第13話 シンジは友達を助けることにしちゃいました!?(3)
一つ一つの物語という名の線が、一つに交差する。
物語という名の線が、一つに交差し、
交差した点は、終局を奏で始める。
シンジ編-発動-(3)
ライトがどこまで気付いているのかは分からない。けれど、俺とアイナはシオンを救出すべく忍び寄る。
シオンを救いたいと願うその時、不思議なことが起こった。俺の目の前に、これまで見えていたものとは違う、線のようなものが見えるようになった。真っ直ぐに、時にカクカク曲がり、そしてシオンの元へ紡ぐその線は、「このルートでいけば大丈夫」だと確信させる。俺だけに見えるこの超常的な何かだった。
この超常的な何かが、シオンを助けられると思えた刹那、俺は勢い良く飛び出した。俺の身体は、背中から風に煽られているような感覚になり、凄まじいスピードでシオンに近付く。途中でライトが俺に気付いてシオンを抱きかかえようとすると、目に見えているこの線は角度を変える。俺は、線に従い再び距離を詰める。
まるで、獲物を狙うチーターのように、俺はライトからシオンを奪い取る。俺の走った後は、俺にしか見えなかった線が形となって現れて、そして陽炎のように消えていく。
「君がいたことは分かっていたよ!シンジくん!」
ライトが唐突に叫び、俺に手を向ける。すると、プラズマのようなものが走り、シオンを掴んで走っている俺の左腕に当たる。このプラズマは何なんだろう、けれど思い切り殴られたような痛みに襲われ、シオンから手を離してしまう。
「けれど、これも、予想のうちだ。」
俺は独り言を呟きながらニヤリとする。その瞬間にユキトが高速で追いかけてきて、シオンを再び腕に抱く。シオンは現状について行けないのか、俺とユキトを交互に見やる。
「えっと。。。、その、あれ。。。。」
「遅くなってすまん、なんとかなりそうだったから助けに来た。」
なんとかならない場合は助けないのか、とツッコミを食らいそうだけれど、ひとまずシオンを安心させたくて、てきとうに放った一言だった。それを見かねたのかユキトがもう一声シオンに掛ける。
「何とかならなくても助けに来たよ。大丈夫だったかい?シオン?」
シオンは涙目になりながら、うんうんと頷く。
「私。。。、何もできなくて。。。、スバルさんが。。。、ライトさんに。。。。」
その言葉と、スバルが今ここにいないことからだいたい察しはつく。
「分かった。ひとまず、こっちへ。」
俺とユキトは、アイナとアズサの下へ合流すると、改めてライトを見やる。これまで見たことない表情のライトに少し畏怖する。笑っている。何もなかったかのように。これまで見たことない笑みで。
「二人とも、シオンのナイト様のつもりかい?彼女は望んで僕と一緒にいたんだ。それを横から掻っ攫うとは。図々しいにも程があるじゃないかなあ。」
笑みを浮かべたまま、ライトは饒舌に語った。以前のライトは、気弱でどちらかといえば臆病な性格で、こんなに話せるやつではなかった。
「ちょっと力を手に入れたからといって、調子に乗っているようだな、ライトよ。」
出鼻を挫かれたであろうケイジュが、ここで大きく前に出た。腕を組み、こちらも素敵な笑みを浮かべている。ライトの顔が少し曇るが、笑みは絶やさない。
「ケイジュくんも、僕と同じ側の人間だと思ったけれど、違うのかい?」
「ふん、お前と一緒にするな。そして、大人しくオレ様にお前の持っているカードをよこせ。」
「わぁ。すごい横暴だね。イヤだと言ったら?」
「無理矢理奪うに決まっているだろう。」
二人が戦闘態勢に入りそうなので、シオンたちと一緒に更に距離を取る。だが、確認したいことがある。俺は、ケイジュの横に並びライトを見やる。
「ライト。。。、俺たちと双方が分かり合う道はないのか?」
ライトは俺の言葉を聞いた後、少し顔を曇らせる。その後に、青筋が見えるような困り顔で、けれど笑みを浮かべて、こちらを見やる。
「そんなもの、あるわけないじゃないか。僕は君のこともキライだよ、シンジくん。あぁ、そうだ、昔からそうだ、何かと僕に優しくする。その優しさが僕は大嫌いだった。それなのに、君はそうやって上から目線で、僕のことを可哀想な奴だと決め込んで、あれやこれやとやってくれる。僕がひとりぼっちだから?違うよ、僕は一人が良かったんだ。なのに、君はどうだ?友達の輪に加える?一人は寂しい?俺の仲間になれ?何様のつもりなんだ。僕には僕の生き方があるんだ。だから、僕は一人なんだ。友達はいらない、一人は寂しくない。君の仲間にもならない。僕は、僕が思うように生きる。だってそうだろう?シンジくん、君という存在が僕に必要ないと思うのは、君にとっても僕という存在が必要ないからだ。それが分からないのかい?いや、分からないな。僕には分からないよ。まったく分からないんだよ!それだけ嫌な存在だということを自覚してよシンジくん!アハハハっ!これで分かったかい?!」
ライトが長い長い言葉を吐いた。彼の異常さを改めて感じ取ることが出来る。そして、俺の交渉などに聞く耳を持たないことも。
「分かったよ。俺が大好きってことがな。」
嫌味で言ったつもりだが、全く嫌味になっていないことに口にしてから気付く。まさか、ここまで変わるものなのか。たしかに、俺も身体に湧き上がる確かな力を感じる。けれど、だったそれだけで、変われるものなのか?まるで別人のように感じる。
「けれど。」
ライトは一言口にすると、ライトは俺ではなくシオンに視線をやる。その視線に気付き、俺もシオンに目線を送る。シオンを見るライトの表情は少し明るくなり、また口を開く。
「けれど、シオンは赦すよ。彼女は初めて僕に優しくしてくれた人なんだ。それに、彼女も僕に逆らわずに今も付いてきてくれたんだ。僕は一人だけど、彼女、シオンだけは伴侶として僕の隣にいて欲しいと思う。もちろん、彼女も同じ気持ちのはずだ。」
シオンの顔が、一気に青ざめる。アイナとアズサに肩を抱かれながらワナワナと震えている。
同じ気持ちなわけがない。
ふとケイジュを見てみると、いい加減痺れを切らしたのか、腕組をやめて、カードを取るように右手を構える。
「オレ様には、お前が一人だろうと一人じゃなかろうと関係ない。このゲームをクリア出来ればな。」
ケイジュはそう言うと、右手の親指と人指指でカードを掴む仕草をする。
まぁ、おそらく、アイナと一緒に、と考えているだろうな。。。。
「ひとまず、アイナをクリアさせるために、お前の持っているカードをいただこうか!」
そう言った刹那、ケイジュは一気にライトの懐に入る。ケイジュは、腹をガードするライトの裏を読み、その拳を顔に移動させる。ライトは腹から顔へのガードが間に合わず、直撃を食らったように見える。けれど、殴られたところからプラズマのような光が走る。殴られたライトはそのまま後方へ吹っ飛びながらも、プラズマで覆われながら、軒並みの壁に激突する。
ケイジュは、殴り抜いたポーズを解くと、首をゴキゴキと鳴らしながら、飛んでいったライトを見やる。
「これで終わりか?呆気ないな。だが、呆気なかろうと、あろうと、戦闘不能になった奴のカードは見える、好きなだけ奪える、とバインダーの説明にあった。お前の手札を全て見せてもらおうか。」
吹っ飛んだライトは崩れた壁に埋もれていた。普通の人間であれば、重傷であるが、今の俺たちには、そんなにダメージはないだろうと確信している。おそらく、ケイジュも考えているはずだ。それに、先程ライトが殴られたとき、プラズマが走っているのを見た。そのプラズマを全身に覆って、ダメージを軽減している可能性もある。
そんなことを考えていたら、壊れた壁を吹き飛ばし、プラズマに覆われたライトが出てきた。今度はプラズマで作った剣のようなもの、プラズマソードを右手に携えている。
悠然と歩いてきたライトは、頬に少しだけあざがあり、口を切っているのか、少し血が出ている。
「ちょっとだけ、痛かったよ、ケイジュくん。。。。」
「ちっ、ちょっとだけだと。」
「ちょっとでも。。。、痛かったんだよ。。。、痛かったんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」
ライトが叫びながらプラズマソードを構えてケイジュに突進してくる。油断していたのか、ケイジュは、何とかプラズマソードを避けるが、腹に食らう。
「くっ。。。!」
その後もライトの攻撃は止むことは無いが、ケイジュはそれらを全てかわして見せる。最初の一撃以外、ライトの攻撃は当たらず、ライトは1人愚痴る。
「くっ、当たりさえすれば。。。。」
ケイジュはニヤッと不敵な笑みを受かべる。
「当ててみろよ。」
挑発しているケイジュであるが、かわすのが精一杯に見える。いや、それとも勝機を伺っているのかもしれない。
「これならぁぁぁ!」
再びライトが叫ぶと、両手にプラズマソードを構えている。二本のプラズマソードでケイジュに襲いかかるが、やはりケイジュはそれらをかわしていく。ケイジュは一体何故あれ程の攻撃を避けられるのか。それが、あいつの【能力】なのかもしれない。。。。
「悪いがここらで終わらせてもらう。」
ケイジュはそう呟くと、ライトの攻撃をひらりとかわして懐に飛び込むと、右足が地面にめり込むほど力を込めた。
「【必殺の槍】」
ケイジュがそう呟くと、鋭い左足がライトの腹部に刺さる。右足から左足まで真っ直ぐに伸びた様は、まさに槍そのものであった。
「ぐっはぁっ!」
ライトはその勢いで天高く舞い上がる。ケイジュは踵を返すと、その後ろにライトが、落ちてくる。
「必殺の名は伊達じゃないんだよ。」
すごい、圧勝である。俺はケイジュに近寄り声を掛ける。
「お前、いつの間にそんな必殺技使えるようになったんだ?」
「いつの間にってか、【能力】の説明欄にあったものを使っただけだ。お前だってあるだろう?」
「え、あるのか。。。。」
「お前。。。、今ならオレ様はお前に勝てるぞ。。。。」
「駄目駄目。ちゃんとトドメささなくちゃ♪」
「!!?」
急に聞き慣れない声が聞こえてきて全員が驚く。
狐面をかぶった女。。。、狐面の一人のうちのどちらかがいきなり現れた。ライトの目の前に。
「よいしょっと♪」
「!!」
アリでも踏み潰すかのように、意識の無いライトの心臓を持っていた鎌で突き刺す。ライトが一瞬ビクンとなり、意識を取り戻す。
「な。。。、これ。。。、たすけ。。。。」
そう呟きながら、デジタル処理のような消え方をした。
なんだ、この消え方は。。。。まるでゲームそのものだ。。。。
「今の見て。。。、てかもう分かっちゃってる人もいると思うけどぉ、この世界、VRMMOだよ♪」
「!!」
アズサを除く全員が、驚くと同時に安堵するのを感じる。ゲームの世界なのであれば、ここで死んでも本当に死ぬわけではないはず。アズサは知らなかったのか?初めて聞いたという表情をきている。
安堵した、そう、思ったのを見越したかのように、狐面の口元は怪しく微笑む。
「でもぉ、ここで死んだらぁ、ちゃんと死ねるから安心してねぇ♪」