゲームオーバーの代償としては当然の義務だと思いますが。。。」
「なん。。。だと。。。」
「自分のペースでやっていただければよかったのですが、残念です。」
仮面少女は「あっ」として付け加える。
「なお、このゲームはババ抜きではありますが、失敗、つまりゲームオーバーになると、命を落とすデスゲームとなっております。ご注意ください。」
仮面少女は、まるで「ちょっとそこのお醤油取って」みたいな感覚で、とんでもないことをやすやすと言って述べた。
「さあ、もうゲームを始めで宜しいですか?」
俺たちは。。。ただのカードゲームなんかじゃない。。。カードのデスゲームに参加させられてしまったようだ。。。